手書きロボットが書いたDMが送られてくる日~手書きの手紙と手織りの布
ここぞという時には、心をこめて手書きの手紙を書く。
手書きには心がこもるもの、そういう風に思っている。
だから、たとえば、手書きの住所の書かれた封筒が送られてきたら、それをソクごみ箱へということはない。なんだろうと思って、封を開けるはずだ。
アメリカでは、そう思って封を開けると、たんに、何かの勧誘だったりすることがあるらしい。
開封率をあげて、読んでもらうための、マーケティング手法のひとつだそうだ。
そのための方法として、たとえば、手書きで宛名や中身を書くサービスがある。日本にもあるそういった代筆のサービスは、筆書きや文字を書くことがとくに上手なひとが書くものだと思うが、アメリカのたとえばこんなサービス’MailLift'は、サンプルを見る限り、ごく普通の丁寧に書かれた文字のように見える。
料金は 宛名のみ3ドル、宛名と中身(35文字)で5ドル、宛名とやや長い中身(50文字)で7ドルである。
もうひとつの方法は、手書きのロボットで何百万円か(ドルで5桁のものらしい)するらしいが、下の動画のようにまるで手書きであるかのような印刷ができる。
Handwrytten Robot in Action! - YouTube
そもそもこの話は、この記事で知ったのだが、おそらく、そういう話を知らない人がこのマシンで書かれた手紙を受け取ると、何の疑いもなく、それは手書きのものと思うだろう。
だが、記事によれば、注意深く見れば、手書きとロボットによるものは、見分けることができるという。
記事を見て欲しいのだが、中程に4枚ほど写真がある。
説明なしにその4枚を見て、どれが手書きでどれがロボットか判別できるかどうか、試して見て欲しい。*1
(1)Smile MailLift 青字 手書き
(2)Jose P. tayior 101 RodRiguez ... 赤字
(3)We offer a variety of .... 青字
(4)Hey Joy, MailLift is now offering.... 青字
記事によると、判別のポイントは、
*ロボットで書かれたものは、どうしても線が均一の筆圧になりがちなので、インクだまりのようなもの、かすれなどが出にくい
*たとえば、「i 」の点を書く時、人間は大きさや位置がぶれるが、ロボットの点は綺麗に揃っている→(3)を見ればよく分かる
*行の端が、とくに右端が揃わない。つまり、単語がいくつ収まるかわからないので、端の余白が少なくなりすぎたり、多くなりすぎたり、単語が大きくなったり、小さくなったりする。
というような点で、いまはなんとか見分けがつくそうだ。
ただし、そういった人間のブレをプログラミングする技術が進みつつあり、そんな判別方法は無意味になる日は、近い将来にやってきそうだ。
で、どういうことになるかと言うと、近い将来、「手書き」の手紙と「ロボット書き」の手紙の見分けができなくなるということだ。
記事には書いてなかったが、たとえば、そのロボットに僕の手紙のサンプルを読み込ませると、ロボットが僕の文字、僕の癖で手紙を書いてくれる日が来るということだ。
それは、ほんとうに、世の中が進歩する、便利になるということなのだろうかと、ちょっと考えてしまう。
ちなみに、この話で僕がすぐに思ったのは、「手織り」と「機械織り」の違いである。おそらく、現在の機械織りの技術は、今の「ハンドライティング・ロボット」と同じで、まだ、完璧には、人間の手のゆらぎや強弱を再現はできないだろう。だから、見る人が見れば、触る人が触れば、手織りの風合いの良さというものは、ある程度判別がつく。だが、将来、たとえば、「結城の無撚り手引きの糸をいざり機で織った場合の『織りのアクション』」をほぼ完璧に再現するプログラミングができるかもしれず、そうなれば、『手織り』であることの意味は、少なくとも、物理的な意味は、完全に失われてしまうのである。
そして、やはり、これは、万人が「結城紬」の素晴らしい手織りの風合いを甘受できるようになるかもしれないという点で、大きな進歩と言わざるをえないのだ。
photo by dotmatchbox