ICHIROYAのブログ

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僕がある仕事からリアルに学んだ5つのこと

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  僕は19年間百貨店に勤めたのだが、もっとも記憶に残っている仕事は何かと、もし物好きな誰かが訊ねてくれたら、(もちろん、誰も訊ねてくれないのでここにこうして書いているわけだが)『ハンドメイドルアーバス釣り展』という催をやったことだ。
 僕にとってはあいかわらず『勲章』なのだが、いくつかの点で示唆に富んでおり、たとえばライフハックや仕事術に書いてあることが、どのように役に立つのかという実例でもあったので、ちょっと長くなるが書いてみたい。

 その時の僕の担当は、催会場全体の企画マネージャーであった。
 『北海道展』『男子専科:スーツ1万円セール』などの催を企画する仕事で、売上そのものは通期で〇十億円ぐらいあった。
 当時は1年を通じて催を開催しており、おおむね『北海道市』などの定番催で計画は埋まっているのだが、もちろん、効率の悪い催、ほかにネタがないのでやむなくやっている催も多く、やるべきことは山ほどあった。
 催そのものを運営するのは営業部で(たとえば『北海道市』は食品部)、企画の担当者は営業からはあがってこない切り口の企画を考えたり、部単位ではできない横断的な切り口の催を考え、それを営業部に『やってもらうこと』である。
 僕は催企画マネージャーで、そういった企画をするスタッフの3人のマネージャーで、通期の売上に責任があり、また、個別企画を自分でやらなければならない、いわばプレーイングマネジャーであった。

 さて、前置きが長くなったが、夏休みに催会場が空いてしまい、何かファミリーを呼べる催をもってくるか、自分でつくる必要がでてきた。
 できればあまりお金をかけずに、たくさんのお客様を呼べて、多少なりとも売上があがり、全館が潤うような催が欲しい。
 僕の業務時間はすでに通常業務で埋まっており、なにかを自分で直接やるとなれば、その分の時間はほとんどエクストラでやる覚悟が必要だった。
 だけど、僕は『ハンドメイドルアーバス釣り展』というのをやる!と宣言した。
 百貨店ではもちろん釣り具の売り場はない。
 当時の僕の趣味はルアーフィッシングではあったけど、釣り業界にツテもまったくない。やれるかやれないかわからないけど、やれたらすごく面白い。
 で、後先考えず、やる!と宣言してしまった。
 ほら、あれだ。ビジネス書によく書いてあるでしょ。

(1)ちょっと無理そうでも、やると宣言する!

 そして、苦闘が始まった。
 まず企画書を書いた。そして、ハンドメイドルアーの作り手の連絡先を調べて手紙を書いた。僕にとっては雑誌のみで見る憧れのひとたちである。
 もちろん気後れはしたが、とくに有名な人10人ぐらいに手紙を書いて送った。
 トップのひとたちを口説き落せれば、なんとか出展者は集まるかもしれない。
 たぶん、僕はこんなことをどこかで読んでいた。そしてその通りやってみた。

(2)トップのひとたちから、誠心誠意のアプローチをせよ!

  嬉しいことに、何人かのトップビルダー(ルアーをつくるひと)から了解をいただいた!
 第一人者と言われていたあるひとは、まさに頭の下がる紳士で、本当に気軽に了解してくれた。
 が、会場をうめるほどのちゃんとしたイベントになるのかどうか、まだまだとても遠い道だ。

 業界のひとからは、よくそんな無謀なイベントの企画を考えたなと言われた。
 企画書に配慮の不足した部分があって、お詫びにも行った。
 参加者がまだ全然足りない。
 また、出展者さんの要望を訊いていたら、装飾費、媒体費、保険などがどんどん膨らんでいき、経費予算も与えられた範囲に収まるのか、気が気ではない。
 できるのか、できないのか、寝ても覚めても、この催のことが頭から離れない。

