ICHIROYAのブログ

元気が出る海外の最新トピックや、ウジウジ考えたこととか、たまに着物のこと! 

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ショーバイ、商売、悲しきかな、楽しきかな

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アンティークやリサイクルの着物は、おもに、業者間の競り市で仕入れる。
プロの競り市では、みんな生き残りに必死なので、いろんなドラマや、ダマシなども行われる。

素晴らしいモノとおもって、高値で落札したら、大事なところにツギがあった、とか。
証紙がついていると思って買って持って帰ったら、別物の証紙が貼り付けてあった、とか。  
持って帰ったら、どこかの店の値札がついていて、落札価格より安かった、とか。
やけに競り上がってくるなと思ったら、その相手がこっそり出品している品物だった、とか。

男物の着物のヤマを安く落札して持って帰ったら、羽織の裏にダッコちゃんがついていた! なんてことも、まったくないではない。
が、100回泣かされるあいだに、1回あるかないか。

そうは問屋がおろさない。
人間ってやつは、なかなか抜け目がないものなのである。

こういう競りでは、出品者の名前を伏せて売ることができる。
そのため、売れ残りの品物を、別人の出品者Xのものとして、出品することも、頻繁に行われている。
その出品者が、競りに参加して、競り上げることもできる。

そもそも骨董の市場では、なんでもありである。
何があっても、「騙されたほうが悪い」であり、徹底している。
「騙される程度の眼」で、何がプロか、というところだ。
着物の市場でも、そういった方針を色濃く受け継いでいるところも多いのである。


僕はそういうことは嫌いなので、 過剰な在庫を競りで売るときは、ちゃんと、自分のモノとして売る。
しかし、安い。
驚くほど安い。
みんな、どうせネットに出したものの売れ残りだろう、と思うのか、買値の何分の一かになってしまう。
まあ、それも、しかし、仕方あるまい。


さて、あるとき、競り市で大量の襤褸(ボロ)が出た。
襤褸というのは、使い古してとろとろになり、不思議な魅力を持つにいたった古布のことを いうのだが、この襤褸は、世界的な人気がある。(上の写真も一例)

ちょっと、ボロさが、もうひとつだな、と思いながらも、ほどほどの値段で落札していった。
パッキン3ケースぐらいになっただろうか。

途中から、ちょっと、嫌な予感はしていたのだ。
やっぱり、あんまり、綺麗じゃない、ボロさが足りない。

事務所に持って帰って、じっくり見たら、懸念は的中していた。
やまのように買い入れた襤褸だけど、僕が良いと思うものは、ひとつもないのである。
売りたくても、サイトに出品したいようなものが、ひとつもない。

出品者が悪いというわけではない。
そもそも襤褸の評価は、見る人によって千差万別である。
それに、僕はちゃんと見せてもらって競り勝ったわけで、出品者に文句を言う筋合いはこれっぽっちもない。

仕方がないので、パッキンに戻し、倉庫の隅にほおり出しておいた。

半年ぐらいして、倉庫が一杯になってきたので、その襤褸を市場に出すことにした。
捨てるには惜しいし、きっと、いくつかは欲しいひともいるだろう、と思って。

ある市場にそのパッキンを持っていき、主催者に渡す。
「いくらでもいいから、売っちゃって」
「おまえのってわかったら、安くとられるから、名前変えてだそか?」
「いいよ、俺の名前で。損は覚悟してるから」

そして、ぼくの出品の番が回ってきた。
襤褸のパッキンは、前、競り人の後ろに置かれ、気を使ってくれた主催者が、
「いい襤褸があるよ~!」とか言って、盛り上げようとしながら、襤褸を何枚かずつ出して、競りにかけてくれる。
「え~~? いつも買ってんのに、なんで売ってんの?」などと、業者から声がかかる。
「いや~~たくさんあるし、好きじゃないから~~」などと答える。


そんな風に競りが進み出した時、 一生懸命競りをすすめてくれている主催者の後ろに、積み上げたパッキンに文字が見えた。
太いマジックで、黒々と、大きく書かれているのだ。

「ダメらんる」と。 

思い出した。
がっかりして、パッキンに戻した時、自分に対する怒りを叩きつけるように、そう書いたのだった。 

主催者は、一生懸命、盛り上げようとしてくれている。
「ちょと、ボロ具合は足りないけど、これは、藍がいいねえ~~! 高いよ~~!」
そして、そのすぐうしろに、「ダメらんる」の文字。

僕はあまりのことに、我慢ができず、吹き出してしまった。
いったん吹き出してしまうと、もう、笑いが止まらない。
ひっくり返って笑っていると、
「どうしたん?どうしたん?」

で、先輩のひとりがついに、その文字をみつけ、

「『ダメらんる』って書いてあるわ。これ、 『ダメらんる』 やねんて」


 もちろん、かなり損をした。
まあ、日常的な損のレベルだったけど。


アンティーク着物の商売は、かくも悲しく、楽しいものなのである



(写真は 襤褸 「ダメ襤褸」じゃありません