ICHIROYAのブログ

元気が出る海外の最新トピックや、ウジウジ考えたこととか、たまに着物のこと! 

★★★当ブログはじつはリサイクル/アンティーク着物屋のブログです。記事をお楽しみいただけましたら最高。いつか、着物が必要になった時に思い出していただければ、なお喜びます!お店はこちらになります。★★★


Kimono Flea Market ICHIROYA's News Letter No.651

 

 

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www.ichiroya.com

 

Dear Ichiroya newsletter readers,

Hello everyone, this is Yoko from Ichiroya.
It is my turn to write the Newsletter this week. Ogenki desuka?

I have been working here at Ichiroya for more than ten years now.
I love working here because there is always something new going on.
We will keep you posted as new projects come in!!

Mei gave a brief introduction about us and here is what I want to say about Mei chan.
By the way, the name Mei reminds me of a movie called My Neighbor Totoro, an anime by Hayao Miyazaki.
Totoro is one of the movies I enjoy watching with my family. The movie is about two young charming sisters, Satsuki and Mei, meeting a spirit-like figure, Totoro.  I will not write more about the movie in case you have not seen it.  hehehehe
If you have not seen it, you should rent one this weekend and watch it with your family.  It is really a good anime. :)
Mei chan in our office is also very charming and super creative, she can turn anything into a drawing, one time she drew the 'Seven Gods' in a matter of minutes.

Well, as Mei mentioned in her newsletter, it is true that I love dogs.  I never told anyone how much I love dogs, but I guess people can tell.  Except the time I lived in overseas, I have always had a dog in my life.

According to my mom, one time when I was a baby (not even walking just started crawling), I guess I was so hungry that
I started to crawl toward the dog food my mom prepared for our dog.  You know how dogs are when it comes to their dish, they DO NOT want to share. Of course, I made my dog upset and got bit(softly I believe) on my arm.  My mom described that I immediately started crying but was still reaching for the dog food even after...
Not everyone loves dogs, I know. Some people are anxious to be near one, especially if they have had a bad experience.
So in my case, my hunger surpassed anxiety....

Speaking of dogs, I do not find many Kimono or Obi with a dog motif, but I noticed that the type of dog I find on vintage obi is mostly Chin.   The Japanese Chin was loved by the fifth Shogun Yoshitsune Tokugawa of Edo era, so it influenced the public as Chin is wealthy people's possession.  Black and white colors of Chin also make a lady in Kimono look very elegant, especially when she is wearing a red Kimono. The contrast of red, black and white must have appealed quite exotic to people in old eras.  
There is a painting of a lady holding a Chin at Kabukiza! Did you know?


https://en.wikipedia.org/wiki/Japanese_Chin
http://www.ichiroya.com/item/list2/257582/
http://www.ichiroya.com/item/list2/322374/


Thank you so much for reading. Until next time!

Wishing you a lovely weekend everyone!

短編小説13 『臭い話』

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                                                                                                 photo by Stan Lupo

