ICHIROYAのブログ

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君たちを忘れない!僕らのホンモノのヒーローたち(Ver.II)

 

先日、久しぶりに古い型紙の束をゲットした。
ざっと見たところ、比較的新しいもの、彫りの荒いものが多いと思ったのだが、もって帰って詳細に見ると、古くて、細かく、状態の良いものも混じっていた。
写真は、そのうちの何点かのものである。

着物に詳しい方はもちろんご存知だろうけど、伊勢でつくられて全国の染屋さんに販売された、こういった型紙を用いて柄が染められた。
ひとつは、だいたい30cmx40cmぐらいの小さなもので、これで、20cmほどずつ染めて、それを50回程度繰り返し染めて、着物一反分が出来上がる。

この精緻な彫り、素晴らしい意匠はどうだ。
血の滲むような長年の努力と創意工夫、研究のみが辿り着ける境地を見ることができる。
そして、一見、自由に描かれたデザインのように見えるけど、上端と下端のデザインは、寸分の狂いなくつながっている。
だからこそ、染め手も、型紙の存在を消し去るような、完璧につながった長い一反分の意匠を染め上げることができるのだ。

そうなのだ。
この型紙に見えている無名の職人の 凄さは、ひとつの着物の成り立ちの一部にしか過ぎない。
桑を育てるひと、蚕の世話をするひと、糸をとるひと、布に織り上げるひと、藍を育てるひと、藍を立てて染めるひと、 和紙をつくるひと、柿渋をつくるひと、機織機をつくるひと、彫刻刀をつくるひと、染めるひと、縫うひと、それを運ぶひと、売るひと。
すべて書き記すことすらできない、多数の無名のひとたちの、それぞれの魂の込められた仕事によって支えられているのだ。


昔の着物には、落款なんてない。
自分の名前を、そこに刻んで、自分の存在を主張したりしない。
ただ、それぞれの職人が、自分の仕事、自分が与えられた部分を、懸命に支えた。

 

いまでは、なんでも名前が入る。
着物だけじゃない。
スーパーの野菜にまで、顔写真と名前が入っている。
わかっている。
そうするほうが、高く売れるのだ。
それに、昨今では、手間のかかる染織品は昔ほど売れない。
素晴らしい仕事をする染織家の方々の作品が、そうすることで、ちゃんとした値段で、少しでも売りやすいのなら、そうするほかない。


でも、僕は忘れまい。
この型紙をつくった無名の職人や、そのほか大勢の無名職人のことを。
決して、その仕事に、自分の名を刻まず、次の仕事がやりやすいように、完璧な仕事をして、それだけを誇りに生きて死んだ多くの職人のことを。

そう、彼らこそが、ホンモノのヒーローなのだ。