マイクロソフトが人事評価の重点を「個人業績」から「協力」と「成長」へ舵を切ったぞ!
この12日(2013年11月12日)、マイクロソフトの人事担当重役Lisa Brummel氏が、全世界の社員に送ったメモで、マイクロソフトは今後、「個人業績」よりも、チームへの貢献度、チームとの協同、個人の成長に重点を置く人事制度に刷新すると宣言した。(参照元ーメモの全文もあります)
詳しい内容は他のニュースメディアにお任せするとして、マイクロソフトが何を変えようとしているのか、僕なりに紹介したい。
彼女のメモの中に、「No more Curve」「No more ratings」とあるが、その意味は、マイクロソフトがいままで採用してきた、stack-rankingというマネジメントスタイルを辞めるということだ。
stack-ranking(もしくは、Vitality curve)が何かと言うと、ジャック・ウェルチ氏が有名にした評価モデルで、20-70-10システムとも呼ばれる。
どんな組織も、そのメンバーは20-70-10に分けることができるという。
メンバーのトップ20%がもっとも収益を生むAプレイヤー。70%は普通のBプレイヤー。最下位10%は収益を生まないCプレイヤーである。
この評価モデルでは、どんな組織でも、かならず10%のCプレイヤーが生まれるということになっている。
そして、ジャック・ウェルチ氏は、収益を生まないCプレイヤーは解雇して、新しい人を雇い入れるべきであるという。
マイクロソフトはいままでこの評価モデルを採用してきた。
Cプレイヤーを解雇してきたのかどうか、そのあたりの実態は知らない。だが、ボーナスの分配や人事評価はこの考え方をベースにしており、その弊害も出てきていたようだ。
下に貼った動画を見てもよくわかるように、このモデルはできる個人を大きく鼓舞するが、チームの成績よりも個人成績、長期間の業績よりも短期間の業績に、重きを置き過ぎる弊害がある。
そうでなくても人間は、「周囲よりも優れたい」「勝ちたい」「秀でたい」という競争心をエネルギーに仕事をしているのに、このシステムではさらにそれに火を注いでしまうのだ。
たとえば、下の動画にある話では、10の同じ店鋪をもつ会社の例が語られている。
10店をもっとも能率的に運営するには、商品やスタッフの適時の移動、成功例・失敗例の共有、仕入れの共通化によるコストダウンなど、多くの協力・助け合いが必要となる。
だが、もし、10店のマネージャーのうち、毎年1店のマネージャーをCプレイヤーとして解雇して新しいマネージャーを雇入れるとしたらどうなるだろうか。
それぞれの店は協力を拒み、とにかく自店のみの業績の向上を目指すようになる。
おかしな話だが、そうなってしまうと、ライバル店との競争よりも、自社の他店との競争の結果のほうが重要になってしまうのだ。
そして、新しく入ったマネージャーは、9人のマネージャーたちから新しいライバルとみなされ、けっして充分なノウハウを得ることはできないだろう。
もう一度言うが、僕は人事制度の専門家でもマイクロソフト・ウォッチャーでもないので、実際にマイクロソフトがどのようにこの考え方に基づいて人事・マネジメントを運営してきたのか知らない。
だけど、今回のことに大きな希望を見ることができるのは、マイクロソフトという巨大な影響力をもつ会社が、そうした、stack-rankingをバッサリとやめると宣言したからだ。
次年度から、マイクロソフトでは、事前に決められた割合に従って、Bプレイヤーであるとか、Cプレイヤーであるとか、無理矢理に評価されることはないのである。
ほかのアメリカの会社の実態も知らないが、ジャック・ウェルチ氏のマネジメント論は大きな影響力をもっており、多数の企業が彼のこの考え方に基づいてマネジメントされているのであろう。
マイクロソフトが、そいつをお払い箱にしたのである。
僕はこのニュースに大きな光を見る。
アメリカのIT企業も気づいているのだ。
やっぱり、勝ち続ける強いチームに必要なのは、「競争」よりも「協力」なのである。
*イラストは、こちらのVitality curveの解説動画から切り出させていただきました
英語ですがVitality curveの問題点がよくわかります
photo by Esparta