満月の夜に出産が多いというのは本当か？（ 月の満ち欠けが人間の本能に与える影響 ）

by Onur YILDIRIM (Shadov)


長女のお腹がとっても大きい。
お陰様で順調で、そろそろ生まれそうな感じである。

その長女が言う。

「今日は満月。生まれるかも」
「？」
「満月、もしくは新月の日に出産するひとが多いらしいよ」

そいつは聞き捨てならない。
人間の出産が、月の大きさに左右されるということなど、あっても良いのか。

人間の身体はほとんど水で出来てるし、海があれほどの干満を示すのだから、お産だって影響を受けるんじゃないかな、と娘は言う。

さっそくネットで調べてみた。
検索してすぐに出てきたのは、「gooベイビー」のページ、”「満月の夜にお産が多い」って、ほんとう？”

助産師さんや産科医ドクターの話として、満月の夜はお産が多いことが断定されている。（「月の満ち欠けカレンダーに、お産があった数をつけてみると、 やっぱり満月のときに集中していることが、わかります」（引用））


これを読んで、そうなのか！と合点する。
現場のひとたちがそう言っているのだから、間違いなかろう、と。
そして、もしそうなら、素晴らしいことではないか。
原始の時代、月の明かりが生死を分けた時代の本能が、僕らの身内にまだ息づいているのだ。

しかし、待てよ。
ほんとうにそうなら、統計的な証拠があるはずだ。
誕生日と月齢の関係を調べることは簡単だ。

そして、そのデーターを探した。
が、厚生労働省の誕生日に関するデーターがあるはずなのだが、ネット上では見つけることができず、それを月齢と照合して、科学的な証明をすることができない。
そんな簡単なこと、誰かやってないのか？

仕方がないので、海外の状況を調べてみた。

どうやら、海外でも、満月の夜に出産が多いということが言われているようなのだ。
少なくとも、アメリカでは、日本と同じように産科医やナースなどにそう言う人が多く、一般的には、そのように信じられているようである。

そして、決定的なページを見つけた。

Are there really more births on full moons?（満月に出産が多いのはほんとうか？）


このページによると、月齢と出産に関する様々な調査が行われており、関連性を否定する研究結果が多数報告されており、月と出産の間には関係がないと考えるほうが妥当であると書かれている。

僕が上に書いた統計的な調査をすれば、たぶん、日本でも同じような結果になるであろう。


やはり、満月・新月の夜に出産が多いというのは、迷信に過ぎない。


そして、興味深いなと思うのは、いくら統計が否定しても、現場の助産婦や産科医の一部のひとたちが「満月に出産が多い」と言い、一般のひとたちがそれを信じている、という事実である。

現場で汗かくひとたちの言は、いつも重く、真実に満ちている。
そのひとたちの言葉は、科学的な証拠をも凌駕するチカラをもっているのだ。
そのために、判断を誤るってことが、往々にしてある。

しかし、まあ、この問題に限っては、実生活に問題はなさそうだ。

ひょっとして、助産婦さんやナースたちが、月齢カレンダーを見ながら、人員のシフトを決めているのなら、
「あら、セツコさん、この夜は出勤してね。最低人員はいるけど、ほら、満月なのよ。忙しくなるの」などと言われ、デートが吹っ飛んでしまうかもしれないけれど。


それにしても、思うのだ。
いつでも必要なのは、暖かい心で現場の気持ち、当事者の心境を聞き察することが大事だけれど、一方で、冷静な検証が必要なのだなと。

Cool Head，but Warm Heart.

（冷静な頭脳を持つ一方で、暖かい心を持つ）

アルフレッド・マーシャル、ケインズの師であった経済学者の言葉である。


実際のところ、娘の出産が満月の夜になろうが、そうでなかろうが、どうでもいいのである。
月の満ち欠けを自分の身体に感じて、スムーズに出産できるなら、それを信じてくれていた方が良い。

無事に、安産で生まれてきますように！

（追記）このページ（英語ですが）に、満月の夜の伝説を真面目に検証した調査結果の報告が、まとめられていて面白い。精神病の発生が多い、緊急治療室に運び込まれる人が多い、手術の結果を左右する、などは否定されている。一方、一部に肯定的な調査結果もあるものとして、女性の月経との関連、ペットの事故が多い、ペットに噛まれることが多い、睡眠障害との関連などが上げられている。

(追記２）たったいま、こんなページをみつけました～「満月に出産が多いというのは、統計的に証明される」とおっしゃってます～さて、アメリカの研究と、どちらが正しいのでしょうか・・