「この人は桁外れに凄い、負けったっていう人、磯崎課長にもおられましたか?」
 僕は福島の地酒を磯崎課長のグラスに注ぎながら訊ねた。その種の質問ははじめてではなく、まあ、話の接穂として、辛口の人物評でも引き出そうとして選んだのだ。「単に桁外れに凄い人」であれば、幾人かの答えは容易に想像できた。山根社長、本間営業部長、大井戸管理部長・・・やり手の磯崎課長がいつも名前を出して、褒める人たちである。だが、「負けた人」というのは、存在するだろうか。口当たりの良い地酒を何杯も喉に流し込んでいたので、ついつい危険な領域に踏み込んだかもしれない問いを発してしまった。
「負けたか・・・」
 磯崎課長は、そのゴジラのようないかつい顔で少しの間思案した。
「そういえばな、山喜サービスエリアが改装オープンした時、施設長をやったんだが・・・」
 僕らの会社は高速道路などの道路施設とサービスエリアを管理する会社で、地域ごとにわかれて設立されている会社のひとつだ。上昇志向の人たちから見れば、きっと、限りなく退屈で地味な仕事だと思われているかもしれないが、人々の生活のインフラを支えたり、最近ではショッピングセンター顔負けの店舗で地域の産業の活性化をはかったりと、それなりに魅力のある仕事だと思っている。
 暇さえあれば折り紙をしていた母は、さまざまな職を転々としながら、女手ひとつで僕を育てあげた。社会的な地位とか金銭では恵まれなかったが、ぜがひでも大学に行けと学費まで捻出してくれた母に、ほんとうに感謝している。
「ちょっと、臭い話なんだが・・・いいか?」
 目の前に並べられた美しい郷土料理を眺めながら、僕は頷いた。
「ほら、半年前のリニューアルの時に、グルメコートとかコンビニを入れたし、ドッグランをつくったり、休憩施設も新調したろう。トイレはとくに念入りに作られていた。最新式の自動洗浄式の小便器とか、大理石のような黒塗りの洗面台とか、全面鏡とか乳児を寝かせる台とかが設置されて、まるで一流ホテルのトイレみたいに生まれ変わった。で、リニューアル初日、たしかにそのトイレはぴかぴかに磨き上げられていた。だが・・・・」
 磯崎課長は馬刺しをひとつつまみ上げて、垂れに浸し、口に放り込んだ。
「トイレのそこかしこに、粗末な瓶に入れられた花が飾ってあった。洗面台の鏡の横には、華やかな色画用紙に、色紙の貼り絵とか折り鶴なんかが貼り付けてあって――― おい、色紙なんだぞ。デザイナーが『シチリア島の白壁みたいな』とか指定したかもない壁に、原色の色紙なんだぞ。そこに、うまいとは言えない文字で、『運転お気をつけて』とか、『安全に帰ることが一番のおみやげ』などという交通安全の言葉が添えられていた。しかも、黒い大理石のような素材のトイレの入り口の壁に、実物大と思えるほどの大きなクリスマスツリーの絵とサンタクロース!それも、色紙を切って、貼り絵で作ってあった。俺は頭に血を上らせて、『誰がこんなことをやれと言った?』と怒りまくった。そしたら、清掃担当の外注先のマネージャーが飛んできて、『すみません、改装前、トイレはいつもこうやって飾っていたものですから』と泣きついてきた。もちろん、『馬鹿野郎、山喜サービスエリアは生まれ変わったんだ、取ってしまえ!』と俺は吠えた」
 僕にはその場面が鮮やかに脳裏に浮かんだ。阿修羅のごとくトイレの前に立ちはだかって、吠える磯崎課長。
「そしたらな・・・」磯崎課長がカップから一口、地酒をすすって言った。
「あの黄色い清掃のユニフォームを着たおばちゃんがモップを持ったまま出てきてな、俺に食って掛かってきた。『いつものように、私達の仕事をやっただけじゃない。何が悪いのよ』。馬鹿か、俺は、ますます頭に来た。たしかにそれまでは、古くて汚いなんの取り柄もないサービスエリアだったから、それも愛嬌で良かったかもしれないが、リニューアルして生まれ変わったんだ。幼稚園の教室みたいな飾りもんはもういらんだろう。というか、あってはいけないだろう。なんで、このおばちゃんは、そんなことがわからないのか。俺はそのおばちゃんを見ていると、ますます頭に血が登って、マネージャーを叱りつけた。『すぐに撤去してしまえ!』 そしたらな、そのおばちゃんはモップを持ったまま、俺に向かってきた。慌ててマネージャーが止めにはいったけど、あやうくモップの柄でどつかれるところだった」
 ちょっと話が見えなくなっていた。「負けたと思う、凄い人」の話のはずであった。
 不思議そうな表情をしていのだろう。磯崎課長はニヤリとして続けた。
「そのおばちゃんな、『こんなところは辞めてやる』って叫んで、モップを投げ捨てて、ほんとうに帰っちまった。マネージャーが慌てて後を追いかけたけど、俺は呼び戻して、とにかく、その飾りものを撤去させた。まあ、そんなんで、ゴタゴタはしたけど、なんとか飾りものなしで、トイレもオープンできたんだ。俺としちゃあ、マネージャーの野郎、しっかりしろよってとこで、そのおばちゃんのことも、二三日で忘れちまった。だが、一週間ほど経った頃・・・そのおばちゃんの姿も見なくなったが、マネージャーが自らモップと雑巾を握ってるじゃないか。いったい何ごとかと思ったら、あのおばちゃんの後を追って、何人か辞めちまったらしく、欠勤も多くなって困っていると言うんだ。マネージャーのやつ、近辺の職場からスタッフを回していたんだけど、にっちもさっちもいかなくなってたらしい。たしかに、せっかくの新しい設備が、いつも清潔というわけにはいかないようになっていた。で、よく聞いてみると、もともと、山喜サービスエリアのトイレは古くて汚かったから、清掃スタッフのなり手が少なくて、みつかってもすぐ辞められちまってたらしい。そこへ、あのおばちゃんが応募してきて、とにかくトイレを綺麗にし始めた。便器の掃除も、それまで手つきのブラシでやっていたところを、ビニール手袋をした手で直接こすって、隅々まで綺麗にするようになった。それだけでは飽きたらず、花を活けたり、安全運転のメッセージを張り出すようになった。いつの間にか、山喜サービスエリアのトイレは、個人の家に招かれて、トイレを借りるような雰囲気の、暖かで清潔なものになった。おばちゃんの働き方を見て、それまで自分の仕事を好きになれなかったスタッフたちが、またひとり、またひとりと、熱心に仕事をするようになって、欠勤率も劇的に下がった。それだけじゃない。普段から綺麗になったトイレは、それまでよりずっと少ない人員で清潔に保てるようになった。で、そんな時に、あのリニューアルオープンになったんだ」
 なるほど、やっと話が少し見えてきた。
 目に見る結果、それも最高の結果にしか興味をもたないと思っていた磯崎課長が、その清掃担当のパート女性に興味をもったということは、かなりの驚きであった。
「その人、なかなか、凄い人だったんですね」
「まあ、聞け。せっかくの新しいトイレだ。俺は、そのできないマネージャーのせいにして、どこよりも清潔なトイレを諦めるつもりはなかった。俺は仕方なく、自分でビニールの手袋をして、モップを握ってトイレに入った」
「えっ? ご自分で?」
「ああ。便器からはみだしているものを見て、お前らのケツは曲がっているのか? わざと外にしてるのか? って、腹がたって仕方がない。で、何日かそうするうち、汚いことには少し慣れたけど、だんだん、スタッフの気持ちが身にしみてきた。で、あのおばちゃんが、なぜ、あんな飾りものをつくるほど、やり過ぎちまうのか、やり過ぎてしまわなければならなかったのか、わかるような気がした。でも、やっぱり、折り紙とか色紙の貼り絵がこのトイレに似合わないことも、間違いのないことだった。なんとかあのおばちゃんに帰ってきてもらうことはできないものか、俺はさんざん考えた。で、こうすることにした。あのおばちゃんが、どうしてもサービスエリアのトイレを利用してくれる人に伝えたいメッセージがあるのなら、それを表現できるツールというか、場所を、きちんと作っておけばいいじゃないか。このトイレのコンセプトとか、イメージとか、デザインと調和するようなものを作って、そこでだけ好きにやってもらえれば、なにも問題はないじゃないか。で、俺は上層部にかけあって、毎日、野の花を活ける場所や、運転者に向けてメッセージを伝えるためのメッセージボードを作ってもらった。そして、その完成を待って、マネージャーに、おばちゃんに帰ってきてもらうよう交渉してくれと頼んだ」
「へえ・・・一本取られましたね」 
 僕は驚いた。磯崎課長が折れていたのだ。
 いつも議論では負けず、筋を通すことにかけて、それ以上の強さを持った人を見たことのない課長が、そのおばちゃんのために、わざわざ設備をつくって、帰ってきてもらうように頼んだ。ビニール手袋を手に自らトイレ掃除をしたことも驚きであったが、それ以上におばちゃんの主張に屈したことは、考えられないことであった。
――― しかし、その人は・・・
「でな、その時、おばちゃんは、すでに会社を辞めて、雑居ビルなどの管理や清掃をするほかの清掃の会社に移っていた。マネージャーはそのおばちゃんのもとを尋ね、彼女の意見を取り入れて設備も改装したから、ぜひ帰ってきてくれと頼んだ。おばちゃんは、スタッフの創意を活かすことのできる設備を喜んだが、復職については決して首を縦に振らなかった。彼女が帰ってきてくれないと、せっかくの施設が清潔に保てないからとマネージャーは頼んだ。彼女は施設の改装に礼を言い、あとに残ったスタッフや、辞めるといって欠勤しているスタッフに電話をして、私がいなくても以前のように綺麗なトイレにするように伝えておくから、と言った」
「その人は、結局、帰ってきてくれなかったんですか?」 
「ああ・・・」
「課長が、嫌われたんですか?」
「いや、どうやら、そうでもないらしい。おばちゃんは、帰ってこない理由をしつこく訊ねられて、こう答えたそうだ。『あそこでは、私は勝ったから』と」
「磯崎課長に勝ったと?」
「いや、違う。『汚いトイレを、綺麗なトイレにすることに』、だそうだ。自分たちのやり方がある程度認められたなら、自分が帰らなくても、あのトイレは綺麗に保たれる。汚かったトイレを綺麗にする戦いに、勝ったんだと。だから、また、自分はほかの場所の、汚いトイレを綺麗にしてやるんだ。そして、そこで働く仲間に、少しでも元気を与えてやるんだ、と」
「その話を聞かされた時、負けた、完敗だと、俺は思った―――おい、どうしたんだ? 泣いてるのか?」
「いえ、泣いてません。でも、ちょっと嬉しかったんで」
「だから、言ったろう、臭い話だって。馬鹿」
―――それのおばちゃんは・・・・・・
 喉元まであがってきたその言葉を、僕はなんとか飲み込んだ。
「すみません、臭い話は苦手です」
 磯崎課長はゴジラのような顔で微笑んで、「ほら」とおしぼりをつきだした。
 テレビで漫才を見て笑いながらコタツで折り鶴をつくり、それをもって職場に行き、誰よりもトイレを綺麗にして、サービスエリアを訪れる人に暖かいメッセージを贈り、同僚たちにも働く誇りを与えていたのは。
 半年前に大げんかをして山喜サービスエリアを辞めて、今は別の清掃会社でビルのトイレを掃除しているおばちゃんとは。
 それは、僕のオフクロ以外にはありえなかった。

