僕のつまらない『勝負靴下』の話
僕は、言えば、長年、ファッション産業に身を置いてきた。
百貨店って、もちろん、ファッションが主力だし、リサイクル・アンティーク着物もファッションだ。
だが、正直に言って、僕はあんまり「おしゃれさん」ではないし、センスも自信がない。
商売としては、最近では、娘の麦がコーディネートや「おしゃれ」担当重役で、僕や嫁の足りないところを補ってくれている。
おしゃれにさほど自信がなくても、服は自分で買う。仕事着としてのスーツはいらないので、カジュアルでそれぞれのシーズンに流行っているものを買いに行く。僕にとってそれは勉強の機会でもある。
おしゃれさんではない僕の、たったひとつのルールは、ピーコさんがどこかでおっしゃっていたこと、「コーディネートのポイントはひとつに絞れ」である。
センスのない僕は、着る時も、買う時も、油断すると柄だらけになってしまうのだ。
たとえば、ネイティブ・アメリカンのごついバックルのついた太い皮のベルトを買ってしまう。そいつは存在感満点なのでモノとしては触っているだけでうれしくなるのだけど、普段着ている派手目のシャツに合わせると浮いてしまう。無地のTシャツなんかと一番合うはずなのだが、買って何か月も経つが、いまだにそれを合わせるほかのアイテムがなく、引き出しに入ったままだ。
最近、凝っているのは、靴下である。
いままで靴下の購入は嫁に任せていたのだけど、いつのまにか、履こうとすると紺とか黒とか暗い色しかない。ジーパンにそれを履くと、イマイチどころではない。
で、先日、思いっきり奮発して、ポール・スミスの靴下を数足買った。
靴下と言えば、3足1000円か、せいぜい500円ぐらいのイメージしかない。
だが、ポール・スミスのそれは、1800円から2000円もするのである。
しかし、さすがにポール・スミスのデザインだけあって、かっこいいんだよな、これが!
この数足の靴下を、僕は勝負靴下と名付けている。
もちろん、そんな高価な靴下を、普段の事務仕事をするときや、犬の散歩に行くときに履くなんてもったいなくて心が休まらない。
大切においておいて、着物の市場に行くときとか(靴を脱いでの仕事になる)、座敷の宴会に行くときだけ、そいつを履く。
ただし、問題がふたつある。
ひとつは、例によって、デザイン的にかなり激しいものを買ってしまったので、靴下がピーコさんの言う「たったひとつのポイント」になってしまいそうなのだ。ポイントにしようと思っているシャツと、どちらがメインか競争になってしまうのである。だから、シャツを先に着て靴下を選ぼうとすると、その選択がとても難しくなってしまうのだ。
ふたつめの問題は、周りのひとたちが、僕の靴下をその日のコーディネートのポイントであると認識してくれているのかどうか、不安になるということだ。
靴下を主役にコーディネートした場合、ズボンとシャツなどはシンプル気味になるので、靴下に注目してもらわないと、その日のコーディネートが生きてこないのである。
仕方がないので、最近、僕は「このパステルのアーガイルの靴下、かっこいいやろ!」と足をあげてみんなにアピールすることが増えた。この間は僕と同年代のおしゃれライバルが自分の足を台の上にあげて、「こっちの方がかっこええで。これは靴下専門店の〇〇で買ったやつや!おまえのは、どうせユニクロやろ」と張り合ってきた。満座の中で恥をかかすわけにもいかないので、僕はただ、ふふふと言うにとどめ、ひそかに大きな優越感を得た。
さて、今日も市場である。
僕は勝負靴下の中から、薄い水玉模様のものを選んだのだけど、片足しかない。「きっとどこかにあるわ」と嫁は屈託がない。いや、それは、僕の大切な勝負靴下のなかでも、一番のお気に入りなんだよ。引き出しを引っ掻き回すのだが、もう片方の靴下はない。
「洗濯機の中に忘れたかな?2階かも」と隣の部屋から嫁の声。
とほほ。
土曜日だというのに、つまらない話に突き合せてごめんなさい。
なお、写真は麦のコーディネート。
オレンジの水玉の着物はアンティーク。帯は現代もの。
水玉を共通のモチーフにしながら、帯の水玉から覗く猫がポイントになっている。
着物のコーディネートは、こういうストーリー性のある組み合わせができて、楽しいですね。
では、行ってきます!