僕らはすこし懐疑的になりすぎているのかもしれない
僕らはいつも懐疑的になりすぎるきらいがあるように思う。
たとえば、「一生懸命働けば、きっとどこかで誰かが見ている。毎日ベストを尽くしていれば、道を間違えるはずがない」とか、「ほんの小さな親切が誰かの人生をよい方向に劇的に変えてしまう」とかいうことは、ほんとうだろうかと、時々考えてしまうのだ。
リカルドさんは20才の時、ハイチからフィラデルフィアにやってきた。
彼の父がフィラデルフィアでタクシー運転手をしており、その稼ぎをハイチにいる家族に仕送りしていた。ハイチにはほとんど仕事がなく、リカルドも同じことをするようにと父が手配したのだった。
しかし、リカルドさんは英語がまったくできず、3か月というもの誰も雇ってくれなかった。
そのことを父が見知らぬ乗客にこぼしたところ、その乗客はリカルドさんをある場所に来させるようにと言い、彼を知り合いのサラダワークスというチェーン店のオーナーのところへ連れて行って、雇ってくれるように頼んだ。
リカルドさんはその乗客のおかげでサラダワークスに皿洗いとしての職を得た。
彼は懸命に働いた。
サラダワークスでフルタイムで働き、英語の勉強をし、夜はタクシー運転手として働き、家に仕送りをしながら、将来の独立資金を貯め始めた。
彼は店長に、店のマネージャーをさせて欲しいと頼んだ。店長は英語力に不安のあるリカルドさんの技量に半信半疑だったが、60日間のトライアル期間を与えることにした。
リカルドさんはすぐに、最高のマネージャーであることを証明した。
彼のことは上層部も知ることとなり、彼をコマーシャルに起用すると言ってきた。
彼は断ったが、ついに社長が直々に電話をしてきて受けるようにと言われ、ついに彼も受けることにした。
しかし、じつはそれは「Food Network」という隠しカメラによるTVショーのための芝居であった。
全チェーン店から選抜された彼を含む4人のマネージャーたちは、自分の店以外のどこかの店に一日派遣されて、そこで仕組まれた様々な難しい状況に対応を迫られ、その対応を逐一カメラに収められたのである。
優勝したのは、どんな状況下にあっても笑顔を絶やさなかったリカルドさんだった。
賞としてリカルドさんが得たのは、「サラダワークスのひとつの店」であった。
いまやリカルドさんはサラダワークスのオーナー店長なのである。
まったく英語ができないまま、ハイチからフィラデルフィアに来て13年、彼はまさにアメリカンドリームを達成したのである。
「一生懸命働けば、きっとどこかで誰かが見ている。毎日ベストを尽くしていれば、道を間違えるはずがない」
メディアにそう語ったのは、このリカルドさんなのである。
そして、彼をサラダワークスへ連れて行き、雇ってくれるように頼んだ乗客、彼のアメリカンドリームへの階段の扉を開いた人は、リカルドさんに名前も連絡先も教えることを拒んで去っていったままである。
あたりまえのことをしただけだから、という言葉を残して。
*2014年1月17日に掲載されたこちらの記事から情報を得ました。
Phiradelphia success story
Photo "Philadelphia skyline from BFB" by Gene Tobia