Kimono Flea Market ICHIROYA's News Letter No.650

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(This is Nagisa's desk. Mei who wrote last newsletter is sitting next to Nagisa. Yes, the cute long hair girl you can see from behind is Mei. They are both very shy!)


Dear Ichiroya newsletter readers,

Hello! I'm Nagisa from Ichiroya. I was taking pictures of Kimono items formerly, but joined this English description writing member recently. Hi! Hajimemashite!

Anyway, did you enjoy last newsletter? As for me, Yes I did. It made me want to travel. Someday, I want to see Aurora! Actually, the USA is where I want to visit the most. Because I love watching American football games. So, everyday and night, I dream of watching games at stadiums! (Incidentally, I'm big fan of Houston Texans.) I can't wait for football season!

By the way, to visit art museums is my another hobby. Have you ever heard of Ukiyoe? It is a wood block print and was popular in Edo period (1603-1867) in Japan. My favorite Ukiyoe artist is Kuniyoshi Utagawa. Dynamism, high fashionability and out-of-the-box ideas are characteristics of his works. After all, he is known as a 'cat painter'. Everyone loves cats, don't you think so? So today, I'd like to introduce you some items at Ichiroya with cat designs!

Cat & Temari Design Vintage Nagoya Obi
http://www.ichiroya.com/item/list2/319678/

Sleeping Cat Design Fukuro Obi
http://www.ichiroya.com/item/list2/238484/

Dancing Cat design Nagoya Obi
http://www.ichiroya.com/item/list2/329326/

Roulette On Cat Design Han-haba Obi
http://www.ichiroya.com/item/list2/331519/

< Extra Edition! >
Vivid Color Lion Pattern Vintage Kimono
http://www.ichiroya.com/item/list2/237562/

Urushi Lion & Flower Pattern Vintage Kimono
http://www.ichiroya.com/item/list2/281576/

Do you like them? Enjoy wearing kimono with theses lovely items!
Thank you for reading to the end. See you again!

 

 

Kimono Flea Market ICHIROYA's News Letter No.649

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Colorful Rainbows & Treasures Pattern Vintage Maru Obi

http://www.ichiroya.com/item/list2/279451/

 

 

Dear Ichiroya newsletter readers,

Hello! I'm Mei from Ichiroya.( Have you ever seen "description:yamamoto" in each item page? It's me! :D hi) Today I want to introduce the Ichiroya members who are writing future newsletters! (clap-clap)

Mari (she wrote the last newsletter showng her amazing beaded work! This is the last newsletter: http://kyouki.hatenablog.com/entry/2016/06/05/184332)is health-consious and I'm so interested in the super-food she always eats. Mitsue is gentle and warm woman but she sometimes says her opinion clearly, I respect that her style. Nagisa sits next me in our office. She always laughs a lot. I'm a fan of her. haha Yumi is a newcomer from Kyushu region. She is so studious and polite woman riaing her three  little children. Yoko is our dependable leader. Thanks to her, we give our opinions each other. Oh and she really loves dogs. Yuka, our managing director always smiles. She is thoughtful and her smiling makes everyone happy.

And... me! Hi again, it's Mei ;D I love to travel and I'm a backpacker and sometimes hitchhiker. When I was staying Canada as an assistant teacher at elementary school, I went travel almost all areas of Canada during my vacations. And before coming back to my university, one of my dreams has come true. Guess what! I could see aurora in Yellowknife! That was fabulous beyond description, that's why I can't stop traveling. Please let me know the recommendations in your country! Someday I want to go there.

