ICHIROYAのブログ

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「起業を増やして経済の活力を高めよう」って言うなら、まず、お前がやれ!

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by The National Guard


「起業を増やして経済の活力を高めよう」

というようなことが、あちこちで言われている。
なら、これを書いている、日経新聞の記者、まず、あなたが、会社を辞めて、起業してみたら、と言いたい。

政府も、起業を巡る環境を、整えつつある、という。

たとえば、悪名高かった包括根保証はすでに禁止されたし、現在、連帯保証人の禁止や、個人保証ですべてをむしりとることは禁止するような法改正が検討されている。

もちろん、僕のような小さな事業主にとっては、ありがたい話だ。

幸い僕には借金はなく、連帯保証人を誰かに頼んだこともなければ、誰かから頼まれたこともない。
だが、運が悪ければ、どうしても、担保をつけられないお金が必要な時があったかもしれないし、今後もあるかもしれない。
その時、連帯保証人を連れてこいと言われたら、途方にくれるほかない。
家族親族に迷惑と心配をかけるか、知人に頼むしかないのだけど、知人に頼んでしまえば、今度は、いつか、逆に頼まれる時が来る。
その時は断れない。そうなれば、自分の事業の成否が、相手次第になってしまうのだ。

会社で受けた融資を、個人で保証するということそのものは、禁止されないようだけど、万一、会社を潰してしまって、その融資を返せなくなった場合、いままでのように全部むしりとって路上に放り出すのではなく(正確には現在は破産法で99万円が認められている)、400万円程度を残して、再起をしやすくしてやろう、という方向で議論されているようだ。

しかし、それはありがたい話で、あればあったでいいけれど、だからといって、起業が増えるということではない。
絶対に。

こういうイメージが浮かぶ。

お国の役人さんや、マスコミの偉いさんは、巨大な豪華客船に乗っている。
嵐が来ても、船は微動だにせず、船内は快適そのもの、毎夜、宴が繰り広げられている。

僕は、筏に乗って、その巨大な、壁のような船体を見上げている。
筏から、その船に乗り移る方法はない。
はるか上方から、声がかかる。

日本の経済を活性化するためには、君のように、起業する人たちが増えることが、一番大事なんだ!
頑張ってくれ!
ひょっとしたら、地上の楽園の島に、たどり着けるかもしれないし!
ほら、1週間分の水と保存食も用意した(個人保証でも手元に残される400万円)
それに、ほかの筏と結んでいたロープも切ったよ(連帯保証人の禁止)
さあ、行け!


僕は、まあ、いわば、普通のレベルの個人事業主だ。
「起業」と言えば、聞こえはいいけど、要は、「自分で商売を始めた」だけの話である。
日本の経済の活性化のために、「起業」を増やすべき、というのは、たぶん、ITやバイオ関連などの大きなイニシャルコストが必要な「起業」だけでなく、僕らのような零細な商売人のことも含まれているのであろう。
だって、僕らのレベルの「起業」が、数の上から言えば、大多数だと思われるからだ。


僕は、12年前に大企業を辞めて起業し、なんとか、ひとつの商売で生き抜いてきた。
小さなボロ筏で、よくここまでの航海を乗りきれてきたものだ、と思う。
で、もし、誰かが、僕に、「万一ってこともあるでしょう? そんな時、再起しやすい社会にするために、どうして欲しいですか?」と聞いてくれたら、どう答えるべきか、真剣に考えてみた。

たしかに、400万円、手元に残してもらうのは、ありがたい。
次の商売をみつけるために、1年ぐらいの猶予はいただけそうだ。
20万円x12=240万円。
そして、160万円を、次の商売のネタ銭にする。
160万か・・・自社サイトは無理だから、何か売れそうなものを探してきて、ヤフオクで売るか・・・
どこか、追加の資金を貸してくれるところは、あるのかな。
そもそも、国金は、破産直後でも、プランが良ければ、貸してくれるのかな・・・
厳しい。
なんとか、10年、生き抜いてきた、という自負はあるものの、この状況から、再起せよ、と言われても、かならず、できるという自信はない。

かといって、就職も厳しい。
もう54歳なので、アルバイト程度の仕事しかあるまい。
そもそも、京大卒の頭でっかちで、会社経営をしていた使いにくそうなヤツで、しかも会社を潰した馬鹿モノを、いったい、誰が雇ってくれるというのか。


