感動を生む最高の仕事のやりかた~Yさんありがとう!
きのう、僕は、最高の仕事を見た。
家には父がいる。
何軒もの病院に連れて行ったのだが、認知症とも老人性鬱とも診断がつかない。
が、会話はなく、食事もひとりで食べれないし、下のこともひとりではできない。
ほとんど、ベッドで寝ているか、ソファに座って目をつむって、一日を過ごしている。
嫁はこっちの仕事があるので、昼間は、介護ヘルパーさんに見ていただいている。
何人かのヘルパーさんが交代で見てくださっているのだが、皆さん、とても親身にお世話していただき、安心して父を預けている。
Yさんも、そんな頼りにしている介護ヘルパーさんのひとりである。
笑顔の素敵な、活発でやさしい、趣味の良い大人の女性で、風水土のしつらい展などにも行かれる、おしゃれな方である。
長女の結婚式に、父をどうしようか。
嫁と少し話になったが、散歩すらできず、口もきかない父を連れて行くのは、無理。
嫁と僕は、なんの疑いもなく、そういう結論した。
しかし、話を聞いたYさんが、なんとしてでも、父を結婚式に連れていきたい、と言われる。
嫁は、とりあえず、父の服を揃えた。
そして、父に聞く、「祥子の結婚式、行くの?」
ただ、首を横に振る父。
来れるなら、もちろんそのほうが良いけど・・やっぱり、とても無理。
結婚式の前日。
朝やってきたYさんは、反応しない父に、幼稚園児の先生のように、天真爛漫に声をかける。
「さあ~スギノさん!今日は、ネクタイの結び方を練習しましょう! 明日、祥子ちゃんの結婚式に行くんですから!」
この日は、ネクタイの練習は不本意だったらしく、
「今晩、家で、ネクタイ、練習してくるわ!」
と、笑って帰られた。
そして式当日。
朝、嫁が結婚式への出席を尋ねても、父はやはり首を横にふるばかり。
やっぱり、無理だった。
僕も嫁も諦めて、お花や様々な荷物を積み込んで、長女と次女を乗せて、結婚式場へ出発。
そして、その後、式の準備のばたばたに突入し、父のことは頭から消えていた。
Yさんの仕事は、父が無事にその日一日を暮らせるように、手を貸して、見守ることである。
それが依頼者から期待された仕事で、その義務だけをしっかりとやり遂げれば、誰に対しても胸をはれるはずである。
結婚式への出席を説得し、きちんと正装させて、式に連れてくることなど、誰も期待していない。
まして、家族の僕達が諦めているのである。
しかし、
父を励まして、そういう晴れの場に連れていって、結婚式に立ち会わせ、親戚たちに久しぶりに会えば、父にとっても良いことだろう。
また、式に行ければ、祥子も家族も、大喜びするに違いない。
Yさんは、良い仕事がしたい一心で、家族も諦めた高い目標を立て、成し遂げる覚悟をしたのである。
式の開始1時間ほど前。さまざまな用件で、ばたばたしていたころ。
正装をした父が、Yさんに腕を支えられて、式場に現れたのである。
僕も嫁も、親戚も皆、自分の目を疑った。
病状を聞いて式の出席も予想していなかったおじさん、おばさんたちが、久しぶりに会う父に喜んで代わる代わる声をかけにいく。
父の意識は、久しぶりに、少しはっきりしたようで、ごく簡単な言葉のやりとりはできたようだ。
結婚式の間、父は、ちゃんと座っていることができた。
そして、式の終了後には、ウェディングドレス姿の祥子と、ふたりで記念写真を撮ることもできたのである。
僕は、Yさんの仕事に、目頭が熱くなった。
まったく、最近は、涙腺がゆるいんだ。困るぜ!
これこそが、感動を与える最高の、ホンモノの仕事のやりかたなんだ。
Yさん、ほんとうに、ありがとう!