By the way, did you enjoy "doro-dango", of last newsletter? Can you believe that made from mud(not metal!) ? I'm sooooo interested in it and wanna make it so much because my friend's graduation research was also... yes, "doro-dango"! Incidentally, my subject of research was " rainbow". Psychological effects of each colors, differences of the number of colors of rainbow between countries and times, and meanings of rainbow as a symbol in arts, those gave me more interests about colors, rainbow. So today I want recommend you some Kimonos and Obis with rainbow designs! (woo-hoo)

*Kimono*

Flower Design Houmongi by Sansai Saito
http://www.ichiroya.com/item/list2/322286/

Butterfly Pattern Tsumugi Kimono
http://www.ichiroya.com/item/list2/297536/

Gradation Design Houmongi Kimono
http://www.ichiroya.com/item/list2/330739/

*Obi*

Flower Design Nagoya Obi by Sansai Saito
http://www.ichiroya.com/item/list2/322176/

Housouge Design Nagoya Obi
http://www.ichiroya.com/item/list2/305809/

Peony Design Shioze Nagoya Obi
http://www.ichiroya.com/item/list2/321475/

Do you like them? These items will brighten up your kimono fashion for sure! We want you to enjoy our newsletters more and more with many kinds of topics and information from Ichiroya!

Thank you for reading to the end. Please look forward to next my turn!!! haha
See you then :D

 

短編小説12 『父の腕時計』

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 その部屋に入った時、私を取り囲んだのは、おびただしい時計であった。
 明治時代にも遡れるかという振り子の見える掛け時計、国産なのか、ヨーロッパの生まれなのかもわからないアールヌーボー調の木製の置き時計、昭和後期のモダンなデザインのプラスチックの置き時計、そして、あちこちに置かれた腕時計。
 その時計の多くは10時9分、そして秒針があるものは36秒を指していた。
 よく見ると、それ以外の時刻を指しているものの多くは、4時15分付近。つまり、私のつけているセイコーの腕時計と同じ、現在の時刻であった。それらの時計は、動いているのである。
「私にはわからないけど、これだけ古い時計があれば、価値のあるものもあるでしょう」
 依頼人の山崎玲子がそう言った。
 この部屋は、依頼人の話のとおりであれば、最近亡くなった彼女の父がひとりで住んでいた部屋である。
 郊外の古い一戸建てのその家は、たしかに老いた男性がひとりで住んでいたに違いない、すえた臭いが濃厚に漂っていた。
 あちこちに重ね上げられた新聞や雑誌や捨てても問題のないはずの各種のDMや手紙。壁に貼られた紙には、市役所や病院の電話番号がかかれている。おそらく、多くの薬を飲んでいたのであろう、カレンダー状のビニールポケットに薬が小分けして入れてある。
 普通の部屋と異なるのは、やはりそのおびただしい時計である。
「時計のコレクションがご趣味だったんですか?」
「知らないわよ」
 腕を組んだ涼子は携帯につけた銀のチャームを振り回しながら言った。
「で、全部で、いくらになるのよ」
 この時計すべて、そして、台所にある鍋や安物のセットの陶器、旧式のテレビやビデオや洗濯機、湿った布団や時代遅れのスーツ、そのほかすべての一切合財を買い取って運び出し、この部屋を空にするのが私の仕事である。
 買い取ったその品物を、高く買い取ってくれるさまざまな分野のものを扱う仲間に売り、それでも引き取り手のないものは、お金を払って市の巨大な焼却炉に放り込んで灰にしてしまう。ボランティアでやっているわけではなく、それが私の商売だから、依頼者に払うお金と仲間に売って得る金額との差額が、私の仕事の報酬となる。
 もちろん、商売としては、なるべく安く買って、高く買ってくれる相手を探さなければならない。
 さまざまな事情を抱えた依頼人のことを思えば、高く払ってあげたいし、いつも世話になる仲間のことを思えば、安く売ってやりた。
 だが、それをつきつめると稼ぎがなくなり生きていけなくなるし、私の時間あたりの稼ぎがいつまでたっても増えていかない。
 だから、それぞれの依頼人によって、その間合いを慎重に測る。
 この山崎玲子という依頼人は、普段は東京に住んでいるという。
 この家に住んでいた父親は家族とほとんど音信不通の状態で暮らしていたらしく、彼女は親族を代表して父親の遺品整理をするために、この地にやってきたのだ。
「どんなお父さんだったんですか?」
 部屋に置かれていたものを点検しながら、私は訊ねた。
「ひどいヤツ。母や私を捨てて、したい放題。孤独に死んだのは、自業自得だわ」
 部屋の隅に小さなテーブルが置かれていて、そこにはスタンドがあり、時計がいくつかと、眼につける拡大鏡、小さな各種の道具、小分けされた時計の部品らしきものが乗っていた。
「時計修理を仕事にしておられたんですか?」
「だから、なにをしてたかは、知らないわよ。借金もないかわりに、お金も残さなかったから、年金でぎりぎりの生活をしてたんじゃない」
「でも、これって、時計修理の道具じゃないですかね」
 山崎玲子は私の側に寄ってきて、はじめてそこにあるものに、少し興味を示した。
「そういえば、私が子供の頃、時計屋になるとか言って、通信教育を受けていたわ。結局、諦めてしまってたけど・・・」
「じゃあ、その時の夢に、また挑戦しておられたのかも・・・」
 ふん、山崎玲子は鼻を鳴らして、キッチンテーブルに戻り言った。
「あの歳で時計修理なんて、馬鹿みたい。次から次へと、なにやっても、モノにならないのよ。その度に、家族に迷惑をかけて・・・最後にはオンナをつくって・・・」
 しばし追想の世界に遊んでいたようだが、突然現実に帰ってきて、きつい口調で言った。
「そんなことアンタには関係ないでしょ。で、いくらになるのよ。私は急いでいるのよ。値段によっちゃほかの業者呼ぶから、早く値段を言って」
「すみません、あと10分だけ、時間をください。価値のあるものがみつかるかもしれないから」
 依頼人は呆れたとでも言うように視線をそらし、ハンドバッグからたばこを取り出して一本を咥えた。
 私の見立てでは、この部屋に骨董的な価値、リサイクル品として専門業者が興味を抱くようなものはない。唯一、膨大な量の時計の中に、価値のあるものが混じっているかもしれないが、腕時計を見る限りでは、ロレックス、ロンジンなどの有名ブランドのものは見当たらない。置き時計、掛け時計の中に、よほど古く、価値のあるものがある可能性はゼロではないが、腕時計の内容から考えると、それは浜辺の砂を一握りしてみて、その中に砂金が混じっている程度の確率でしかないように思える。
 が、手紙や書類を押し込んだテレビの下の引き出しの中に、小さな箱をみつけた。その箱は真っ赤な包装紙で、不器用に包まれていた。包を開いて、蓋を取る。
 そこにあったのは、シャンパンゴールドのレディスのロレックス、デイトジャストであった。新品ではなく、1990年代半ばにつくられた中古品である。
 が、贋物ではない。この家でみつけた、はじめての財産らしきものであった。時計を扱う仲間に持ち込めば、10万円は超えるだろう。
「早くしてよ」
 背中に依頼人の声が飛んで来た。
 私はそのロレックスを箱に戻して立ち上がった。
 キッチンテーブルでたばこをふかしている依頼人に、私は言った。
「残念ですが、価値のあるものは、なにもなさそうです」
「なにもない?そんなことはないでしょう。古い時計とか、こんなにあるし、電気製品だって、それなりにあるわ」
「旧式の電気製品には、ほとんど価格はつけれません。時計にしても、単に古いだけでは、値段はつかないんです。そういったものは、逆に、処分するための料金がかかります」
 山崎玲子の眼がつり上がっている。   
「ほんとうは、逆に引き取り料金をいただきたいところですが、それではあまり気の毒だ。せっかく、呼んでいただいたことだし、5万円は出しましょう」
「5万円?全部で?」
 驚きと怒りで、声が裏返っている。 
「もう、いいわ。帰って―――」

