ICHIROYAのブログ

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小売り店の良心とはなにか(マジメすぎる話)

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小売業の良心とはなんだろうか。
どこまでが、認められ、どこからは、良心を逸脱した行為になるのであろうか。

「先義後利」(せんぎこうり)

この言葉は、かつて勤めた大丸さんの企業理念として、なんども聞かされた言葉だ。
中国の儒学の祖のひとり、荀子の言葉「義を先にして利を後にする者は栄える」から引用されたもので、企業の利益は、お客様・社会への義を貫き、信頼を得ることでもたらされるとの意味である。

たしかにそうなんだけど、この言葉を唱えていれば、すべての悩みが解決するわけでもない。

たとえば、

 

(1)「自分が扱っている商品より、ライバルが扱っている商品の方が顧客にとってメリットがあり、それを知っている。そんなときでも、自分の商品を売るのか、ライバル会社の商品を勧めるのか」

(2)「在庫のなかにAとBがあり、Aは長い間売れ残っている。お客様は、AかBか迷っておられ、どちらを薦めても、買っていただけそうだ。が、お客様には、Bの方が似合う。さて、そんなとき、Aを薦めるべきだろうか、Bを薦めるべきだろうか」


(3)「相手は社会人2年目程度の普通のOLさん。自社の着物を強くお薦めしたら、数十万の着物や帯をセットで買ってくれそうだ。貯金はゼロなので、買うとしたら全額をローンで買うという。詳しく聞くと、最近、高額なバッグも買って、そのローンも払っているという。どうやらそのOLさんは、先のことはあんまり考えない性格のようだ。それでも売るべきだろうか」

(4)「アンケートなどでいただいた電話番号に、何度も電話して、高額呉服の販売会への来店をお願いする。お客様がはっきり電話しないで、という限り、電話勧誘は続ける。そういった姿勢は正しいことなのだろうか」

さて、こんな状況になったとき、小売り店としてはどうすべきだろうか。

もちろん、「先義後利」を突き詰めるなら、どの状況でも、販売すべきだとは思えない。お客様のためにならない可能性が高い、もしくは、迷惑であったりそのお客様のためにならない場合も多く発生する、という状況だからだ。

しかし、たとえば、(1)
タイトルは忘れてしまったが、マーケティングの本には、「そんなことは気にせず、自社の商品を売る最大限の努力をせよ」と書いてあった。
ある意味真実であるような気はするし、世の多くの経営者は、同意見なのではないだろうか。
つまり、そんなことを気にしていたら、多くの商売は破綻してしまうということなのだろう。
それでも、僕には釈然としないのだが、お客様の側でも、「ライバルの商品のことは知らないかもしれないし、自社の商品を薦めるのは当然だろう」という感じ方もあり、一般的には、許される範囲とされているのだろう。

(2)についても、どうなんだろうか。複数の仲間や先輩から聞いた範囲では、商売人としては、Aを売って業績をあげる方を優先するという考え方のほうが多いようだ。
僕なら、きっとBを選んでしまうのだが、Aを選ぶ商売人と、Bを選ぶ商売人のどちらが効率が高く、将来成長するかと考えると、やはり、Bを選ぶ商売人であろうと思う。
こういった状況は、お客様側ではわからないのだけど、お客様がもし商売人の心を読めたとしたら、「不誠実である」と思うのではないだろうか。

(3)や(4)は、大手の販売会社では、日常的に行われていることではないだろうか。
「あなたが、お客様の財布の心配などする必要はない」
僕が自分で商売を始めたころ、ある仕入先さんが言った言葉だ。
10年以上前の言葉だけど、いまだ、その言葉がひっかかっている。
いくら高額の買い物を続けられたとしても、たしかに、お客様は桁外れのお金持ちかもしれず、いちいち勘ぐっていても仕方がない。
相手のほしいものを全力で探して提供するのが商売人の本質である、というのだ。
その言葉に本質の一部もあるとはいえ、だからと言って、まだ世間知らずの若いOLや、寂しがりやでちょっと認知症の傾向の出始めた高齢者に、高額のローンを組ませてがんがん販売しても良い、ということにはならない、と僕は思う。
が、きつい販売の現場では、そういうことは、平然とおこなわれている。

相手の迷惑を考えない電話の勧誘もなくなることはない。
10人のうち、ひとりのお客様はそれで気に入った商品に巡り会えて喜んでいただけるかもしれない。
しかし、残り9人にとっては、迷惑このうえない。
でも、それがどうしたって言うんだ? 法律に違反しているのか? 誰かを傷つけたのか? さあ、さっさと電話するんだ、と上司は言うだろう。

さて、こういった行為は、良心的であろうとする小売り店に許されることなのであろうか。


幸い、僕は、どこかの会社に勤めているわけではないので、会社や上司の方針に従う義務はなく、また、自分の部下にそれを強要する必要もない。
そのため、上のような状況になったら、販売しない、お客様のためになる方を選ぶ、というような判断ができ、可能なかぎり自分の良心に沿った行動ができる。

しかし、と思うのだ。

先人は、「先義後利」といい、それを貫くことで、やがては商売も成長するといってくれているのだが、本当だろうかって。

僕は現状を見て、冷徹に思うのだが、こういった「薄い目のグレーゾーン」では、店に利益になるほうをとったほうが、商売は成長するのでは、と。

でも、それはそれでいいと思っている。
僕には僕のやりかたでしか商売はできないのだから。


( 写真は 「義経の千本桜」のアンティーク歌舞伎衣裳 悲しき嘘をつく源九郎キツネ この鼓の革は私のお父さん、お母さんのものなんです。離れられなくて人間に化けてました。許してください~~