 もちろん、この催を実際に担当してもらう営業部には根回しをしていた。何度かコンセプトや経過を説明しにいって、話を聞いてもらっていた。
 該当営業部の部長さんの趣味が釣りだったので、部長さんも乗り気で、マネージャーさんたちも前向きだった。
 と、思っていたら、組合からこんな意見があがってきていた。
 『百貨店の本来の営業と関係のない、担当者の趣味の催を押しつけられている』 
 自分は動かず代替案もなしに批判ばかりするひとはどこにでもいる。しかも、テキはにこにこ頷いておいて、後ろから撃つ。
 レーサーのマリオ・アンドレッティはこう言ったそうだ。
 Focus on the Road, Not the Wall.

(3)コースの先にフォーカスせよ、壁は見るな!

  どんなことをやっても、批判はおきる。だけど、批判はコースの外にある壁にすぎない。壁がコースをふさいでいるわけじゃない。壁ばかり気になると、ドライバーは壁に激突する。壁ではなくて、コースの先を見ろ、と。
 その時はアンドレッティのこの言葉は知らなかったけど、とにかく、そうした。
 そして、実際のところ、その一撃はかなり大きなものだったのだけど、当時の上司、鬼上司のFさんはそんな声を笑い飛ばした。
 おそらくFさんでなければ、やめておこうか、という話になったのではないかと思う。
 その時ばかりは、僕の顔色も変わっていたのだろう、Fさんへの報告も後回しになってしまったが、好きにやらしておけとばかりの態度で、かつ、いざというときにはそうやってかばってくれた。 

(4)上司との信頼感が最後の砦!

 で、どうなったかというと、業界初、百貨店初の『ハンドメイドルアーバス釣り展』は、最終的には成立した。
 10人以上のトップビルダーさんたちが協力してくれた。
 釣り業界からは黙殺されたが、当初考えていた動員も果たした。
 普段ほとんど褒めてくれないFさんが、最大限の賛辞をくれた。

 さて、35歳程度だった当時の僕は、この催をやり抜いたことで、大きな自信になった。
 しかし・・・話はそこで終わらない。
 あの催はほんとうに必要だったのだろうか?
 たしかに、僕がそれをやらなければ、その時期の動員が減っただろうし、催会場そのものも穴があいてしまったかもしれない。
 催そのものは、退職してからも、「あの催をやりたいって営業部さんが言ってるけど、またやれるのかな?」などというのんきな問い合わせが他店の営業企画部長さんからあったぐらいだから、社内でも一定の評価を得ていたのだろう。

 しかし、しかしである。
 僕と、そしておそらく鬼上司のFさんも、理想を追いかけていた。
 百貨店というのは、他人の褌を借りて仕事をするばかりで、小売業としての本来の仕事をしていないじゃないか。
 自分で仕入れて自分で売る、自分で考えて自分で動員イベントをする、本来そうあるべきなのに、売ってくれるブランドをいかに連れて来て場所を決めてそれで終わり、イベントはイベント会社に予算だけ言って丸投げ。
 それじゃ、だめだろ。

 そして、Fさんがやってみせた多くのこと、僕のこの催が生まれた。
 だけど、それがほんとうに会社のトップに一番望まれていたことなのか。
 僕らは理想よりも、現実を見て、潔く諦めるところは諦めて、現実の目標に没頭すべきではなかったのか。
 実際のところ、僕が昔いた百貨店は、僕の思い描いていた百貨店像と違うものになることに全力を傾けている。

 つまり、この催 『ハンドメイドルアーバス釣り展』こそが、僕の組織人としての失敗の象徴なのではなかったのか、とも思うのだ。
 そして、僕のこの失敗から導き出される警句は、こういうことかと。

(5)会社が実現しようとしている、理想と現実のバランスを正確に察知せよ


 
*マリオアンドレッティの言葉はおなじみ、Jamesさんのブログで知りました。

photo by fauxto_digit