 その時、チャイムが鳴った。玄関に誰か来たのだ。
 玲子は言葉を切ると面倒くさそうに立ち上がると、玄関に出ていった。
―――ロレックスで10万円。何点か売れるものを選んで5万円。入の合計が15万円。依頼人に5万円。すべてを運びだして、処分するためにかかる費用、アルバイト代やトラックの経費、リサイクル代が8万円。出の合計が13万円。収支、つまり、私が一日半を費やして得る報酬は、2万円。
 どう考えても、5万円は精一杯のところであった。
 私は彼女の言葉通りに帰ることにした。手帳をカバンにしまい、玄関に向かった。
 玄関で、玲子と男がもめていた。
 チノパンとジーンズ地のシャツを着て無精髭を生やした60代と思われる男性が、訴えていた。
「――― 旦那さん、亡くなったの知らなかったんで・・・でも、時計を持ってきたら、いつもいくつかは買い取ってくれたんです。旦那さんのためにと思って、探してきたんで、代わりに買ってもらえませんか。一本、千円でいいんです。生活が大変なんです。お願いします、もう来ませんので、最後に買ってください」
「だから、要らないのよ。父はもう死んだんだから、時計は要らないの。帰って」
「あなたのお父さんは優しかったです。無理に買ってくださってることはわかってました。どんな時計に価値があるかとか、動かないなら『10時9分36秒』にしておくと、少しでもよく見えるとか、教えてくれました。もう来ません。でも、今日、苦しいんです・・・お願いです、買ってください」
「帰らなかったら、警察、呼ぶわよ」 
 私はその男が掌に見せている3本の時計を見た。
 それはクオーツが腕時計の世界の征服を果たしてしばらくした頃に作られた安物で、一本百円の価値もないものであった。
 だが、その男の訴えるような涙目を見ると、財布を取り出さざるをえなかった。
 3千円を出して、その男に渡した。
 男は「ありがとうございます」と言って、時計と一緒に3枚の千円札の一枚を私に返そうとしたが、私に受け取る気がないと知ると、何度も頭を下げて引き戸をゆっくりと締めた。3本のおそらく壊れて動かない腕時計を私の手に残して、ガラスの向こうに映ってた男の姿は小さくなって、消えた。
「余計なことをするのね」
「お父さんの時計趣味はお金にはならなかったかもしれませんが・・・お父さんにも、多少は、いいところもあったようですな。ともかく、私は、帰ります」
 私は革靴に足を入れた。
「ねえ、あんた。あんた、時計のこと詳しいの?」
「いえ。専門じゃありませんから」
「そうよね。だって、古臭い地味な時計してるもんね」
 靴を履き終えた私は、彼女に向き直り、まっすぐにその傲慢な光で輝く目を見て言った。
「このセイコーは、父の形見です。たいして価値のあるもんじゃありませんが、父の代からずっとオーバーホールして使い続けているものです」
 彼女は私の言葉を無表情に聞いていたが、刹那、その表情にすこし暖かなものが息づいたような気がした。
 その時、はじめて気がついた。
 山崎玲子は、案外、美しい顔をしていた。
「では―――」
 私は引き戸を開いて帰ろうとした。
「待って。5万円でいいわ」
「いや、それはさっきまでの話で、値段は変わりました」
「いくらなのよ」
「5万3千円です」

 結局、ビジネスはその金額で決着した。
 だが、2週間後にすべて精算してみると、私の収支はマイナス8万円近くであった。
 ロレックスが偽物だった?
 欲にくらんで目を曇らせた私がツボにハマった?
 違う。
 山崎玲子に黙っていたロレックスは睨んだ通り本物であったが、ロレックスの下に小さな紙片が入っていたのだ。
 そこには、こう書かれてあった。
「玲子へ 就職おめでとう!」
 それは、父から娘への就職祝いのプレゼントに違いなく、1990年代の半ばに、用意したものの贈ることができなかったものと思われた。
 そのロレックスが玲子のもとに届けば、大切なものを伝え続けるに違いない、私はそう確信して、それを宅配業者に託したのであった。
 もちろん、値段を算定した時には、その存在を知らなかったからと付け加えて。

