ICHIROYAのブログ

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ラブとおばあちゃん




大型犬を飼おう!
なにごとも唐突は我が家は、3年前のある日曜日の朝、家族会議で決した。
ラブラドールレトリーバーか、ゴールデンレトリーバーか。
急なことなので、ブリーダーや知人のツテを辿って、子犬を譲ってもらうというような悠長なことは言っていられない。
近所のペットショップにあたっても、どうやら最近は、大型犬はすこぶる人気がないらしく、小型犬しかおいていない。
娘がネットで調べて、ラブラドールを売っている店を、少し離れたところにみつけた。

さっそく、家族で駆けつける。
ラブは、店頭に、丸く囲んだケージのなかにいた。
イメージしていた子犬では、すでにない。
中型犬の成犬ぐらいの大きさで、ラブの子犬のころころした愛らしさはなく、すでにいたずらっこのような風貌。
あきらかに売れ残ったラブ。

このまま売れ残ったら、この子はどうなるのか。
ペットショップによっては、売れ残りの子犬には過酷な運命が待っているという。

「でも、大型犬、って運動がたいへんですよね。毎日、朝夕、45分、散歩いかないといけないって、書いてあったんだけど」と僕。
「あら、そんなことありませんよ。スタッフのひとりは、もっと大きな犬を、ひとり住まいで飼っています。昼間は勤めているから、ずっとケージの中。問題ありません。散歩も、飼い主が行きたいときに、行きたいだけいったら、それでいいんです」と満面の笑みを浮かべたスタッフ。


いや、ちょっと待て。
そんなことはないだろう。
きっと、僕らがこのラブを引き取らなかったら、「十分に散歩にはいけない境遇」よりも、もっとひどい境遇が待っているかもしれないので、そう言って、何がなんでも売ってしまおうと思っているな。


ともかく、彼女の返答がどうであれ、ラブのモノ言いたげな丸い目に見上げられ、事はすでに決していたのだ。


というわけで、ラブが我が家にやってきた。
その店で、彼女は「ラブ」と呼ばれていた。特別な名前ではなく、「うちでは、ラブラドールレトリーバーは、みんなラブって呼んでます」とのこと。
もう、子犬じゃないし、新しい名前も混乱するかもしれないから、名前もそのまま「ラブ」。

うちに来る車の中で、泣き続けたラブ。
ケージのなかでウンチまみれになって、か細く泣いていたラブ。
甘噛みができず、腕を傷だらけにしたラブ。
本で読んだとおり、床におさえつけて、お腹を噛んで、俺がリーダーだよと教えたラブ。
目につくあらゆるものを噛んで、椅子をつぎつぎダメにしたラブ。
はじめて、車にのせて、ラブと僕だけのドライブ、と思ったら、怯えてウンチをもらしたラブ。
ラブラドールは水泳が上手で水遊びが大好きと聞いて、川に放り込んだら、溺れたラブ。
ドッグランに連れて行ったら、ハスキーなどにいつもいじめられる弱虫のラブ。
なにがあっても、なにが欲しくても、鳴かないラブ。
日曜の朝の遅寝のあいだも、ずっと静かにつきあってくれるラブ。
かならず、誰かに触れて寝るラブ。
家族で集まって話をしていると、真ん中に割り込んできて、自分も話を聞くラブ。


ラブの黒い瞳にじっとみつめられるとき、おばあちゃんのことを思い出す。
僕が小学生高学年のころ。
コタツでむかいに座っていたおばあちゃんが、僕をじっと見つめていた。
ただただ、幸せそうに微笑んで、まっすぐに僕を見て、ずっとずっとそのまま。
小生意気な小学生の僕は、息苦しく感じて、不機嫌に言った
「なに、ずっと見てるんだよ」
おばあちゃんはドギマギして、「あ、ごめん、ごめん」
ごめんね、おばあちゃん。
もちろん、わかっていたんだ。
おばあちゃんがなぜ僕をじっと見つめていたかを。

ラブが来てから、生活はがらりと変わってしまった。
朝45分の散歩は、嫁と娘、夕方45分の散歩は、僕の日課。
そのため、残業はできず、宴会や夜の付き合いもできない。
旅行だって、簡単には行けない。
でも、もちろん、みなラブが来てくれたことをとっても感謝している。
一瞬だって、後悔したことはない。

おばあちゃんは、死んでしまった。
あのときのこと、あやまることもできなかった。

ラブはあっという間に4才。
犬の時間は駆け足で過ぎてゆく。

砂のように手からこぼれ落ちていく時間、
許される限り、
思う存分、
僕らを見つめていてね、ラブ。