ふたつの道~キレモノの道と普通の人の道
いつも楽しみにしているJames Clear氏の最新記事に、ゼムピンを使った目標達成の方法が書かれていて、とても興味深く読んだ。
そこで紹介されているエピソードが、また強烈である。
カナダのTrent Dyrsmidさんという人、23才で証券ブローカーとして新人だった彼は、とんでもない成績をあげた。18か月で扱い高は5百万ドル(6億円弱)になり、24才の時には7万5000ドル(約900万円)の給与を得ており、2,3年後には別の会社で20万ドル(約2400万円)の報酬を得るまでになった。
彼のやったことはこうである。
毎朝、120個のゼムピンをひとつの瓶に入れる。
お客様にセールスの電話を一回する度に、ゼムピンをひとつ別の瓶に移す。
毎朝8時にそれをはじめ、必ずすべてのゼムピンを別の瓶に移し終えるまで、電話をかけ続けた。
そして、その時間を確保するために、彼は株式市況もアナリストのレポートも読まなかった、というのである。*1
Clear氏の記事は、もっとも大切なことに集中すること、それを続けること、そして、それを習慣にするには、ゼムピンと瓶のようなビジュアルな仕掛けが効果を発揮することを説いている。
なるほどと納得したのだが、なんだか少し心にひっかかった。
しばらくして、ひっかかった理由がわかった。
たとえば、野心に燃えた新人、自分はできる、将来は大物になるのだ!という若者が、この記事を読んだらどう思うだろう。
先輩が「株式市況や、アナリストの情報や、日経で話題になっていることを、ちゃんと調べよ。それでセールストークの説得力が増すから」というアドバイスをしても、彼の耳には届かないのではないだろうか。
そんな先輩のアドバイスを聞いている時間があれば、電話のひとつもかけることができるはずだと。
では、Trentさんのアドバイスと、先輩のアドバイスでは、どちらが正しいのだろうか。
Trentさんにとっては、そのやり方が正しかった。
すこし調べてみたら、彼はカナダのProfit100に二度選ばれた会社を興してすでに売却しており、Bright Ideas Podcastというサイトを運営して何百人というマーケッターをインタビューしつつ、現在は Salesforce Marketing Cloudという会社のアカウント・エグゼクティブである。
彼は相当なキレモノなのである。
僕はなんとなく合点した。
世の中には、キレモノがいて、そういう人たちは、どこにいても、極端なことをとんでもない熱量とスピードでやり、頭角を表す。そうやって一点突破したあとには、さまざまな分野に自分の仕事を広げていったり、より効率の高いところへと移っていく。
もし、アドバイスを受けるほうが、彼に劣らぬキレモノなら、彼のアドバイスは非常に有効だ。
だが、そうでないなら、まあ並の人間なら、彼のアドバイスは良い結果を生むとは限らないように思える。
並の人間なら、先輩の言うことに素直に従って、ゆっくりと階段をあがっていくような仕事の仕方のほうが、長い目で見て有利になるように思えるのだ。
僕らはふだんから、さまざまなアドバイスや血沸き肉踊るアイディアを聞かされ続けている。
そのアドバイスには真実が含まれている。
が、世界には、キレモノの道と、普通の人の道がある。
キレモノの道を行く人に、普通の人のアドバイスや経験は役に立たないし、逆に、普通の人のアドバイスは、キレモノの道を行く人の役には立たないのである。
この言い方をするなら、僕は若い頃、20代から30代のころ、あるいは起業しようとした時、キレモノでもないくせに、キレモノ向けのアドバイスを真に受けて、大きな失敗をしたような気がして仕方がないのである。
そのことを伝えたくて、ずっとブログを書いているような気もするのだ。
ところで、Clearさんが伝えたいこととは関係のないところで、この記事を書いてしまったが、「もっとも大切なことに集中すること、それを続けること、そして、それを習慣にするには、ゼムピンと瓶のようなビジュアルな仕掛けが効果を発揮すること」が、普通の人が成功するためにもっとも必要なことであることも間違いない。
せっかくの素晴らしい記事なので、そのアドバイスを真剣に受け取って、他のこととどうやってバランスをとって併存させていくのか、一度考えてみても損はないように思う。
photo by Bs0u10e0
*1:ほんとうに必要なニュースは向こうからやってくるとも書いておられる