BS(貸借対照表)が読めない経営者だった・・・
さまざまな本を読んだり情報に接していても、実際はその根本で理解していないということがある。
そして、ある日、その根本が理解できて、ときどきに浮かんではなんとなく解決していたような疑問が、すべて綺麗さっぱり氷解する。
そんなことがある。
恥ずかしながら、ほんとうに恥ずかしながら、BS(貸借対照表)を、どうやら、やっとその根本で理解できたように思う。
いや、恥ずかしい。
18年会社に勤めてある程度中枢に近いところにもいて、14年も自分で事業をやって、いまやっとである。
18年の間にはたくさん話は聞いたし、日経新聞はよく読んでいたし、企業財務や会計の本も読んだ。
だが、時々に理解するように勤めて、理解したと思っていたが、根本を理解していなかったので、いつも同じような疑問で立ち止まっていた。
自分で会社を経営すれば、BSは自然と読めるようになるのかと思っていたら、14年経っても読めない。うちの場合、現金仕入、現金販売がメインなので、資金繰りに悩むことはないし、借金もない。毎月、利益を出せるかどうかだけが勝負で、それを積み上げて14年やってきた。そうなると、BSというのは、税理士さんから資料としてもらっても、興味をもって見る必要がない。僕がいつも見るのは損益計算書どまりで、BSで純資産を見てニンマリという風にはならなかった。
恥ずかしながら、やっとBS理解したわ、税理士さんにそう言うと、税理士さんはこうおっしゃった。
「いや、ほとんどの人が理解してませんよ。中小企業の経営者も、大企業の社員さんも」
気休めを言ってくれているだけかもと思ったが、ちょっと安心した。
ところで、僕の開眼のきっかけは、いま書いている小説である。
それは地方百貨店の再生と中年の危機をテーマにしたものなのだが、会社の経営の話をつくっていると、どうしても会社法やBSの知識が必要となってくるのである。
たとえば、地方百貨店というのは、誰が株式をもっていて、その株式の売買はできるのか、議決権はどうなっているのか。不振が続き債務超過になったら、経営者の日々はどんなふうになるのか、毎日の資金繰りに奔走するようになるのか、銀行はどうするのか。その地方百貨店を救済するには、どんな手があるのか、第三者割当増資をするのか、もしそうするとすれば株価はどうやって計算するのか。減資して増資するとはどういうことか、その時に現金の移動はあるのか。
ストーリーを作ろうとすると、次から次へと疑問が湧いてくるのである。
それをひとつひとつ潰していくうちに、やっと、ある時、ぱっと、BSが理解できた(ような気がする)のである。
僕は、あわてて自分の会社のBSをひっぱりだして、はじめて本当の興味を持ってそれを見た。
たいていのことはネットと本で理解したが、どうしてもわからないところは、たまたま、地方百貨店の買収や再建を手がけた大先輩がご近所におられて、最近も二度も宴席でご一緒させていただいたこともあり、その先輩に尋ねることで疑問が溶けた。
ちなみに、その小説ができたら、出版社の方に読んでもらう前に、その方が読んでもらえるとのことで、とても心強く思っている。
経営者を育てるには、子会社などの経営を実際にやらせてみるのが、もっとも効果的だとは、よく聞く話である。
おそらく、経済小説を書いてみる、ストーリーをつくってみる、というのも、それを疑似体験できるという意味で、よい訓練になるのだな、と思った。
ストーリーを考えていると、登場人物が、どんな理由でどんな思いでどんな行動に駆り立てられるかを書かなくてはならないし、その背景として、BSで表される数値を想定しなくてはならず、しばりとしての会社法も理解しなくてはならない。
おそらく、大学で経営学や会計を学んだ方は、すでによく理解されていることかとは思うが、そういう背景のない僕には、今回の体験は、実際に自分の会社を経営すること以上に、企業経営を理解できたような気がするのである。
これでやっと、BSが読めない経営者卒業である。
photo by Jed Sullivan