 損はしたが、なにはともあれ、私は「買取業」としてプロの仕事をした。
 あの時、ロレックスの存在を依頼者に告げることもできたが、それを告げれば「買取ビジネス」は成立しなかっただろう。
 また、あの部屋にある一切を買ったのだから、ロレックスを返す商売上の責務はなかったようにも思える。
 だが、私は、父の残してくれた時計、父が一生真面目に働き続けた時にずっと寄り添っていた時計をはめているのである。
 その父の時計をつけながら、そのロレックスと手紙を返さないという選択はありえなかった。

 私の父もすでに他界して10年になる。
 今年も、もうすぐ、父の日だ。


Kimono Flea Market ICHIROYA's News Letter No.648

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photo by: DaJJHman

The above brown ball is made of mud, I think you can imagine that but how about these? You will be surprised! Please take a look at this website. Today's newsletter is about this miracle ball.

http://www.dorodango.com/

 

Dear Ichiroya newsletter readers,


Konnichiwa, this is Mitsue from Ichiroya. Hajimemashite!
Writing English explanation of kimono items is my main job.
I would like to introduce interesting movements, kimono topics and so on with my coworkers from Osaka, Japan.

In Osaka, rainy season will start in a few weeks, and it continues rainy days for about one month. Actually, I like rainy days. Hearing the sound of rainfalls makes me feel relieved and calm. But spending rainy days for one month, I will be tired of hearing the sound of it and I miss sunny days.
Do you like rainy days? Even though it continues for one month?

Anyway, have you ever heard of Dorodango?
It is not an edible dumpling, but a mud ball.
For kindergarden and school children, making Dorodango is one of traditional pastime.
Mud is heavy and cool to the touch, satisfying their heart and mind. At playground, children snatch mud and carefully shape it to be as round as possible by hands.

Through playing with mud, it will contributes to children's originality and imagination.
They also learn human relationship with their friends.
It seems to have effect that emotion is stable, too. And furthermore, it seems to raise the concentration of children through making Dorodango. It takes much time to be completed.

Recently, making Dorodango is not only for children but also for adults. The process has been refined into the art of the Hikaru (shining) Dorodango, which has a glossy surface. Several different techniques can be used to make it.

Across all methods, a core of the ball is basically made of mud, which has been shaped by hands as round as possible. This core is left to dry, and then carefully dusted with finely sifted soil to create a crust several millimeters thick around the core. This step may be repeated several times, with finer and finer grains of dirt in order to create a smooth and shiny surface. Then a cloth may be used to gently polish the surface. The Dorodango may look like a polished stone sphere, but it is still very fragile. The process requires several hours and careful focus so as not to break the ball.

One can feel satisfaction, surprise and a great joy in the fact to make with one's bare hands such an amazing object from mud. Depending on the soil, the surface of Dorodango changes. If you use red soil, you can make red Dorodango.  

To make Dorodango help you to enter a meditative state that give a material result for each one's distraction. Your Dorodango will likely show your defect, so the result will clearly show you how you are.

Surely, you will be surprised at your progress when you make your second, then third Dorodango. Try it!


How to make Hikaru Dorodango
http://www.kyokyo-u.ac.jp/youkyou/4/english4.htm

短編小説11 『過去から来た少年』

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                                                                    photo by  Alfredo Mendez

 

「豊中市浜5丁目378番地へ行ってください」
 後部座席の少年は、たしかにそう言った。
 半ズボンをはいた少年は小学校高学年に見える。前髪を一直線に切りそろえて、どこか昭和の香りがした。
 奇妙だった。
 少年を拾ったのは、高速の下を走る幹線道路で、夜の9時半という暗闇の中にひとり、手を挙げていたのだ。
「わかりますか?」
「わかるとも。けど、なんで、古い番地で?」
 少年はその問には答えず窓の外を見た。
 知らないはずがない。そこは私が育った実家があった住所だし、55年間の人生の旅路を巡ったあとでもなお、本籍地として記される住所だからだ。ただし、そんな番地を使ったのは何十年も前の話で、本籍地として使う場合以外は、「15の7」と言うのが普通だ。
 ともかく、私は後部座ドアを締めて、賃走のボタンを押した。 
 少年は布のトートバックを抱えている。時間から考えて、塾帰りだろうか。私にもそんな時があった。
「高速も地道もあんまり変わんないんで、地道で行きますよ」
 念のため、おそらく4千円を少し超える程度の売上の見込めるその顧客に、私は訊ねた。
「お金は持ってるんだろうね?」
「家に着いたら、お母さんから貰って払います」
 誰かに似ている。どこかで会ったに違いない、懐かしい顔をしている。
 だが、それが誰だかわからない。
「行き先は、君の家かい?」
 少年は頷いた。
 やはり、知っている顔だ。私は人の名前や顔を覚えるのが苦手だから、懸命に記憶のページを繰った。
「ねえ、名前、聞いてもいいかい?」
「ヤマネシュウイチ」
 後続車がいないことを頭の隅で確認していた私は、急ブレーキを踏んだ。
 シートベルトをしていなかった少年は、前につんのめって、前席のシートに額をぶつけた。
 振り返って、私は額を押さえて顔をしかめている少年をまじまじと見つめた。
――― ヤマネシュウイチ。それは、私の名前だ。どこかで見たと思ったこの少年は、古いアルバムの中で見た、私自身の子どもの頃ではないのか。 
「痛いです。乱暴な運転は、やめてください」
「すまん。大丈夫か?」
 少年は手の下からきつい目で私を睨んだ。
 その鋭さに、私は怯み、とりあえず前を向いて車を発進させた。
「びっくりしたものだから・・・ねえ、今、西暦何年だい?」
「1、9、6、9、年」
 そんなはずがない。
 目をこすってみても、前方や横の車線を走っている車はスバルR2やハコスカではなく、ハイブリッドのプリウスやエルグランドである。
 間違いない。
 なぜそんなことが起きたのかわからないが、少年は、1969年からやってきた、私なのだ。   
 運転手仲間には、幽霊を乗せたなどというホラを言うものもたまにいる。ほんとうに怖いのは、幽霊ではなく、強盗や無賃乗車や質の悪い酔客だと思っているので、そんな与太話は面白いとは思えない。だが、過去の自分を乗せたとという話は聞いたことがない。
 もし、この少年が、かつての私なら、私はどうするべきだろうか。
 混乱した頭で懸命に考えた。
 タイムマシンというようなものが発明されたら、過去の自分に戻ってやり直したいという人も多いだろう。どうやら、私は、そんな機会が向こうからやってくる僥倖に恵まれたらしい。
 なんの悪戯か、少年はふと時間の隙間に落ち込んで、未来にやってきて、また、過去に帰っていくのではないか、私はそんな気がしたのである。
 家に着くまでの20分程度の間に、少年の人生を変えるなにか大切なものを与えることができたら、ひょっとして、今の自分の人生、この少年の40年後の姿を劇的に変えることができるかもしれない。

