見知らぬ人へのオープンレターを書こう
あなたの噂を昨日妻から聞きました。
あなたは毎週火曜日、ひとりでそのお店に行かれるそうですね。行けない場合は、わざわざ電話をされるとも。
その話を聞いた時、あなたが男性なのか女性なのか、お年寄りなのか、お元気なのかと尋ねました。
元気な若い男性だとのこと。
そのお店は、自閉症などの働く場のない若い人たちに働く場を提供しようとオープンされたお店です。
厨房でときどき、そういう人たちも働いているようです。
が、お店にはそういった表示は一切なく、ふつうのおしゃれなレストランに見えます。
店の奥にオープン席があり、緑の野が見える素敵な場所です。
料理も素朴なとても美味しいものです。
そんなお店ですが、普通のレストランと異なるところがひとつだけあります。
テーブル間が広く、座席がゆっくりととられています。
じつは、それは車いすでも気兼ねなく入れるようにという配慮です。
その店には、車いすの必要な人とその家族も多く訪れます。
普通の店でありたい、そんなオーナーたちの願いのとおり、お店の背景を知らないひとも多く入ってきます。
なかには、普通のレストランより、料理が遅いとか段取りが悪いと怒る方もおられるかもしれません。
いえ、誤解しないでください。
それはなんとなく、そんな風に僕が思うだけで、仮にそんなことがあったとしても、オーナーたちはそのことをこぼしたりぼやいたりはしません。
さて、あなたは、毎週火曜日に、かならずそのお店にあらわれるそうですね。
オーナーの話を妻から又聞きした限りでは、そのお店の背景を知っておられるとか、あるいはお店の事情を知っておられるとかいう訳でもなさそうです。
きっと、オーナーたちの笑顔や料理、そしてお店の雰囲気が好きで、いつもそうしておられるんですね。
僕はその話を聞いて、とても嬉しく思いました。
あなたが毎週火曜日におひとりで来られるということを聞いて、なんだか、大げさに言うと、やっぱりこの世界は捨てたもんじゃないなという気がしたのです。
いつかあの店でお会いできることを楽しみにしています。
野に咲く小さな花の美しさを知っているあなたに。
*この記事はMediumの記事「見知らぬ人へのオープンレターを書こう」に触発されました。本来は、いつも顔を合わせているけど、実際には話をしたことがない人への手紙をみんなで書いてみようという趣旨です。僕のこの記事の場合は、その人のことは話で聞いただけですので、少し外れます。
photo by Khanthachai Chaitrakulpiboon