お店を持つというギャンブル~JR大阪三越伊勢丹縮小のニュースに思うこと
不振の続いていたJR大阪三越伊勢丹が大幅縮小を決めたというニュースが数日前に話題になっていた。
三越伊勢丹が梅田に出店すると決まったとき、僕は梅田大丸の営業企画部に在籍しており、非常に不安な気持ちになったことを覚えている。
結果的にJR大阪三越伊勢丹は失敗に終わり、その理由がさまざまに囁かれている。
そもそも、百貨店の強さは、「大きければ大きいほうが良く」「建物の高さは低ければ低いほど良く」「駅から近ければ近いほど良く」「(開業や大規模改装が)新しければ新しいほど良い」という結構単純なルールによって決まるのではないかと思っている。
それを覆すためには、よほどの独特の戦略、真似のできない戦略が必要になるので、新宿伊勢丹本店のような例は、そう簡単には生まれない。
今回の件は、その立地と建物の構造によるところが大きいと思うが、僕がいま書きたいと思っているのはそのことではない。
JR・三越・伊勢丹の最高の頭脳をもってしても今回の梅田出店が失敗したという事実に、いまさらながらに「店」「小売店」をつくることのギャンブル性を痛感するのだ。
今から失敗の理由を探せばいくつでもその理由をあげることはできるが、経営陣が事前にすべて予想できた範囲の話であり、それでも出店したということは論理的には成功の確率が高いと判断していたはずである。
しかし、失敗した。それも惨敗した。
大きなギャンブルにでて、負けてしまったのだ。
自分で商売をはじめなければならなくなった人のためにと思って「絶対に失敗せずに「商売」を始める10のポイント」という記事を書いたときに、一番目に「お店をつくるのはやめよう」と書いた。
「お店」というのは、かくもギャンブルなのだ。小売業界で最高の頭脳も、こんな大きな失敗をしてしまうのである。
僕は「店舗ビジネス」が全部だめ、と言っているわけでは決してなく、「お店をもつことは大きなギャンブルである」という認識をもつべきと思うのだ。
自分の人生、家族の生活がかかっているのなら、リスクは再チャレンジが可能な範囲にとどめるべきであり、「その店を絶対に成功させるんだという精神論」をもとに全財産に借金まで加えてお店をもつのは、正気の沙汰とは思えない。
「お店」を持つことは、そのギャンブルに負けてもすべてを失わない人にのみ許されることだと思う。
どうしても「お店」をもちたければ、負けが許容されるまで資金をストックしてから、トライすれば良い。
百貨店にいたときに、催会場の企画を長くやっていて、痛感したことがある。
催会場という販売に最適な場所でも、よく売れる場所と売れない場所があり、ほんの数メーターの違いで売上が倍になったり半分になったりする。
お客様の導線、歩く速度、商品の見え方、商品内容など、数えきれないほどの要因がそれぞれ微妙に作用しあって、大きく売上を左右するのだ。
同じものを売っていれば変数が半減するので、売上の予測は、まだ立てやすいが、場所も商品も売り方も未知となれば、完全に「やってみなきゃわからない」領域である。
店舗物件を自分で探してみればわかるが、人通りも多く、しかもその人たちに「買い気」がある物件は、成功が約束されているように見えるが、家賃が相当に高い。
そういう物件は、はじめて商売をされる方には、ますます不向きだ。家賃だけでなく設備費とか在庫とか、見栄えを整えようとすれば、さらに必要な資金が増えていく。
かといって、自分の思っている範囲の物件は、建物も古く人通りも少なく、撤退した以前の店の残骸が残っていたりして、とうてい売れそうな気がしない。あるいは、環境も建物もましだけれど、住宅地の真ん中にあったり、ビルの3階だったりする。
よくあるパターンは、仕方がないので後者の店舗を借りる。やっぱり、お客さんが来ない。仕方がないので外販にでたり、ネットショップを始めたりする。そちらがぼつぼつ売れ始めると、お店を常時開いておいて、誰かをおいておくことが、大きな負担になってくる。結局、お店は閉めてしまう。
その場合、お店は閉めても、ビジネスは離陸しているので、それはそれでいいのだが、それだったら最初からお店は不要だったわけだ。
と、まあ、そんなことを考えていても、テレビをつければ、「脱サラして借金してお店を開業しました!」みたいな話がつぎつぎに紹介される。誰か止めなかったのかよと思ってしまう話が多いのだが、みんな必死で突っ走っているから冷静にリスクを直視して考えることができなくなっているのだろう。
お店を持つなとは言わない。
でも、「何がなんでもこの店を成功させます」って言うのは、「何がなんでも今日のパチンコは勝ちます!」って言ってるのとあんまり変わらないってことは、知っておいたほうがよい。
たぶん、みんな、「何がなんでも成功させたい」のは、「お店」ではなくて、形態はどうであれ、その「商売」であるはずなのだ。
PS この記事の「お店」は、飲食店ではなく物販店舗を想定して書きました。飲食店にはあてはまる部分とそうでない部分があると思います。
photo by Kevin Dooley