じゃあ、どうして欲しいのか。
ひとつは、400万じゃ足りないってことだ。
400万は、死なずにすむという金額で、本当の意味で、再起できる金額ではない、と思うのだ。
42歳で、僕が会社を辞めるという決断ができたのも、会社が、1千万円強の、退職金を用意してくれたからだ。
手元に、1000万円残れば、再起は、はるかに現実的になる。

贅沢だ、と思われるかもしれないけど、マジな話だ。
一家の大黒柱、とくに、40才代なら、子供の教育費もかかり、月20万でやる、というのは、相当、厳しいはずだ。
生活費500万円、再起のための資金500万円、というのが、ほんとうに助けになる、ぎりぎりの線ではないだろうか。

もしくは、だ。
国金などの、公的融資が、破産直後であれ、なんであれ、ちゃんとしたプランであれば、資金を貸してくれることだ。
その資金を貸してくれれば、400万円で生活をしつつ、新しい商売をスタートすることができる。


個人保証も禁止したら良い、という声もあるようだが、僕は懐疑的だ。
個人保証をなくせば、金融機関は、利子をおもいっきり上げるか、リスクのある融資をやめるしかない。
金融機関が、「この融資による事業は絶対に成功する」と確信するプランを提示しなければ、融資してもらえなくなる。
そんな話を描けるなら、金の出し手はいくらでもいるわけで、ないものねだりなのだ。


しかし、もちろん、一番の望みはそれではない。
無理とわかっていて、あえて書くのだけど、一番望みは、そこそこの仕事に再就職できるという選択肢があるということだ。
そういう社会であれば、僕が起業した時、客船を飛び降りたときの恐怖感は、相当薄らいでいたはずだ。


いままでうまくやれたからといって、今後も、僕がうまくやっていけるかどうか、まったく、保証はない。
どんなことをやっても、新しい事業は失敗がつきものだ。
長い間、稼げない場合も多い。
だけど、いったん、大企業をやめてしまい、歳をとると、それなりの就職をするのは、不可能なのだ。
だから、また、失敗するかも知れなくても、永遠に、次の商売にトライし続けるしかない。
もちろん、その覚悟で、僕を始め、すべての商売人、起業家たちは、毎日、死に物狂いで走り続けているのだ。


ひとそれぞれが、その持っている能力に相応しい仕事と給与を、その場その場で、市場原理に従って、得られる、というのが理想だ。
だが、今の社会は、全然、そんな風になっていない。
大企業、公務員になったものは、永遠に、豪華客船に乗っているようなものだ。
降りることはできても、けっして、途中で、乗ることはできない。


この仕組を変えないと、永遠に、起業家が増えることはないだろう。


そんなことを考えていたら、少子化対策のために、内閣府の「少子化危機突破タスクフォース」が、妊娠や出産に関する知識や支援策を記した「生命と女性の手帳(仮称)」を作成する方針を決めたというニュースが飛び込んできた。
そして、この記事を読んで、ああ、ここでもおんなじことが起きているな、と思った。

「女性手帳」に感じる強い違和感の原因は何だろう


女性も、妊娠と子育てのために、豪華客船を降りたら、二度と戻れない。
それも、少子化の原因の大きなひとつであることは、間違いない。

安倍首相の「全国の保育所の待機児童をゼロにする」というプランは、ほんとうに素晴らしい。
が、それだけでは、足りないはずだ。

肝心なことは、子育てとキャリアの二者択一を迫らない社会、望めば、能力に見合った仕事と給与が、いつでも見つけることができる社会にすることだ。
「女性手帳」を配るという施策は、豪華客船に乗った誰かが、「日本のためです!出産という筏に、みんな乗り移りましょう!ほら、海図も上げましょう!」というに、等しい、と思うのだ。


国がいくら掛け声をかけても、起業が増えることもなく、出産が増えることもないだろう。
豪華客船に乗っているものが、筏に乗り移れと、いくら言っても、みんな、そのことの意味がよくわかっているのだ。
そして、筏に乗れと、率先して言っているものは、たいてい、自分は、豪華客船から降りようとしない。

ああ・・・
「雇用の流動化」について、ついつい熱くなって、長文を書いてしまった。
こんなことをやってる場合じゃなかった!
商売、商売!
頑張らなきゃ、潰されちゃうぜ!

では、起業は、くれぐれも慎重になさいませ!