ICHIROYAのブログ

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『クリエィティブという病』に冒されていた僕の会社員時代

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 僕の同期のAくんは、モノゴトを着実に考え、きっちり実行していく男と評判だった。
 僕のことがどう言われていたか知らないが、いちおう、時々とんでもないことを考えて、大成功をすることもある、『クリエィティブ』な男ということにしておく。
 A君が僕の部署に移動してきた。

 部長の下に、Xというマネージャー職、Yというマネージャー職、Zというマネージャー職があった。僕はY職をしていたのだが、X職にいた先輩が部長に昇格され、僕は横滑りでX職をすることになった。ぼくのY職の後に、A君が移動してきたのだ。

 僕はいつも、『クリエィティブ』でありたいと思っており、新しいアイディア、いままでに試されたことのない方法などを考えだしたり、やってみることに血道を上げていた。
 『
クリエィティブ』といっても、ビジネス、いわば商売上のことなので、新しい広告の組み合わせを考えだすとか、楽しいキャンペーンを考えだすとか、新しい商品のグルーピングを考えだすとか、そういうことだ。
 
 A君とはそれまでさほど交流はなかった。同期のひとりとして、たまに宴席などに同席するぐらいのことだ。
 僕にしてみれば、お手並み拝見というところである。
 A君はみるみる仕事を覚えて、評判通り着実に仕事を片付けていく。しかし、『クリエィティブ』
な仕事もやってくれるのかな・・・

 そして半年後、こんなことがあった。
 また人事異動の季節がやってきて、何人かの人が去り、何人かの新しいスタッフがやってくることになった。
 その日の夕方、自然に新加入のひとたちが部長の元に挨拶集まってきており、部を去るひとたちもいた。急に、僕にとってはということだが、急に、『夕会~~~~』ということになった。
 そういえば、そうなった場合、いつもX職にいた先輩が、司会を引き受けていた。新しく加入するひとたちのプロフィールや去るひとたちの功績を簡単に紹介して、それぞれの挨拶、部長の挨拶へとつなげるのだ。

 
 僕はといえば、そういうことについてはいつも後回しにしていて、あいかわらず『クリエィティブ』なことに思いを巡らせていたか、なにかほかの心配事に気をとられていた。
 部のみんなが部長の席を中心に集まり始め、突然、僕にすれば突然、場の司会をやらねばならない雰囲気になった。
 僕の頭は真っ白になった。人事異動の通達がどこに回っているのか、慌てて探しながら、去るひとたちの功績は・・・間に合わない。

 すると、A君が何事もなかったように、ごく自然に司会に立った。
 A君はいつ用意したのか人事異動に関するメモを手元にもち、それを見ながら完璧な司会をして、部長につないでくれたのだった。
 おかげで、部長に恥をかかせなくてすんだ。
 僕はA君に感謝するとともに、ああ、A君には勝てないな、と思った。
 いったい、なぜ、A君は司会の準備をしていたんだろうか。以前の部署でそういう役割だったから、そういう準備をするのが習慣だったんだろうか。
 おそらく、僕がちゃんと準備をしていれば、自然と司会は僕がすることになっただろうに、それもわかっていて、念のために準備をしたんだろう。

 じつは、A君は取締役になった。
 すでに雲の上の人だけど、またいつか宴席で一緒になることがあれば、あの時のことを訊ねてみたい。
 なぜ司会の準備をしていたのか、と。
 たぶん、彼はそんな時のことを、覚えてもいないだろうけど。

 
 さて、僕は、いつの間にか『クリエィティブ』であることこそが、最高にクールで価値のあることであるように思っていた節がある。
 僕の理想の姿は、『一休さん』であり、みんなが困っている問題を、意外な方法で解決する、そういうアドバイスをするということであった。
 たしかに、『クリエィティブ』な方法がビジネスの課題を解決することもあるし、普通に考えて解決策がない場合、あるいは、まったく新しい製品を出す場合などは、『クリエィティブ』な思考方法というのは、必須となる。
 だが、たいていのビジネスの現場では、『クリエィティブ』な戦略や解決策は、ないものねだりである、ということも、僕は肝に命じるべきだった。
 
 ビジネスの基礎は、あくまで『ロジカルシンキング』と『確実な実行』にある。そして、人事異動の司会のようなありふれた行事をそつなく進めていく『日常感性』みたいなものが、より必要とされているのだ。
 
 とんでもなくクリエィティブなスティーブ・ジョブズはめちゃくちゃ格好いい。
 知恵ものの一休さんの活躍にも、惚れ惚れする。
 だけど、少なくとも、大きな組織で働くときは、クリエィティブであるまえに、押さえるべきことがあるのだ。
 押さえるべきことの前に、いつもクリエィティブであろうとしていた僕は、いわば『クリエィティブな病』とでもいうものに冒されていたようにも感じるのだ。

 まあしかし、それが僕の個性、いつの間にか、大きな組織で働くには向いていない方向に伸びてしまった僕の個性なのだから、仕方がないのではあるのだけど。 

photo by Yair Hazout