ブルース・リーの1万回のキック
ブルース・リーの名言として知られている言葉にこんなものがある。
I fear not the man who has practiced 10.000 kicks once, but I fear the man who has practiced one kick 10,000 times.
「1万回のキックを1度だけ練習したものを恐れないが、ひとつのキックを1万回練習したものを恐れる」
という意味のようだ。
彼の言葉の意味を正確に理解するには英語力とブルース・リーの哲学に対する知識が不足しているのだが、僕は勝手に(間違えているようだが)、こう読んでいる。
「ひとつづきのトレーニングとしてさまざまなキックを1万回も練習した相手は怖くないが、たったひとつの種類のキック(たとえばすねを狙った前蹴りとか)を1万回練習した相手は怖い」
かつて柔道をかじったものとして、そういう話ならよくわかる。柔道ではだいたい組んだときに相手のレベルがわかる。総合力の違いが一瞬で伝わるからだ。だが、試合では総合力の高い相手を、たったひとつの必殺技で相手に勝ってしまうこともある。総合力のまさる相手に勝つためには、それしかない。それでいつも勝つことはできないが、二度と来ない「試合」という場では、それで勝てる場合もある。
ブルース・リーの言葉は、総合力の勝るものが言った言葉として、よくわかるのである。
話は変わる。
長女がお世話になったことがある中国の実業家の女性の話である。
彼女は何百億だか何十億だかの企業の創業経営者である。彼女はどんなマーケットであれ、世界で一番のもの、一番になれる可能性のあるものしかしない、とおっしゃっていた。
とにかく、どんなことであれ、どんな小さなマーケットであれ、一番になることが大事なのよ。そこで一番になれば、いろんな分野のトップクラスの人が向こうからやってきて、あっという間にチャンスが広がるのよ。
彼女は実際にそうやって事業を大きくされたらしく、その言葉にはとても説得力があった。
そして、彼女の言葉を信じるなら、いま自分のやっている事業のマーケットにサイズ感や将来性が不足していると感じても、とにかくそこでNo.1になることに全力をつくす。もし、よりインパクトのあることをやりたいのであれば、そうなったのちに、向こうからやってくるチャンスをつかめば良い、ということになる。
なんとなく、このふたつの教えは通底しているものがあるように思える。
大きな分野で、総合力で圧倒的な力量をつけた勝者になりたいと、多くの人は思う。だが、誰もがそうなれる資質を持っているわけでもないし、与えられた時間やリソースも限られている。
であれば、自分が勝てそうな分野を探し、そこで自分なりの必殺技を磨くことが、もっとも大事なことだとわかる。
当たり前のことなんだけど、ブルース・リーの1万回のキックの話が気になって、そんなことを考えた。
photo by Nhan-Esteban Khuong