自分の商売を始める時、失敗したくなければ、もっと「ニーズ」に寄り添え
僕が会社を辞めて自分の仕事を始めようとした時、間違えかけたことのひとつに、顧客のニーズに寄り添おうとしなかったということがある。
今朝、大好きなIan Sandersさんの記事を読んでいて、そのことがわかりやすく書いてあって深く頷いた。
彼はコペンハーゲンにある落書きだらけの小さなバーレストランについてこう書いている。
この店はどんな賞ももらったことはない。
この店はモノクル・マガジンに掲載されたことはない。
この店は超クールなデザイン会社がつくったかっこいいロゴがあるわけではない。
Tiwtterアカウントもたぶん持っていない。
正直に言うと、ちょっと雑な店に見える。
(中略)
だが、こういった店のオーナーは彼らの顧客を知っている。
”WOW Factor”*1がなくても、いかすロゴがなくても、彼らの町の顧客が、彼らのお店のドリンクとスナックを買ってくれることを知っている。
それが彼らに効くことを知っている。
僕が自分の商売を始めようとした時、もちろん、見栄もあったからだが、良い立地の、充分な面積の、外装も雰囲気の良い物件を探した。
エスニックグッズを扱う店をしようと思っていたのである。
店をカッコよく磨き上げれば、きっと売れるはず。そうしなければ、売れないはず、と思い込んでいた。
なぜそういう風に思ったのかと言えば、普段から様々な店舗を見て、表面的な素晴らしさばかりアタマの中にためこんでいったからだ。
マーケッティング用語に、「ニーズ」と「ウォンツ」というものがある。
たとえば、「仕事帰りにちょっとどこかで一杯やって帰りたいな」という気持ちは、「ニーズ」と言われている。
そんな時に、近くに「Mars」というバーがあれば、寄って行こうかなということになる。
それは、「ニーズ」が、直接、「買う」ことになる例だ。
一方、「仕事帰りに、Marsへ行って、Marsのスペシャルカクテルが飲みたい」という思いは、それが具体的であることから、「ニーズ」とは別の言葉、「ウォンツ」と呼ばれている。
顧客の「ニーズ」を満たすには様々な方法がある。
バーMarsでなくても、公園そばに停めたワゴンで、ビールを販売してもよい。それが桜の季節なら、なおさら、そのほうが良いかもしれない。
顧客の本質的な「ニーズ」を満たすには、カッコ良い店構えや、いかしたロゴや、雑誌に紹介された実績は、不要なのである。
もちろん、「ウォンツ」にまで昇華された欲求を満たすことのできる特別なものをもっているバーMarsは強い。
ビジネスを続けてそこに到達すべきだろう。
だが、それには時間と労力がかかるのである。
僕がエスニックショップをやろうとして店を探している時、顧客のニーズを真剣に考えることをしないで、自分勝手にアタマの中でつくりあげた「顧客のウォンツ」を追いかけていた。
エスニックグッズを買ってくださるお客様のことをちゃんと考え、その人たちのニーズがなにかということから出発しなかったのである。
その人たちのニーズを真剣に考えもしなかったので、主力とするアイテムをアクセサリーにするのか、ウェアにするのか、インテリアアイテムにするのか、それも決まっていなかったし、その場所で店を開くという販売形態が彼らのニーズに寄り添うものか、検討してもみなかった。
親戚のおばさんにご主人さんの事業を引き継いだ方がおられて、僕が自分で商売を始めるとき、アドバイスしてくださったのだが、エスニックショップを開くという計画を聞いて、深くため息をついてこうおっしゃった。
私の知ってる夫婦は、仕入れたアクセサリーを道端で売ることからはじめて、いまでは何軒も店をもっているけどな。
あんたらはそんなことできひんやろ。
そうやな、どうしてもそこで店を開くんやったら、せめて、店先でエスニックのスナックでも売り!
そしたら、最低限の客は来てくれるかもしれへんで。
そのアドバイスを聞いたとき、すぐには腑に落ちず、というか会社を辞めたばかりの僕には飲み込めなかったのだが、要は、「枝葉末節ばかりにとらわれてそこに大事な資金をつぎ込むのではなく、どうしても店を開くなら、その店の周囲の想定顧客のニーズを見よ、それに寄り添え」ということをおっしゃってくださっていたのだと、今では、ある意味、合点するのである。
教科書的には、「ニーズ」から、まだ顕在化していない「ウォンツ」を探しだしてビジネスにせよ、ということだと思う。
しかし、「ニーズ」と「ウォンツ」が実際につながるかどうかは、やってみなければわからない。
自分で商売を始めるような時、どうしても失敗を避けたい時は、「ウォンツ」を想定してやってみる、というのはとてもリスクが高い。
想定している顧客のニーズになるべくシンプルに寄り添う。
できることなら「ニーズ」をそのまま「お買い上げ」につなげる、それができなくても、もっと「ニーズ」の根源に近いところで「ウォンツ」にしてみる方法はないかと考えてみる、ということがとても大事なことのように思えるのだ。
幸い、僕のエスニックショップの計画は、手付をうつ寸前に思いとどまった。
photo by dennis crowley
*1:人を驚かせるような要素