思い通りにならなかった100%想定外の君
人生は計画通りにはならない。
なにもかも、思い通りにならなかった。
君ももちろん、100%想定外だ。
水産学科に行くと決めて受験勉強をしたけど、あとわずかのところで、僕は不合格となり1年の浪人生活を余儀なくされた。
あの時、思い通りに合格していれば、君は生まれなかった。
大学1年の春、たまたま、アイスホッケー部の勧誘に声をかけられなければ、僕はきちんと授業に出て、4年で卒業していただろう。僕の大学生活は、スポーツに費やされることなく、将来のキャリアの準備に備える有意義な時間になっていただろう。
あの時、思い通りの大学生活を送っていれば、君は生まれなかった。
就職活動の時、作家になるなどという子どもじみた夢を捨て去り、将来のキャリアをちゃんと設計して就職先を探せば、百貨店ではないどこかに就職していたかもしれない。 入社させていただき、配属を希望したのは、売り場なら美術品売場、あるいは、宣伝部や営業企画部。
僕はお鍋売り場に配属された。
あの時、希望どおりに、美術品売場に配属されていれば、僕はエプロン売場にいた嫁と巡りあわなかった。そして、君は生まれなかった。
やがて、作家になる夢を諦め、仕事に没頭した。ほとんど休みを取らず、高い目標を掲げて狂ったように自分を追いこんでいった。思春期を迎えた君とはほとんど共に過ごす時間もなく、嫁から何かのトラブルを教えられるたびに、叱るだけ。
あの頃、ちゃんと家族のことを大切に見守っていたら、「パパと車でふたりになるの嫌。話すことなくて息が詰まる」などと言われることはなかった。
40才。作家にもなれず、あれほど頑張ったはずの会社にも居場所はみつからず、僕は完全に目的地を見失った。
あの頃、会社員として成功していれば、会社を辞めることはなかった。
会社を辞めたものの、何をすればいいかわからず、考えたプランは実現可能性が低く次々にオクラに。そして、完全に手詰まりになった。
あの時、実行可能な、素晴らしいプランをすぐに思いついていたら、僕は嫁と四天王寺さんの露天へ、なにかワゴンで売れるようなものを探しには行かなかった。
そして、そこで、古い着物に出会うこともなかった。僕らはそれから今まで、古い着物を生業にすることはなかった。
君も着物に触れることはまったくなかっただろう。
ファッションが好きだった君は、結局、着物販売の会社に内定をゲットしてきた。グループディスカッションで司会をかってでたり、プロフィール紹介のためのボードをつくったり、就職活動に積極的に頑張る姿にびっくりした。だけど、がんばり過ぎた君は、2年弱で辞めて、まるでぽっきり折れたかのように帰って来たね。
僕も嫁も、全然それでかまわなかった。
あの時、あの会社を辞めて帰ってこなければ、君は僕らの会社に入ることはなかった。
僕と嫁と一緒に仕事をすることはなかった。
僕にも嫁にもできない、素晴らしいコーディネートのできる君が、僕らの会社の大きな戦力になってくれることはなかった。
今日もこれから、ふたりでビジネスの打ち合わせに行く。
アンティークテイストの着物のスタイリングは、君の独壇場だ。
「必ず麦さんを連れてきてください」と言われている。
なにもかも、思い通りにならなかった。
だけど、「麦」というおばあちゃんみたいな名前を背負わせた君は、名前に似合わず輝くばかりに綺麗な大人の女性になった。
なにもかも、思い通りにならなかった結果の、100%想定外。
そんな君が、僕のそばにいる。
*Mediumの記事 You’re Exactly What I Didn’t Planに触発されて書きました。
photo by Fadzly Mubin