 今の私は、タクシー乗務員である。
 母や父は、私を人生の敗残者とみなして、「なんでこうなってしまったんだろうね」と言う。
 私はたしかにサラリーマンとしては成功せず、45歳で追われるように会社を去って、タクシーの乗務員になった。
 だが、私は腕の良い運転手で、母や父の想像よりずっと稼ぐ。娘を私立大学に行かせて卒業させたし、家のローンももうすぐ終わる。しかも、かつて会社員時代のように、自分が正しいと信じないことを強制されることもないし、人間関係に悩むこともない。気の会う乗務員仲間の間で、余計なストレスもなく、快適に暮らしている。  
 いつもその場で一生懸命に生きてきて、その着地点がここなら、いったい、父や母は何を望むというのだろう。
 ならば、私はこの少年、40年以上昔の私に、何を伝えるべきだろうか・・・
 何かを伝えたら、この少年の人生は、私の人生は変わるのだろうか?
 変えることができるのだろうか?
 答えは知っていたが、私は訊ねてみた。
「大きくなったら、なにになるんだ?」
「お父さんは、お医者さんになれって。会社員は、報われないからって」
「それで、自分では?」
「わかんない。でも、どんなことでもいいから、一番になりたい」
「そうか。それはいい」
 ――「どんなこと」の中に、タクシー乗務員が入っていれば良いのだが・・・
「おじさんは、子どもの頃から、タクシーの運転手さんになりたかったの?」
「いや、ずっと、なにになりたいか、わからなかったよ」
「運転手さんってどう?」
「快適だよ」
 私はそこで言葉を切った。こんな小さな少年に、どうやってタクシー乗務員という仕事を伝えればいいのか。そして、このシンプルで複雑極まる人生のことを。    
 私は車を走らせながら、この少年にどんなアドバイスをするべきか、考えに考えた。
 大学生になったら、彼女に振られないために、デートにはおしゃれな格好で行けよ。一回目の受験のとき、もっと勉強しろよ。学部を選ぶとき、会社を選ぶとき、もっと、情報を集めて、慎重に決めろよ。大学じゃあクラブなんかで時間を無駄にせず、将来を見据えて行動しろよ。会社に入ったら、まずは会社で一番重宝がられるような人間を目指せよ。結婚して子どもが小さい頃は、もっと子どものことを見てやれよ・・・
 アドバイスは次から次へと浮かぶものの、それをこの小さな少年に言ったところで、なにも伝えれそうにない。
 176号線を服部駅のそばで右折して、天竺川の堤防に向かう。
 天竺川は天井川で実家はその堤防のそばにあった。大雨のあった時は、父と母が堤防の決壊を心配して、川の水位を見に行っていた。
 堤防を登り切った時、川のむこうの角に、「天竺食堂」の看板が見えた。
――― え?
 この道は、タクシーに乗務してからも、会社員時代にも何度も通ったことがある。そして、堤防の角にあった「天竺食堂」という飯屋は、20年か30年前になくなって、空き地となっていることを知っていた。
――― いったい、いつの間に、再建されたんだ?
 私は天竺川の橋を渡る時にスピードを落として、天竺食堂をみつめ、ガラスからもれる明かりに写った客の姿を見た。
「天竺」とは、かつてインドをさした言葉、遠く、はるか遠くにあるところを意味するそうだ。この小さな川が、雄大で謎めいた「天竺川」という名称で呼ばれるのは、不思議でもあった。
 だが、今、わかった。
 やはり、「天竺川」は名前の通り、はるか遠くと現在現地点を隔てる川であったのだ。
 どうやら、天竺川の橋を渡った私と少年は、1969年、万国博覧会の前年にやってきたようであった。
 堤防を降りて最初の分かれ道で右折し、また右折する。
 対向車のすれ違いに苦労するような細い道路を進む。
 何年か前にそこを通ったときには、子どもの頃に営業していたパーマ屋や酒屋やクリーニング屋は朽ちた外観を晒していた。が、今通ってみると、すでに営業時間を過ぎている店ばかりであったが、闇のなかでも、その通りが子どもの頃のように「生きて」いることがわかった。
――― そうか、これは夢だ。
 私はようやく気がついた。
 夢以外にはありえない。
 それにしても、リアルな、変な夢だ。
 車はまもなく、かつての私の家、この小さなお客様の指定した目的地に着く。
 そして、たったひとつだけ、私は少年の心に届くかもしれないアドバイスを考えついた。どうせ夢の中だ。意味はないかもしれないが、言ってみよう。
「まもなく着くよ。ねえ、君、おじさんからひとつだけ、アドバイスしてもいい? 聞いたら、君はきっと腹を立てるだろうけど」
「・・・」
「聞きたい?」
 ルームミラーに写った少年は頷いた。
 私は口を開いてミラーに歯並びを映して見せた。
「おじさんもほら、出っ歯で歯並びが悪いだろう。男だからいいだろうって思ったんだけど、このせいで、ヨーロッパとかアメリカに留学したいっていう時に、二の足を踏んじまったんだ。もし、君の歯がそうなら、痛いこともあるだろうけど、矯正しておいた方がいいよ」
 案の定、少年は怒っていた。口をまっすぐに結んで、二度と私に歯を見せまいとしているようであった。
 もちろん、小さすぎる顎に大きすぎる永久歯のおかげで、歯並びが悪くなり、少年がそれをある程度は気にしているのを知っていた。たかが歯並びではあるけれど、メンタルが強いとはけっして言えない私にとっては、青年時代、それはある程度の足かせになってしまったのである。
「ごめんな。でも、誰も言ってくれないことだから。考えてみて」
 少年は目を怒らせたまま、何も言わなかった。
 家に着いた。
 そこは、たしかに、「豊中市浜5丁目378番地」、私の1969年の実家であった。
 もう、私には、家の道路際の一部屋をパンや文房具を売る店にしていた時代の具体的な記憶はないが、そこが間違いなく1969年の実家であることは、はっきりとわかった。
 シャッターの前に車を寄せて停めた。
「お金とってくる」
 開けた扉から少年は降りると小走りに細い路地の奥に向かって進んだ。実家は長屋のような長細い建物で、店とは反対側の側面に、玄関があったのだ。
 私も車から降りて、店の看板を見上げた。
 白塗のブリキに、「パン・お菓子・文房具 ヤマネ商店」と書かれていた。
――― そうか、こんな看板を掲げていたのか。
 この店を切り回して、母は、父の薄給を支え、家を買い、私や妹の教育資金もつくったのであった。
 少年の後を追って、路地に踏み込んだ。
 店舗になっていた次の部屋は、台所と食事のためのこたつのある部屋である。電気がついて、明かりが漏れていた。
 今日は、父はそこにいないのだろうか・・・
 その時、十数メーター先の玄関から、女性が出てきて、私の方を見た。
 若き日の、母であった。
 地味な着物の上に白い割烹着を羽織っていた・・・

