スティーブ・ジョブズは「できる上司」か?
スティーブ・ジョブスが天才であることに異論をはさむひとはいないだろう。
では、スティーブ・ジョブスが「できる上司」だったかどうかについてはどうだろう。
以前、僕が思う「できる上司」の特徴を書いた記事に、たくさんの異論のコメントをもらい、色々と思うところがあったのだが、たまたま昨日も紹介したMediumのなかに、スティーブ・ジョブスに仕えた人の印象が書かれていて、とても面白かったので紹介したい。
You are not Steve Jobs(あんたはスティーブ・ジョブスじゃない!)
著者は、あるスタートアップ企業のCEOがまるでスティーブ・ジョブスみたいに振る舞って困るみたいな話を書いている。
彼女がスティーブとかかわった個人的な体験として、ふたつ書いている。
1.アップルにはいってまだ2週間ぐらいのころ、会社のカフェテリアで並んでいる列のちょうど自分の前に割り込んできた男がいた。だれよ、こいつ!と同僚に訊ねたら、それがスティーブだった。
2.MobileMeというサービスのエンジニアリング・プロジェクト・マネージャーをやった。MobileMe(モバイルミー)は、かつて稼働していたアップルの個人向け有料クラウドサービスで、現在はiCloudに取って代わられている。2008年のサービス開始時には、アクセス障害、同期障害、.Macからのメール移行不具合など、トラブルが多発。無料試用期限を90日間延長した。
その失敗の責任は、自分たちスタッフではなく、スティーブにあると断言している。
彼女たちは懸命に開発を続けていたが、解決の必要な問題や調整が山積していて、ベーター版のような開始ならともかく、完成品として大々的に公開するためには時間が足りないと感じていた。
彼女はそれを上司に伝えていたのだが、スティーブと彼女の間には3,4層の管理者がいて、その声はスティーブには届かなかった。
サービス開始の日程が上から降りてきた。彼女たちは、文字通り机の下で寝たり、近くのホテルに泊まってそこから通ったりしながら、死に物狂いでがんばった。
そして、サービス開始されたが、当初予想されたとおりの結果となった。
彼女たちはスティーブに呼ばれ、ギロチンへ向かうかのような気分で彼のもとへ行った。
スティーブは彼女たち(100人近くのスタッフ)の前で、世界一、モチベーションの下がるスピーチをした。
もっとMadになってやるべきだった、アップルらしく衝撃的なローンチ(サービス開始)にすべきだった、彼女たちがやるべきことを試しもしなかった(それは上司に頼んできたことだったのだが!)・・・
「このままいくと、そのサービスはアップルらしくないものになりますよ」とスティーブに直言する誰かが必要だったのだ。だけど、スティーブ・ジョブスがつくった会社には、彼を崇める人間ばかりで、勇気をもってそれを言う人間がいないのだった。
スティーブ・ジョブズという人は、世界でもっともユニークな製品をつくりだす天才で、それで世界を変えたほどの人だけれど、彼女の立場からすれば、とんでもない上司なのだ。
しかし、もちろん、スティーブ・ジョブズが「できる上司」でもあることは間違いないだろう。
失敗するサービスもあれば、成功するサービス、製品もあって、現実にアップルは大成功をおさめているのだから。
会社や顧客、株主にとっての「できる上司」と、部下の目から見た「できる上司」は、こんなにも違う。
結局のところ、同じ資質、同じやりかたをするマネージャーがいても、それは成果次第で、「できる上司」にもなるし「できない上司」になってしまうのだと思う。
ふう。
僕も「できる上司」の下で働くときは、死ぬほど働かされたものだが、スティーブ・ジョブズの下で働くのも、大変そうだ・・・