ICHIROYAのブログ

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大好きな裏方のYさんのこと

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 業界にYさんというひとがいる。
 Yさんは少しふくよかな体型の坊主アタマのそろそろ中年の男性である。
 Yさんは、アンティーク着物の店舗をもっていて雑誌に紹介されたり、リサイクル着物のネット販売をしているわけでもなく、着物の卸販売をしているわけでもない。
 でも、Yさんは業界では「顔」で、彼なくして関西の業界は回らないとまで言われている。
 僕らは仕入れの時、業者間の市場に行くのだが、大きな市場には、必ず彼がいる。
 市場の采配はすべてそれぞれの市主が行うが、場合によっては、Yさんが声を上げて売りをとめることもある。

 僕らが参加している市場は、膨大な量の着物を猛烈なスピードで競り落とすいわば戦場である。
 安いものも何十万円という高いものもあり、それらが1枚1枚だったり、何十枚まとめてだったり、臨機応変に競りにかけられ、次々に業者に買い取られていく。
 競りそのものに、参加者は職業的な「誇り」や現実的なお金をかけているので、殺気立っているときもあるし、まさに戦場だ。
 間違いは許されない。
 市主は「それが誰の売り物で、誰がいくらで競り落としたか」ということを、いっさいの間違いなく記帳しながら運営しなくてはならず、市によってはビデオ撮影で記録を残すほど、細かい神経を払う。

 気働きの天才のYさんは、そういった市場をスムーズに運営するために欠かせない存在なのだ。
 なるべく多くの荷物を短時間にトラブルなく捌きたい市主の依頼を受けると、Yさんは何人かの仲間に声をかけて市場にやってくる。
 そして、市主が安心して市場を運営できるように、裏方としての采配をふるうのである。
 Yさんは、売主のことも知っているし、ほとんどの競りの参加者と顔なじみで、競り落としたひととツーカーで話ができる。また、どんな着物は貴重で大切に扱わねばならないか、どんな着物は扱いにスピードが要求されるか、よくわかっている。
 だから、少々のトラブルや不明点は自分で解決してしまうし、市場のスピードが遅れ気味で少し急がないと遅くなりそうだとか、いったんスピードを緩めないと買い手の荷物の分別が追いつかないというとき、市主にその情報をインプットする。
 市主はいわば彼をペースメーカーとして、安心して市場を運営しておられるのだ。

 そして、Yさんは、いつもニコニコして、いつも汗水たらして、いつも必死に働いている。
 突き出たお腹につけたウエストポーチには、マジックやハサミやバンドエイドなど市場で必要になりそうな一式がいつも入っている。
 もちろん、Yさんは市主さんから絶大な信頼を得ているだけでなく、みんなが彼のことを大好きだ。
 ときどき、Yさんの姿が見えないなと思った時など、競り場で誰かが「Yくーん、生きてるか?」と大声を出す。すると、見えない荷物の向こうから、「死にそうや~~!」とかいう声が帰ってきて、僕らはYさんが相変わらずそこで必死に下準備をしてくれていることを確認する。
 すると、戦場で消耗した気分が、ほっとほぐれて、さあ、また精一杯戦おうかという気になるのだ。

 Yさん、そして仲間の皆さん。
 市主でもない僕には、 改まって充分な感謝の言葉を述べる機会がありません。
 でも、いつも感謝しています。
 ほんとうに、ありがとう!

photo by Kit