いつでも、誰にでも、大きいことはいいことか?
事業を始めるなら必ず大きなマーケットを狙えという考え方がある。
市場規模がある一定以上でないと検討もしないという会社もあるようだ。
しかし、それも、資本家の論理であり、事業主はそうでなくても良いということも選ぶことはできる。
そもそも、顧客に対するサービスの質は、規模が大きいから常に良いとは限らない。
今日、Incの記事を通じて知ったこの会社のソフトが面白い。
Why This Yoga Bootstrapper Thinks He Can Beat a Half-Billion-Dollar Company
なぜヨガのブートストラッパー*1は5億ドル企業を相手に勝つことができるのか
このシステム開発の会社を経営するアンドリューさんは、妻のマイルさんのヨガ教室のためにつくったTulaというソフトを販売している。
さてこのソフトは、ヨガ教室を運営するためだけに作られているのである。
僕がこの記事を読まずにそんな話を聞いたら、そんな小さなマーケットでいくらがんばってもしれている、と思ったに違いない。
たしかに、もっと汎用性のあるMindBodyというソフトがあって、そちらはヘアサロンからヨガ教室までさまざまなスモールビジネスのオーナーが使いやすいように作られているのである。
彼らがTulaを作るまではこのソフトを使うのが一般的だったようである。
なんせこの会社はすでに4万人のユーザーがおり、世界92カ国で利用されていて、去年の収益は5千万ドル(約60億円)、1億ドル(約120億円)の資金調達を得て、IPOのための銀行も決めたというところにいるのだ。
彼らのTulaというソフトは、ヨガ教室の運営のために特化されている。
もともと、MindBodyを使おうとしたところ、クラスのチケットを買ってもらうためには別のサイトにいかなければならない仕様だった(いまはどうかわからない)。一事が万事で、ヨガ教室のオーナーにとってはあまりに使いにくいので、Tulaが開発されたのである。
アンドリューさんは奥さんが実際にヨガの教室をやっているので、さまざまな細かな要望を聞くことができ、それを次から次へとソフトに実装していったようである。
たとえば、支払いはStripeという決済を使うのだが、彼らのサイトでそれを使うと安くなる*2。
また、「サブを探す」という仕組みもあって、それはインストラクターが急用などで教室に行けない場合、かわりのインストラクターを簡単に探すことができる仕組みのようだ。
さて、それにしてもあくまでシンプルなこのサイトだが(実例:マイルさんのヨガ教室のサイト)、ヨガ教室に特化したことで、アンドリューさんに言わせると、3万~3.5万人あるアメリカのヨガ教室のオーナーのうち、1万人ぐらいがTulaのユーザーであると推測できるそうだ。
たしかに、このサイトを見ると、ヨガ教室のオーナーには、MindBodyよりも格段に評判が良いようだ。
評点の平均は Mindbodyが3,Tulaが満点の5である。
そんなアンドリューさんの元へ、たくさんのベンチャーキャピタルが訪れ、Mindbodyのように対象をヨガからもっと広げろてはどうか、世界中で使えるようにしたらどうかと言うそうだ。
アンドリューさんにとっては、それは彼らが自分の投資したお金を100倍にしたいからで、アンドリューさんがいまたいせつにしているヨガ教室のお客様のことなど考えていない、「滑稽な(ridiculous)」提案だと言う。
アンドリューさんのこのTulaのユーザー数や売上は公開されていないが、スタッフは6人。それ以外には、ソフトの販売担当もカスタマーサポートもいない。自己資金10万ドル(約1200万円)で始め、現在、Tulaを通して月50万ドル(約6000万円)の決済が行われている、という。
ちなみに、Yoga Journalsによれば、アメリカのヨガ人口は2008年には約1500万人、2012年には約2000万人に達したと言われている。
さて、あなたは 「滑稽な(ridiculous)」のはアンドリューさんだと思いますか?
それとも、ベンチャーキャピタルの方だと思うでしょうか?
photo by sunchild123