ICHIROYAのブログ

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僕とまったく違う世界に生きている嫁の話

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                                                                                         photo by Tom Eversley

 

 嫁は、僕とまったく違う世界に生きている。
 
 たとえば、昨日は土曜日でふたりで一緒に過ごしたのだけど、こんな一日だった。

 僕は早朝から起きて、ブログや頼まれている原稿を書いた。

 嫁もそれなりの時間に起きてきて、介護施設にお世話になっている、僕の母と一人暮らしをしている父のところへ行く段取りを始めた。
 僕の妹に電話をして、妹も行くつもりであることを確かめると、ふたりで母にもっていく差し入れをどうするかというようなことを決め、父の昼をどうしようかと僕に訊ねる。
 実家の周囲には食べ物屋さんがなく、みなで食べに行くにも無駄に時間がかかるのである。
 僕が妹に再度電話をして、何かお昼に食べるものを買っていくことに決めると、嫁は「お昼買ってくる!」と言って、さっさと近くのスーパーに、お寿司を買いに出かける。
 
 運転中、嫁のする話は、彼女の知人の消息の話とか、娘や孫のことがほとんどだ。
 昨日は、ビームスの 設楽社長の起業の話とアメリカ進出の話もあったが、基本的には、彼女が心配している友人や知り合いの話が多い。そろそろみんな歳なので、病気の話など、ちょっと暗い目の話が多い。
 彼女はいつもそうやって友だちのことを心配していて、自然と話題がそういう風になる。
 僕はといえば、自分のこと、自分が守るべき範囲のことで気持ちが一杯なように思え、さらに心配事を背負うのはしんどいような気がして、半身で聞く。(そして、ときどき、叱られる。)

 昨日の父と母のところへの訪問は、妹が主役でほとんどやるべきことをやってくれた。
 
 で、夕方、家に帰ってきて、嫁は九州の方からいただいた生麺のラーメンをつくってくれる。
 僕は食後さっさと風呂に入り、朝の続きで、リビングルームでパソコンに向かう。
 正月明けに渡すことになっている原稿は、まだまだ先が遠い。ビッグチャンスなので、なんとか良いものにして、次につなげたい。

 嫁がリビングにやってきて、軽くピアノの練習を始める。
 彼女はクリスチャンで、毎日曜日の礼拝に行くのだが、ピアノの奏楽が順番でまわってくる。
 翌日に弾かなければならない曲を練習しているのだ。
 僕は原稿を書きながら、彼女の演奏を聴く。がんがんに弾くわけでもなく、運指をゆっくり確認するように弾くだけなので、僕の仕事の邪魔にはならない。

 ピアノの練習も終わり、僕は仕事に集中する。
 で、しばらくしてキッチンに行ったら、テーブルの上に色とりどりのお菓子と袋がズラリと並んでいる。
 どうやらお菓子を小分けして袋詰し、リボンを結んでいるようだ。
 「子供会のプレゼント担当なのよ」と楽しそうに嫁が言う。

 そうだ。
 そうやって、嫁はいつも、24時間、誰かのために、何かの仕事をしたり、心配をしたり、電話をしたり手紙を書いたりして、生きている。
 
 何かを書いたり何かをつくったりしたいと思っている僕と、誰かのために、誰かを愛することにほとんどすべての時間を使っている嫁。
 この世に何かを残したいといまだに思っている僕と、なんら見返りを求めない嫁。
 
 いったい、彼女には、嫁や孫と過ごす時間、友だちたちと過ごす時間以上に、たいせつなもの、やりたいものはあるのだろうか?
 少し前に、将来やりたいことってあるのかと尋ねたら、「フラダンス!」と言っていた。フラダンスを習って、介護施設などを慰問したいのだと。
 いまでも、そうなのかな?

 朝の早い僕は、昨夜も先に寝た。
 今朝、仕事に来るときにリビングをちらっと見たら、コタツのテーブルの上に、奮発して買ったリーデルのワイングラスと飲み残しのワインが置いてあった。
 ワインを傾けながら、好きな映画の一本も見たのかな。

 そう思ったが、家を出る時、そんな時間はやはりなかったはずと思った。
 昨日まではなかった、スノーマンのデコレーションライトが、庭に出してあったのだ。
 そういえば、朝、着替えて出かけようとする僕に、嫁がベッドの中から言ったのだ。
 「階段、コードがあるから、気をつけてね」
 何のことやらわからず、寝ぼけているものとばかり思ったのだが、嫁は昨夜、あのすべてのことをやったあと、もうすぐ帰省してくる長女と孫を迎えるために、居ても立ってもいられず、デコレーションライトを庭に持ちだして配線したのだった。

 今日は、午前中、教会へ行って奏楽も努め、午後からは結婚した次女の新居に電化製品を揃えるために一緒に買い物に行くと言っていた。

 嫁は、僕とまったく違う世界に生きている。
 そうでなければ、毎日、あれほどのことを達成して、あれほど満ち足りたような顔をしているはずがない。