「着物」をユネスコの世界遺産に登録しよう!いや、そんなもんいらない!?
和食がユネスコの無形文化遺産に登録される見通しとなったそうである。
日本人としては素直に嬉しいことだ。
で、次は着物の番だ!と思ったが、ちょっと待てという気持ちもある。
僕はリサイクル・アンティーク着物屋で、着物はかくあるべしという哲学はあんまりない。
お客様が、◯◯であるとおっしゃれば、はい、そうですね。
いや☓☓であるとおっしゃれば、はい、それもそうですね。
いや△△でしょうとおっしゃれば、はい、たしかにそうです。
いったいお前の考えはどうなんだ、はい、おっしゃるとおりです。
という感じだ。
しかし・・・
着物を着るには厳格なルールがある。
「粋」は、そのルールを理解してこそ生まれる。
たしかに、フォーマルな場で求められる着物のスタイルには、細かなルールがあってそれを守ることは最低限求められるマナーでもある。
だけど、カジュアルな場面で着る着物は、なんでもありじゃないかと思っている。
カジュアルに楽しんでいるだけなのに、ああだこうだ、そんな着物の着方は恥ずかしいと言うひともいる。
なんだかんだ言われるので、着物なんか着ないという声もある。
着物を楽しむためには、着付け教室に通わなければって思い込んでいるひとも多い。
その結果、現在の着物のマーケット規模はユニクロ1社の売上にも届かないところまで縮小してしまった。
その影響が産地に与えるものは大きく、貴重な技術は後継者もなくみるみる失われていく。
ユネスコの世界遺産に登録申請したらいいんじゃないか、とも思う。
「和食」が認定されるなら、「着物」だって認定されても不思議じゃない。
でも、気になることがある。
「無形文化財」となってしまえば、現在の着物、過去の着物のありかたを厳密に守ろうとする声がさらに強くなるのではないだろうか、と。
ファッションは時の流れとともに、どんどん変化していく。
変化こそがファッションであって、着物がファッションであるならば、激しく変化することこそがその存在理由のひとつでもある。
アンティーク着物のブームが数年前に盛り上がったことがあった。
若い人たちが、アンティークの着物を自由にコーディネートして楽しんでいた。
そういった若いひとたちが、アンティーク着物を着るのはコスプレにも似た楽しみだ、というひともいた。
でも、アンティーク着物を自由なスタイルで着ることがコスプレに過ぎないのなら、その楽しみは限定されてしまう。
着物は、「ファッション」として蘇って欲しいのだ。
そして、じつはそんな芽が育ち始めている。
とくに、若いひとたちの間で。
ここに紹介した写真は、先月おこなわれた「きものサローネ in 日本橋」のショーの風景である。
帯の老舗「ひなや」さんのブランド「mitasu+」を、スタイリストの山口壮大さんがコーディネートしたものだ。
残念ながら僕はショーの現場にはいなかったが、ショーのDVDを見せていただき、大きな衝撃を受けた。
川久保玲が「黒の衝撃」でパリに衝撃を与えたのが、1982年。
ひょっとして、彼らのスタイルは、また世界に衝撃を与えうる可能性をもっているのではないか、と。
「ひなや」の代表取締役社長の伊豆蔵さんは、1971年生まれ。
パリに留学されてファッションを学んだ。
先日、伊豆蔵さんとお話をさせていただき、同じ着物を扱う業界にいながら、見ている方向が全然重ならないので驚愕した。
そして京都の機屋さんの代表という立場にありながら、現代の呉服の価値観からも自由になれる伊豆蔵さんには、着物をファッションとして蘇らせるチカラがあると確信した。
このブログを読んでくださるかたには、着物やファッションに興味のないひとも多いだろう。
でも、一番新しい着物のスタイリングってのはどんなものか、「ファッションとしての着物」はどんなふうに蘇りつつあるのか、じっくりとここに掲載した写真を楽しんでみてもらいたい。
伊豆蔵さんやが思い描いている未来の街では、着物を着ているのか、洋服を着ているのか、そんな分類を無意味にするスタイルの若者たちが闊歩する。
それは世界の辺境の地、日本だからこそ生まれる新しいスタイルなのだ。
mitasu+(HINAYA KYOTO)
スタイリング: 山口壮大 着付:大竹恵理子 ヘアメイク:市川土筆
10月21日(月) きものサローネ @ COREDO 室町 でのショーより
(* mitasu+は京都にお店があります)
(**写真はDVDから切り出したのでイマイチですみません)