アマゾンがベア(熊)のように君臨するeコマース業界。投資対象としては、ベア(弱気)なのはなぜか
熊は可愛い。でも、もちろん、大型の肉食獣だから、上の写真のように愛嬌一杯に見えても、実際は、人間様を餌と思っているものもいる。
実際に、毎年、熊に襲われる事故も起きている(たとえばこれ)
さて、アマゾンは、そんな熊みたいなものだ、という話を、今朝読んだ。
E-Commerce is a Bear(eコマースは熊(ベア)だ!)
下の動画もそのブログで知ったのだが、ブログを書いたのは、Andy Dunnさん。
BONOBOSという男性衣料品サイトの共同設立者のひとりである。
ご存知のように、アメリカでは、eコマースのみならず、小売業界全体での、AmazonとEBAYの寡占が進み、小売業者にとっては、厳しいことになっている。
僕もeコマースを本業としているので、アメリカの小売業界、eコマースの成り行きには、非常に興味をもっている。
彼のこのブログを読んで、アメリカのeコマースの経営者がどう考えているのかがわかり、とても興味深かった。
以下に、ざっと、その内容をまとめてみる。
すこし前までは、Amazonが市場を独り占めする、いわば、eコマース1.0の時代だった。
どんなものでも、Amazonでの買い物が、最安値で、一番便利だ。
だから、誰もAmazonに太刀打ちできない。
最近、急成長して注目を集めた2社 Zappos(靴)と Diapers(子供用品)も、Amazonの傘下に入ってしまった。
2社とも、熊と独立して戦うよりも、傘下に入ったほうが良いとみて、独立して株式公開する道を諦めてしまった。
しかし、本当にこの「熊」と戦う道はないのか。
ある。それは、eコマース2.0の時代の生存戦略と言える。
鍵は「独自の価格」「独自の商品セレクション」「独自の体験」「独自の商品」である。
(1)「独自の価格」
独自の価格設定ができるものを扱い、時間限定で安くする、会員制で限定で安くするなどの方法をとる。Giltグループは、すでに、日本にもある。
ex. Gilt, Fab, Zulily, One King’s Lane, Ideeli など
(2)「独自の商品セレクション」
超専門店とでもいうべきだろうか。とにかく、ネットならではの商品料を、専門的に、狭く、深く品揃えする。他でも買えるものが大半けれど、買いやすいサイトになっていれば、十分Amazonに対抗しうる。
ex. ModCloth(インディー・レトロファッション)、Nastygal(ビンテージなどアパレル)
(3)「独自の体験」
商品だけではなく、体験を付加して、あるいは、体験そのものを売る。
ex. JustFab(婦人靴とハンドバッグ)、 ShoeDazzle(独自ブランドの靴を売る)、Birchbox(美のプラットフォーム)、Rent the Runway(豪華なドレスを扱う)、BeachMint(セレブたちお気に入りの商品を扱う)
(4)「独自の商品」
プライベートブランドをつくって売る。ほかにないものを売る。
ex. Bonobos(男性衣料)、Warby Parker(メガネ)
方法は、このようにあるのだが、難しい面もある。
Amazonがやったように、すべてを飲み込んでいく(Includes)ことはできず、一般にあるものから、抜け出ていく(Exclude)することが唯一の戦略である。
だから、eコマース2.0の時代は、eコマース1.0の時代と異なり、商品を増やすことで簡単にスケールアップすることができない。毎年5倍に売上を伸ばすことなど、もう不可能なのだ。
Excludeするためには、相当のコストがかかる。オリジナルブランド構築チーム、サービス担当チーム、技術チームの3チームが必要になる。いったん、excludeしてしまえば、利益は得やすいが、それを構築するまでの長い時間、一般的には、薄い利益で、ナショナルブランドを売らなければならない。
しかも、アマゾンですら赤字になるように、利益のほとんどは、システムの更新、開発、物流の整備、送料の無料化などに費やす必要があって、利益は残りにくい仕組みになっている。
たとえば、Zapposは素晴らしい成功例だけど、(定かではないが)10億ドルの売ったときでも、そのEBITDA(簡単に言うと利益。正確に言うと、財務分析上の概念の一つ。税引前利益に、特別損益、支払利息、および減価償却費を加算した値)は、その2%に過ぎなかった。
ZapposがAmazonに売却されたのは、そのEBITDA率が、株式公開するには低すぎたことが、原因のひとつだ。
eコマースはグレイトだ! でも3つの問題がある。
ノーIPO、ノーM&A、ノーEBITDAだ。
( E-commerce is great. Only three problems: no IPOs, no M&A, no EBITDA )
以上が要約だ。
なお、例としてあげられている各サイトは、リンクは貼ったけれど、中身を調べる時間はなかった。(興味のあるかたは、調べられたらよいと思う)
まあ、当たり前といえば、当たり前のことが書かれているのだけど、結局、もう、どうあがいても、eコマースは、株を公開するほど、急速に大きくなることは無理だよ、という諦めの宣言にもとれて、しんみりとなった。
彼のブログの最後にアラスカで会ったガイドの話が紹介されている。
そのガイドさんは、熊に襲われそうになったそうだ。
そして、自分のカヤックに逃げ戻って、それで逃げようとした。
もちろん、もう、死を覚悟したそうだ。
死に物狂いで、湖の沖に向かって漕いだ。
ふと気がつくと、なんとか、生きていた。
振り向くと、熊は、浜で立ち上がり、彼に向かって吠えていた。
その熊は、泳いで彼を追いかけてこなかったのだった・・・
もちろん、その熊が泳ぐ気になったら、命はなかったんだけれど。
Photo by ucumari