 そこで私は目が覚めた。
 途中から、自分でもそれが夢の中に違いないとわかっていたのだが、甘酸っぱさに胸が苦しくなるような夢であった。
「不思議な夢を見たよ」
 認知症で足の悪い母を預けている介護施設に、妻と向かう途中、高速道路の車の中でその夢の話を妻にした。
「ちょっと、口を開けてみて」
 そう言う妻に、ハンドルを握った私は前を向いたまま、口を大きく開けて見せた。
「あれ! 歯並びが綺麗になってる!」
 妻が素っ頓狂な声を出した。
 もちろん、つまらない冗談だとわかっている。
 私はルームミラーに歯を写して、五十数年付き合ってきた出来損ないの歯をちらりと確認した。
「あなた、実際に過去に行ってたけど、子ども時代の自分を説得できなかっただけなのかもよ」
「そうかもな」
  
 80歳を過ぎている母は転倒して足をひどく骨折した。
 もともと、寝ている時に天井に霊が見えるなどと言う母だったが、骨折治療の入院中に譫妄がひどくなり、いまでは現実と妄想、現在と過去の区別がまったくつかない。
 車椅子に座った母は、老人性黄斑変性症でろくに見えない目で、私を見ると、「なんの商売してるんや」とか、「40才になったか」とか、まったく現実とは咬み合わない話で終始する。
 子どもや孫の名前、人数がまったくごっちゃになっているのはともかく、「私、妊娠して、もうすぐ子どもが生まれるんや」とギネス級のニュースを満面の笑顔で語るときもあるし、「リツコが元気がない、なにかあったみたいやから、気をつけといてや」と妹のことを心配してみせることもある。そういう心配の話は、たいていあたっていて、あとで妹がなにかの困難に直面して悩んでいたことがわかったりするのである。 
 ちょうど、その日は、白髪の体格の良い60才ぐらいの男性が、食堂に入居者を集めて合唱の指導をしていた。私の知らない歌、おそらく美空ひばりかだれかの古い流行歌であろう。母もその輪に混ざって、小さく口を動かしていた。
 母の車椅子を押して部屋に連れて来て、和菓子を食べさせていると、母が言った。
「あのおっさんは、市会議員選挙で票が欲しくて、あんなことしてるんや」
 僕は妻と顔を見合わせた。
 事実なのか妄想なのかわからないが、母はいまでも、そんな悪魔のような洞察力を見せる時もあるのである。
 母の話に相槌を打ったり、子どもや孫の話は、なるべく丁寧に訂正して現実に引き戻したりして、その日も時間が過ぎていった。
「疲れた・・・」
 母が言うので、僕らは帰ることにした。
 僕らが荷物をまとめて、母をふたたび食堂へ連れて行こうとした時、母が突然、言った。 
「あんた、歯はまだあるんか?」
「あるわ。まだ、入れ歯には早いわ」
「そうか・・・矯正するの、あんた嫌がったからなあ。いつやったか、タクシーの運転手にまで、矯正したらって言われったって、怒ってたことあったな」
――― ?
 僕は息が止まりそうなほど驚いて、妻の顔を見た。
 妻の見開いたその目の奥には、恐怖の色さえ浮かんでいるように思えた。

 母を置いて、介護施設の建物を出た。
 建物から駐車場につながる小道は、入居者のために薔薇やチューリップを育てた小さな庭を通る。
 その庭が、入った時とは、どこか微妙に異なっていた。
 匂いなのか、色なのか、なにかわからないが、異なっている。
 いや、庭だけではない、風の匂いも空の色も、能勢の里山の風景も、すべてがかすかに異なっていた。
 それは、私が、過去を実際に訪れて、ほんのすこし、この世界の成り行きに影響を与えたからなのかもしれなかった。
 いや、それよりも、確実なことがあった。
 つまり、過去も現在も、しっかりと母とつながっている世界。
 そういう世界に生きていることを、私がはっきりと知ったことで、世界がその色を変えたに違いなかった。