ICHIROYAのブログ

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ICHIROYA、新たなステージ、ハリウッドへ!

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五条大橋の決闘 芸者裾引



ハリウッドのソニー・ピクチャーズから、大量の注文を受けたことがある。

SAYURI」という芸者の映画をつくっているという、衣装担当のかたからの注文だった。
注文の内容は、おもに付下げの反物で、100本近い注文である。
しかも、注文のかたは、やけに急いでおり、すぐにクレジットカードで決済して、送ってくれ、とおっしゃる。

海外向けのネット通販をやっていると、人間、疑い深くなる。
うまい話にホイホイのっていくと、クレジット決済を否認され、すべて、パアとなる。
旨い話は、ほぼ、いや、まったく、ない、といっても良い。

さて、僕と嫁は、当然、ほんまか、と疑う。
やけに、急いでいるところが、怪しい。
が、送り先の住所は、たしかにソニー・ピクチャーズである。

いったい、付下げの反物を何に使うのかな。
主役級の役者さんではなく、そのほか大勢の芸者役の着物を、それで仕立てるのかな。
映画だから、ちょっと前のアクの出たような付下げの反物でも、裾引きのように見えるように仕立てて写したりできるのかな。

それにしても、相手はハリウッドの、あのソニー・ピクチャーズである。
上手くお付き合いが始まれば、着物が必要となるたびに、ICHIROYAへ注文が来て、そのうち、ハリウッドに出張所だって必要になるかもしれない。
そうなれば、祇園で芸者をあげてのどんちゃん騒ぎも、夢ではない。

クレジット決済をしてみると、多額の決済だったけど、すんなりと通った。
まだ、半信半疑だったけど、その反物の荷物は、僕の夢を乗せて、太平洋を渡っていったのである。

僕らはその映画の完成をドキドキして待った。
決済も問題なく処理され、お買い上げ金は入金された。

映画の情報も色々と入ってくる。
製作は、なんと、あのスティーブン・スピルバーグである。
主役は、なぜ中国人と論議を巻き起こした、チャン・ツィイー
渡辺謙も出演する。
おお、そして、我がICHIROYAが、衣装協力である。


そして、『SAYURI』(Memoirs of a Geisha)が、日本でも公開された。
僕と嫁は、胸に薔薇の花を一輪つけて、どきどきして、ロードショーを見に行った。
映画の出来はどうだろう。
芸者のこころ、日本人のこころ、はちゃんと表現されているのかな。
時代考証や、衣装にも、ちゃんとこだわってあるのかな。
そして、僕らの送った反物は、どんな着物になって、どんな風に登場するのかな。
あ、それに、いつもハリウッドの映画のあとに見せられる、あの長い長い長いクレジットのどこかに、ひょっとして、僕らの名前があったら、どうしよう!

いろいろ言いたいことはあるが、映画についての論評はしない。
なんせ、この映画は、アカデミー賞で、6部門ノミネートされ、3部門で受賞しているのである。

そして、僕らの反物は・・・・

はっきりと、それが、僕らの送った反物、とわかる形で、登場した。

戦争が終わって、みんなでまた立ち上がって頑張っていこうという、最後に近いシーン。
なぜか、みんなが、川で洗いものをしている。
そして、彼女たちの背後に、なぜか無数の長い布が、のぼり旗のように、何本もひらひらと吊られているのである。
よく見なくても、わかった。
それは、間違いなく、僕らが送った大量の付下げの反物であった。


こうやって、2005年、僕らはハリウッドへの進出を果たしたのである。