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ICHIROYAのブログ

元気が出る海外の最新トピックや、ウジウジ考えたこととか、たまに着物のこと! 

★★★当ブログはじつはリサイクル/アンティーク着物屋のブログです。記事をお楽しみいただけましたら最高。いつか、着物が必要になった時に思い出していただければ、なお喜びます!お店はこちらになります。★★★


「戦車の柄の着物」VS「アメリカの戦意高揚ドレス」



これは戦時中のつくられた女性ものの着物である。
なんと戦車と戦闘機らしき飛行機が織り出されている。

戦争中、戦前には、こんなデザインの着物に人気があったという。
女性向けのものには、帯にも類品を見ることができる。

もちろん、もっとも多いのは男性向けで、男性の羽裏(羽織の裏)や襦袢に、戦争の模様を多く見ることができる。
成人男性向けのものだけでなく、子供用の着物にも多い。
下の写真は男児向けのもので、軍艦や飛行機、兵士たちだけでなく、学徒動員で農作業に励む子どもたちの様子をデザインしたものまである。

 




欧米では、こういったものを「War Propaganda(戦意高揚)」のデザインとして集めるコレクターのかたが複数いて、うちからもたくさんの戦争柄の着物を納めさせていただいている。

そのうちのおひとりが、本を送ってくださったので、興味深く拝見した。
 


大量に扱ったので、もうはっきりと覚えていないものもあるが、たしかに弊社から送ったと覚えているものも、多く掲載されていて、とても光栄に思っている。

ところで、この本を読んではじめて気づいたことがある。

戦争の模様を繊維にのせて衣服にしたのは、何も日本に限ったことではない、ということだ。
この本の作者によると、そういったものは、日本で始まり、すぐにイギリスとアメリカでもつくられるようになったという。
どこの国でも、国民を戦争に駆り立てて、戦意を高揚するために、政府が、メディアを総動員する。
ポスター、映画、本、雑誌などで、巧みに国民の心を、そして、銃後の生活を戦争遂行に向けて染め上げていく。
たとえば、アメリカで戦時中につくられたこんなポスターは、いかにもアメリカらしく、なんだか滑稽ですらある。





しかし、着物や衣服、生活に使うさまざまな布のデザインについては、政府は広報手段とはみなしておらず、民間業者たちが、それを主として利益の確保を目標に、衣服のデザインに取り込んでいった。

そして、それらはよく売れたようである。
上に載せたような日本の着物も、当時は、人気があった。
なぜ、母親が、自分の愛する子どもたちに、戦場へ行って立派に死ね、と言わんばかりのデザインの着物を、喜んで着せたのか、今の時代からは想像しがたいものがある。
なぜ、おおきな戦車を織り出した着物が、おしゃれだと思うような女性がいたのか、理解しがたい。

しかし、たしかに、国民は、ABCD包囲網に締め上げられ、西欧列強に飲み込まれないためには、打って出るしかないと思い込んでいたのだろう。
そして、親戚・知人の誰々はすでに戦死し、また、夫の入隊の日は近づいている。
自分のできることは、夫たちの戦争を、銃後からすこしでも応援することだ・・・

イギリス、アメリカでも、銃後の状況は、似たようなものだったようだ。
両国とも、国民の意識は、帝国主義で攻めてくる狂った敵から、自国を守るため、やむなく戦うというものだった。
日本より、ある意味、受け身だったからだろうか。
両国の「戦意高揚」の衣服のデザインは、日本のものより、ずっと洗練されている。

というか、日本のデザインのように、爆弾が炸裂する戦場の風景や、砲撃する戦艦、抜刀したサーベルを手に突進する騎乗兵などの生々しいものはないようである。

おもに、それらは、スカーフのデザインにされ、また、同じデザインで服地に印刷されている。

たとえば、当時、イギリスで発売されていたスカーフの画像がこちらで見れるが、
「戦闘開始(INTO BATTLE)」の文字を周囲に配したもの「チャーチルを中央において、我々はどれだけかかっても国を守る、などの文言をおいたもの」 など、表現はやはり柔らかい。

ネット上でみつけたもっとも興味深いものは、このアメリカ製のドレスで、一見、どこに戦意高揚の意味があるのかわからない。
しかし、よく見ると、「There'll Always Be An England.(いつもイングランドとともに)」という当時流行った愛国の歌が、左右逆転された字体で印刷されているのである。
鏡のなかに、そのドレスを見たときだけ、その言葉ははっきりと浮かび上がってくるのだ。
こちらにそのデザインの写真がある。
このドレスは、アメリカがまだ参戦していないころ、その収益の一部で、イギリスを支援するために、つくられたデザインのひとつだという。

イギリス、アメリカの戦意高揚のファッションを見ていて、ちょっと複雑な気分になった。
あの戦争中にも、両国のファッションは、まだ、ファッションたりえているような、少なくともそうありたいと願っているような気がするのだ。
それに比べて、やっぱりニッポンは、良くも悪くも、常軌を逸したところまでやってしまうのだな、と。

子どもたちに、肉弾三勇士の絵柄のついた着物を、喜んで着せた時代。
いつもやり過ぎてしまう日本には、また、あんな日が来てしまうのだろうか・・

 

(上記の着物はすべてSOLDです)