ICHIROYAのブログ

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江戸の古着屋を調べて、現代の衣服・着物について色々考えた(3)

江戸の古着屋を調べて、現代の衣服・着物について色々考えた(1)
江戸の古着屋を調べて、現代の衣服・着物について色々考えた(2)

この記事の最終回。
着物について書くわけだけど、ちょっと、我田引水的な結論になるので、最初にお断りしときます。


さて、着物。
江戸時代は、みんな着物を着ていたから、こんな感じだった。

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新品の着物はすべて手仕事で、庶民の手の届かない高級品。
お金持ちだけが、新品を買う。
そして、それは、古着になって、多くの一般庶民の手に渡る。
それは、手仕事の最高級品が、広い広い一般庶民の衣料というマーケットに支えられて存在していたということを意味する。
たしかに、目に見えては、一般庶民は、新品の着物を買うことはできなかったけど、間接的に、織り手、染め手、縫い手を支えていたといえる。
たとえば、着物の傷みをなおす悉皆屋さんは、シミを落とすだけでなく、染め手が染誤ったものを修正したりもしている。


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で、現代は、こんな感じ。


まず、着物は特別なときにだけ着るものとなり、洋服が衣服の主となった。
洋服では、お金持ちが高級ブランドを買い、庶民はユニクロなどの安い衣料品を買う。
ただし、お金持ちと庶民の買い物の垣根は低くなって、庶民も、たまには、高級ブランドを買うようになった。そもそも、高級ブランドの洋服も、いわば、「工業製品」なので、ブランドを剥ぎとってしまえば、モノそのものは、ユニクロとあんまり変わらない。
だから、価格も、着物の超高級品ほどは高くない。
そして、洋服は、国内ではほとんどリサイクルされず、一部(10%)が、東南アジアなどの国に輸出されて、そこの庶民の普段着となる。


で、着物は、ほんとうに、小さなマーケットになってしまった。
着物業界の総売上が、ユニクロ一社に負けているぐらいだから、実際は、上の図より、もっと差が大きい。
マーケットがおもいっきり縮小したので、江戸時代のように、「手の仕事」を支えてきた土台が、ごっそりなくなってしまった。
しかし、テクノロジーが進んで、底辺がなくても、ある程度は、そのサイズで完結できるような生産体制ができた。
が、おかげで、ぐちゃぐちゃになってしまった。


なにがぐちゃぐちゃかというと、


❐手の仕事によるホンモノの着物は、よほど余裕がないと買えないもののはずなのに、一般庶民でも買えると思われている。


糸から手の仕事からつくって、染めて、織ったものは、職人さん、作家さんの何年もの修行と何ヶ月かの労働によってはじめて可能となる。
一般庶民が買えるはずがない。
しかし、呉服店は、ローンを組めば良いとか、一生の宝ですからとか言って、普通の給料の人たちに、そんな着物を押しこむように売ってきたのだ。
また、買うほうも、ろくに調べもせず、雑誌に紹介されている高級品に憧れて、分不相応なものを買う。
でも、それは、わかりにくいせいもある。


❐手の仕事と機械の仕事。天然素材の仕事と合成素材の仕事の境が、非常にわかりにくくなってしまった。


手紡ぎの糸と紡績糸。織機による織りと居坐機の織り。天然染料による染と、化学染料による染。
業界人でなくてもわかりやすい違いのある場合もあるけれど、機械化されたものの仕事でも、本当に良いものは、業界人の眼をも欺く。一般人には、まず、わからない。
で、買う側は、上に書いたように、「手仕事がBest」で「自分も買えるはず」と思い込んでいるので、呪文のように、「手織りでなくちゃ」「草木染め」でなきゃ、と唱えて品定めする。
売る方は売る方で、曖昧にできるところはなるべく曖昧にして、なるべく、高いものを進める。最悪の場合、「手仕事信仰」を悪用して価値のないものを高く売ったりしてきた。


そして、かつての良き伝統も失われていて

❐着物は新品の反物から自分の体に合わせて仕立てるもの。古着なんてとんでもない

と思う人が多い。
着物も洋服と同じで、まっさらなものを買って、消費していくもの、と思って疑わない。
そして、そういう人に限って、「手の仕事」にこだわったりする。あげく、着物は、高い、となる。
で、ここまで読んでくださったひとは、そんな馬鹿なと思ってくださるはずだ。
まあ、しかし、そんなことが、実際におきていることなのだ。


じゃあ、どうしたら良いのかということだけど、最初に予告したとおり、「もっと、古着の着物を利用しようよ」、「うちで買ってね!」となるのだ。
あなたがお金持ちなら、どんどん、新品の、ホンモノの手の仕事による着物を買って欲しい。
お金持ちにはお金持ちの義務がある。
そう、文化はいつの時代も、あなたたちお金持ちが支えてきたのだ。

そして、あなたが一般庶民なら、「手織りでないと」とか、「絹でないと」とか、「草木染めでないと」などという頭は捨て去って、あなたがほんとうに着たいと思うデザイン、値段のものを買って、気軽に着よう。
ポリエステルでも、プリントでも、可愛ければいいじゃないか!
そして、たまに、ほんとうの手の仕事による着物を着てみたくなったら、古着で探せば良いのだ。
数万円だせば、新品なら数十万とか、100万とかの値札のさがっている、素晴らしい手の仕事、世界に冠たる日本の染織品が手に入る。
日本人が手で紡いだ糸で、天然染料で染めて、手で織り上げた布は、あなたが買える範囲の値段では、新品では買えはしないのだ。
古着でしか、それは買えない。
そして、そうして古着を買うことは、いわば、庶民の義務なのだ。
だって、江戸時代だって、そうやって、庶民は庶民で、着物の文化を支えてきたのだ。


ふふふ。
さあ、古着、ますます買いたくなってきたでしょう?
あなたのオーダー、いつでもお待ちしております!
3回も、長い文章にお付き合いいただき、誠にありがとうございました!