泳ぎの苦手なラブラドール
うちのラブは、泳ぎが苦手だ。
犬はどこまでも飼い主に似るらしい。
恥ずかしいことだけど、じつは、僕も中学生の最後のころまで泳げなかった。
海は浮力が強いから泳ぎやすい、ってオヤジは、毎年、若狭湾に連れて行ってくれたけど、いつも浮き輪を抱いて浮かんでた。
ひどいコンプレックスだった。
オヤジは、僕が中学生にもなって、浮き輪を抱いていることに、ブツブツ文句を言ったし、学校ではもっとたいへんで、高校1年ぐらいまで、プールの授業となると、仮病をつかってサボっていた。
泳げぬものにとって、夏のプールの時間がどれほど恐怖に満ちたものか、きっと、普通のひとには理解できまい。
ラブラドール・レトリーバーは、カナダ・ラブラドル半島が原産で、昔は、氷の張った海中に入り、漁網を引っ張ったり、魚を回収したりしていた、と言われている。
Youtubeにも、嬉々として水に飛び込み、泳いでいるラブラドールの映像がたくさんアップされている。
そういった泳ぎの得意なラブラドールだから、うちのラブも、きっと水が好きだろうと思いこんだ。
1歳半か2歳ぐらいの時、近くの川に遊びに連れて行って、喜ぶだろうと思って、彼女を深みに突き落とした。
すると、驚いたことに、ラブはしばらく水面に上がってこず、やっと水面に顔を出したときに、慌てて、引っ張りあげた。
かわいそうに、うちのラブは、その件以来、けっして自分で、足の立たない深さのところへは行かなくなった。
泳げないわけではない。
抱いて沖まででて、そっと離してやると、泳ぎだし、ちゃんと岸に到達する。
何回やっても、それはできるのだけど、けっして、楽しそうではない。
あとでラブラドールの飼い主のかたに聞いたら、いくらラブラドールでも、最初はそっと泳ぎを教えてやる必要がある、とのことだった。
知らなかったばかりに、ラブの短い人生から、泳ぐという楽しみを奪ってしまった。
ラブに許された夏は、多くても15回。
ほかの子たちのように、泳ぐ楽しみを知らないまま過ごす夏。
ラブのそんな4回目の夏が終わった。