やっぱり自分の商売を始めよう~起業は天国か地獄の二択ではない
本を書くために起業の実態について調べているのだが、すこし今までと認識が異なってきたり、ある程度はっきりしてきたことがあるので、そのサワリを。
なお、起業に関する情報にはさまざまなものがあるが、案外、中小企業庁の発行している「中小企業白書」が充実している。毎年発行されていてさまざま切り口で中小企業の実態や課題について現状と課題が描かれているのでとても参考になる。
起業に関するものは、2014年版に詳しいので、興味を持たれた方は直接ご覧頂きたい。
起業のことを一か八かの勝負、天国か地獄の二択のように言う人がいる。そもそも、会社を辞めるときの僕がそんなイメージを持っていた。
たとえば、起業後(創業後)10年、生き延びる会社や個人事業は、何割と思われるだろうか。
10%程度ではないかと僕は思っていた。
少し古い資料だが、2005年度版の「中小企業白書」に「開業年次別 事業所の経過年数別生存率」というものがあって、それを加工して得られる数値は、会社ベースで35.9%、個人事業ベースで11.6%、合計(全事業所ベース)で26.1%であった。
おおよそ25%の起業した人たちが10年生き残っているのである。
その数字を厳しいとみるかどうかは個人の主観にもよるが、10人にひとりの世界と4分の1の世界は劇的に違うように、僕には思える。
考え抜き、やむ終えない時は長時間の労働にも耐え、きちんとした仕事をして、お客様や社会に対する貢献をし、それが上位4分の1に入れば、社会は生き残らせてくれるのである。
ネットやテレビで注目を集める一流の起業家の人たち。
彼らの起業のイメージは、凄いビジネスモデルを考えて、ベンチャーキャピタルから投資を受けて、そのお金が無くなる前に、大きな利益を出すか大量の利用者を集め、会社をどこかの企業に買ってもらう、もしくは株式公開する。
そして、創業者として目もくらむような大金を稼ぎ、ベンチャーキャピタルにも多大な儲けを与え、人々の生活を変える。
もちろん、それができるなら、誰でもそうしたいと思うだろう。僕もそういう起業に、強い憧れをもっている。
ただし、それができないからといって、起業を諦める必要はない。
毎年、何人ぐらいの人が起業するかご存知だろうか?
二十万人強である。
一流の起業家の方からすれば、ベンチャーキャピタルから投資を得ることもできないようなビジネスプランはおバカなプランということになる。なぜなら、ベンチャーキャピタルから投資を受けて始めた事業は、もしうまくいかなかったとしても、会社を解散するだけで負債が残るわけではないからだ。つまり、大きく振りかぶって挑戦させてもらっても、地獄に落ちずにすむ。
(それがベストであることを断りつつ~めんどくさいからもう書かない)だが、ベンチャーキャピタルが1年間に投資している案件は1000件くらいだそうである。(2013年度ベンチャーキャピタル等投資動向調査結果)
つまり、毎年起業する人たちのうち、わずか0.5%(1000人÷20万人=0.5%)の人しかベンチャーキャピタルの投資対象になっていない。5%ではない。0.5%である。
99.5%の人はベンチャーキャピタルとは無縁に起業していて、圧倒的にそちらのほうが多いということである。
ビジネスプランコンテストで優勝できないから、ベンチャーキャピタルから投資を受けることができないからと言って、起業を諦める必要はないのである。
起業者の収入や満足度についても、興味深い結果が出ている(中小企業白書2014)。
起業した人の月の収入(手取り、売上ではない)はどれぐらいだろうか。上記調査によると、起業後(起業後3年目もしくは3年以内では現時点)に40万円以上の収入を得ている人は約35%だと言う。逆に言うと6割強が40万円以下、4割弱が20万円以下、約2割が10万円以下しか稼いでいないらしい。
もし月の収入が40万円というところがある程度の分水嶺とすると、家族を養う必要がありある程度の収入がいる前提で働くのなら、上位35%に入れば良いということになる。(この場合の「上位」とはお客様や社会に貢献する量や質でという意味)
上位35%程度というのは、先に紹介した10年後も続く起業者の割合25%を考えると、かなり納得性のある数字だと思う。
上位35%に入ればある程度の稼ぎも得ることができて、25%に入れば商売の長期の存続も可能になるということではないだろうか。
そういう世界観は僕がいま周囲に見ているものとかなり一致するのである。
さらに、満足度に対する回答をまとめた数字が面白い。
「大変満足している」と「満足している」と答えた人の合計の割合は56.6%であり、「不満である」「大変不満である」の合計割合の9.2%を大きく上回っている。
先の収入の割合と比較して見えてくることは、収入が多くない人のなかにも、起業したことを正しい選択だったとして満足している人が多いことである。
それは、きっと、自分の主義にあった仕事のやり方ができるとか、家族との時間を含むプライベートな生活が充実しているということを示しているのだろう。
さて、そんな結果から見えてくるのは、やっぱり起業して(僕はなるべくそれに違う言葉をあてたいと思っていて、「自分の商売を始める」と言ってきたのだが)、自分の満足の行く道を探すのは、天国と地獄の二択にかけるような博打ではなく、慎重に考えて実行に移せば達成できる道なんだよ、ということだ。
ちゃんとリスクを限定して、自分がいちばん得意なやり方で、一生懸命汗を流せば、食べていける、起業もそんな世界なんだよ、ということだ。
いまも、会社という組織の中には、たくさんの才能が眠らされていると思う。僕のように会社ではうまく行かなかった人も、自分に相応しい場所をつくることができれば、いきいきと働くことができて、また、そういった小さな芽がたくさんできると、社会を良くする原動力となると思う。
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詳しくは、秋に出す本を待ってくださいね!
PS お前は過去に「起業は怖い」とか書いていたじゃないか!はい、書いていました。こちらです。
いま考えると、根本的に間違えていると思います。ホリエモンさんに言われたとおり、馬鹿だったと思います。それを書いたのは1年半前で、当時の僕は(いや、最近まで)、「自分が書いたもので誰かが無謀な起業に踏み切って不幸になったら困る」と恐れており、その考えが僕を支配していました。じつは、それに近いことがあった(ような気がする、のです。実際のところはわかりませんが)。
その後、いろいろと考えたり、書くために調べているうちに、少しづつ考え方が変わってきました。そして、今日の記事になりました。
上記の過去記事は消去するべきか迷いましたが、あえて残しておくことにしました。自分の思いと異なる内容の記事を、だれあろう過去の僕が書いていた。見方次第で、どれほど風景が変わるかという見本のようなことになってしまいました。
興味のある方はそちらもどうぞお読みください。
photo by Len Matthews