あなたは何色のグレーを見分けることができますか?
その文章ははっきりとは覚えていない。
ジョルジュ・アルマーニの大きなポスターだった。
どんな写真だったか忘れてしまったが、「アルマーニは◯万色のグレーを見分けることができる」という意味のコピーが添えられていた。
(何色だったか忘れたので、とりあえず、1万色として、以下話を進めます)
おお、そうか!
腑に落ちた。
世界最高のデザイナーのひとり、あのシックでエレガントなアルマーニのグレーのスーツは、1万色から選び抜いた色なんだ。
着てみたことはないが!
不思議だけど、ありえる話だな、と思った。
たぶん、科学的に、人間の色の識別能力を測定して、正常色覚のひとの能力に数値的な優劣をつける、ということは、行われていないと思うが、もし、そういうことができれば、アルマーニは常人をはるかに超える数値を叩き出すだろう。
プロ、そして、その道で名を成しているような人たちは、アルマーニの灰色にかぎらず、普通のひとが見えない世界を見ているに違いない。
ささやかな話だけど、たとえば、僕らアンティーク着物の世界だと、たとえば「絹」と「人絹」の見分けなどで、そういうことを実感した。
最初、この世界に入った時、競り市などで、古い着物を見て、「それは絹、それは人絹」と、手に触れもせずに見分ける先輩たちが不思議で仕方がなかった。
なぜわかるんですか、って尋ねると、たいてい返答は、
「色とか、皺の具合とか、デザインとか・・・なんとなく、わかるやん」
正直な話、最初のころ、その先輩たちの台詞が、まったく信じられなかった。
しかし、今では、先輩たちが教えてくれようとしたことが理解できる。
いつのまにか、「絹と人絹の違いが見える」ようになった。
そして、「絹と人絹の違い」は、入門も入門、初歩の初歩で、一流の諸先輩がたは、普通の人にはまったく同じに見える染織品を、何万にも区別して見分けている。
それは論理的に、分析的に見ている、のではなく、感覚的に「見分けている」のである。
僕にどこまで「見える」ようになったかは、とても、ここには書けない。
とにかく、道は長く、先は、はるかに遠い。
それはそうと、僕は何色の灰色を見分けることができるのか、いまだに、気にかかっている。
せいぜい、100色ぐらいかな?
いいや、1万色見分けてやる!
だれか、1万色のグレーのカード持って来い!
・・・・
あなたは何色の灰色を見分けることができますか?
( 写真は 本場結城紬 手引き糸、地機織りの日本最高峰の織物!)