この逸品に江戸人のユーモアを見よ(付:プレゼントを貰ったらこうして喜べ 動画)
実は、危険な領域なのだけど、今日は挑戦してみようと思う。
布のアンティークを扱って10年を超えたけど、諸先輩方はウン十年。
「なのだ」調で書くには、赤面が伴う。
が、「ですます」調では調子が乗らないので、「なのだ」調でいくのだ!
この袱紗の話だ。
そもそも「袱紗」(ふくさ)って、なにか、日本人の何割が知っているだろう。
一番身近なのは、結婚式などでお祝いののし袋を包むものだ。
だけど、袱紗に包んで、受付で袱紗の中から中身を取り出して渡す、ということが作法だとは知っていても、そうしない人も多い。(あっ!すみません。僕もでした)
そして、こういう大きな袱紗(これは63cmx71cmある)は、なにに使うのか。
結納などを本式にした方はご存じだろう。
広蓋の上に贈り物を置き、その上に、こういう大きな布(袱紗)をかけて、相手に渡すのが、本式の贈り方なのである。
かといっても、そんな本式の結納式をするかたは、少ないだろう。
うちでも結納式をやったが、広蓋、袱紗は用意しなかった。(結納式の様子)
だからたぶん、とくに若いかたは、このでっかい魚を刺繍した布はいったいなに?
フクサ?
何に使うの?
ということになること必定である。
しかあし!
この袱紗は、そんじょそこらの袱紗とは違う、とてつもない優品なのである。
江戸末期。
呉服とコメの商売で大儲けした、ある狸オヤジ。
大旦那になった手前、いろんなひとにいろんなものを贈る必要がある。
娘の結納はもとより、お代官さまへの袖の下、夢中になっている花魁へ、ほかにもいっぱいいっぱい、大旦那でいるってことはたいへんじゃ。
まあ、そうしておけば、結局、自分に帰ってくるもんじゃ、わっはっは!
じゃが、ワシがやる以上、普通のものでは面白くない。
吉祥の柄といえば、海老とか鯛とか鯉に、じじばば(高砂)。
そんなもんじゃ、つまらん。
ワシらしく、相手をびっくりさせたいんじゃ!
じゃが、絶対に、安モンに見えてはならん。
ワシの財力を見せつける品物でなければ、ワシが使う意味がない。
おい、袱紗屋よ。
カネに糸目はつけん。
ワシにぴったりの、誰も見たことがないような、そんな袱紗をつくってこい!
と、まあ間違いなく、そんな会話がかわされ、この袱紗が出来上がってきたのだった。
鯛が二匹、しめ縄のような藁の束で結わえられている。
その大きさが、デザインのバランスが破格である。
鯛の表情がひょうきんであるだけでなく、そのデザインの奔放さ、既存の袱紗のイメージをぶち壊す意匠が、不思議な可笑しみを生んでいる。
しかも、この大きな鯛の身体全面を、鱗を一枚一枚表現しつつ、一針一針、縫い詰められているのである。
藁の部分は、すべて金駒刺繍である。
日本刺繍には様々な技法があるのに、あえて、刺繍の技法も色糸の数も限定し、この大きな面積を使い切っているのだ。
それが一層、迫力のある、可笑しみを生んでいるのである。
狸オヤジの大旦那は、出来上がってきたこの袱紗を見て、大喜びしただろう。
これぞ、ワシにふさわしい袱紗じゃ!
で、何かあるたびに、広蓋に、のし袋に入れたゲンナマでも載せて、この袱紗を掛けて、使いに持たす。そして、使いのモノに、こう言うのだ。
おい!
あいつ馬鹿やから、わかってへんぞ。
お返しをするときに、必ず、この袱紗も返せって言っとけ。
ワシがそう言うた、なんて言うんじゃないぞ。
番頭に言われたとでも言っとけ!
(この袱紗にワシがいくら使ったか、馬鹿にはわからんからな。この袱紗は、花魁のあいつに贈り物をするときに、一緒に、やってしまうんじゃ! アイツの喜ぶ顔が目に浮かぶ、しめしめ)
というわけで、この袱紗を見た途端、僕にはその来歴が、はっきりと見えたのであった。
おそらく、この優品も、海外のお客様のもとへ行ってしまうだろう。
さあ、日本の皆の者、見納めじゃ!
とくと楽しむがいい!
(商品ページはこちらです)
(追記 やはり、海外への嫁入りが決まりました~~さよなら~~)
(付録)もし、めちゃくちゃ気合の入った、こんな袱紗と贈り物をもらったら、こんな風に喜びましょう。
見ているだけで、こっちも、幸せになります!
(1)子供編~さすがに子供の喜ぶ様は感動です
(2)オトナだって、こんな風に喜ばなくっちゃ
(3)おじいちゃんも喜んでます。だって、息子さんにフェラーリ貰ったんだもん!