ICHIROYAのブログ

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ナデシコの柄の超キュートな千總の反物が58円だった!

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うまくいけば、世の中の物価が、年2%上がるようになる、という。
2%上がっていけば、5年後には、10%、10年後には、約20%、そして、20年後には、約50%の値上がりが期待できる。
理想どおりに進めば、物価だけでなく、給料も、金利も、税収も、等しく増えて、丸く収まる、らしい。
そうなって欲しい。
まったく、そうなって欲しい。

「・・また、そろそろ、在庫の値段、上げなくちゃ! この値段じゃ安すぎだ!」
なんてことになったら、夢のようだ。
うふふ。

ところで、アンティークの着物は、普通、着物の形で出てくるが、たまに、反物のままで保管されたものが出てくる。
上の写真は、先日ゲットした、大正~昭和初期ごろの、ナデシコの柄の着尺反物である。
可愛いなあ!と思ったら、業界の至宝、京都「千總」さんのラベルがついていた。

昔から、こういう小紋でも、さすがに、「千總」さんは凄かった。

「千總」さんのラベルだけでなく、実は、値札もついていた。

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「小売業者最高販売価格」      反58円
「生産者又は卸売業者最高販売価格」 反45円

 

三越さんが、有名な、デパートメント・ストア宣言を行い、「現金掛け値なし・正札販売で、すべてのお客様に正直に、同一の値段で販売する」こととしたのは、明治37年(1904年)である。
この反物は、大正後期から昭和の始めの10年間ぐらい(1920年から1930年)のものかと思われる。
のちの時代、百貨店はその魂を失って、「参考上代」「希望小売価格」などという実態のない「とんでも価格」と、実際の販売価格を表示するようになるのだが(のちに、法律の規制で、その姿勢は修正を余儀なくされる)、この時代には、その理想が生きていたようである。


この反物は、古い小売店の蔵から出たのではなく、一般家庭から出た。
おそらく、どこかの呉服屋さんか、デパートで、買い求められたのであろう。
となると、この値札がついたまま、この反物は、店先に並んでいたと考えられる。

「小売業者最高販売価格」という名称がついているので、買う側は、この値段から、安くしてくれ、と交渉したのだろうか。
「58円って、最高の値段でしょ!あんた、まけてよ!」

でも、売る側も、「生産者又は卸売業者最高販売価格」という、いわば、仕入れ値が入っているので、
「奥さん、殺生な!ここに書いておますやろ。千總さんの逸品や、最高価格でしか卸してくれまへん。45円したんどす。58円でお譲りしても、儲けは、たった、13円。使用人のお手当ても払わないかんし、商売は色々と入用どす。1円でもまけるぐらいやったら、置いといたほうが、ましどすわ」

というような交渉があったのかもしれない。
たしかに、買う側には安心できる値札ではある。
もっとも、小売価格というのは需給の関係によって決まるもので、本来は、高いも安いも、メーカー側が指定するものではなく、お客様と小売店の間で決めれば良いものだ。
ところが、悲しいかな、規制がないと、とんでもない高額な値段を言ったり、ありもしない「定価」を提示してそこからの値引きをうたう販売業者が現れるのである。


この値札は、そんなことはいつの時代にもおきていた、ということを教えてくれる。


ところで、反58円って、安すぎない? という印象である。

「値段史年表」(朝日新聞社)に載っている値段を少しひいてみると、当時の物価は、こんな感じ。

・銀座木村屋のアンパン 2銭 (大正6年)
・板橋の3LDKの家賃 5円20銭 (大正3年)
・小学校教員初任給 12-20円 (大正7年)

この反物の値段58円は、小学校の先生の初任給の3~4ヶ月分ということになる。

現在の小学校教員の初任給(大卒)は、20~22万円ぐらいと言われているので、3~4ヶ月分となれば、60万から80万円というところ。

こうして計算してみたら、当たり前だけど、当時の価値と、いまの価値はほとんど変わらない。
やっぱり、昔から、良い着物は、それなりの値段で売られていたのである。


と、ここまで書いた気がついた。
在庫の値段が上がって、ウハウハしたくとも、何もかも値段があがるのである。
家賃も上がれば、販売に関するコストも全部上がる。
金利も上がるから、在庫でもたずに、銀行に預けておいても、資産価値は上がっているはずである。


在庫の値段が上がってウハウハは、「千總の反物がかつて58円だった、安い!」と同じく、ちょっと浅はかな考えなのであった。
やはり、世の中には、濡れ手に粟のうまい話は存在しないのである。