ICHIROYAのブログ

元気が出る海外の最新トピックや、ウジウジ考えたこととか、たまに着物のこと! 

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Yahooめ、殺してやる!

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草紙模様 名古屋帯



「本を出版する」、ああ、なんと甘美なセリフであろうか。

ああ、しかも、欧米圏で、英語で出版する、と言うのである。

僕たちが10年前から海外のお客様に、週1回配信しているニュースレターがある。
内容は、着物、日本文化に、あとは、ここに書いているような個人的な雑記である。

そのイギリスのお客さまSさんは、書く。
「毎週、毎週、あなたのメールニュースをワクワクして心待ちにしている自分に気づきました。あなたたちのメールニュースをまとめて編集して、本にして出版したいと思います」

僕は自分の目を疑った。
そんなことがあっていいのか。
僕と嫁の、下手な、下手な英語の文章である。

「下手だけど、一生懸命伝えようとして書かれているところが、とても味があって、新鮮なんです」

えっへん!
そうだろう、そうだろう。
僕もそう思っていたんだ。
僕の才能は、日本国内では認められなかったけど、欧米向きだったんだ。

とはいえ、すでに、本の出版では、イタイ目にあっている。
送られた原稿の内容次第で、商業出版も可能、という文句に惹かれて、心血を注いだ原稿を送ったことがあるのだ。
待ちに待った返事は2か月後。
結果は言わずもがなである。そもそも、その原稿が読まれたのかどうか、も怪しい。来た返事は、自費出版をすすめる印刷物に、チェックだけつけたものだった。

だめだ、だめだ。
そんな夢みたいな話があるはずがない。
やつら、僕を舞い上がらせて、カネを巻き上げる、国際詐欺集団に違いない。
ニッポン男児!
簡単には騙されんぞ!
僕はSさんのことを慎重に調べはじめた。

Sさんは色々なことをプロデュースしており、最近の仕事として、自分が設立した団体の認知アップと寄付集めのイベントを教えてくれた。たしかに彼女の名前がそのサイトにあり、寄付に応じた、そうそうたるイギリスのミュージシャンたちの名前も書かれている。
SさんのパートナーのPさんが、原文の味を残して、読みやすいように原稿の手直しをするという。Pさんはライターということで、たしかに、彼のページもある。

まだ、半信半疑である。
しかし、SさんとPさんは、契約をするために、わざわざ、日本に来る、という。
そして、事前に読んでおいてくれ、そちらにいったときにサインをもらうから、と言って、契約書の原稿を送ってくる。
法律用語の使われた契約書独特の英文であり、読むのに苦労したが、要は、メールニュースの出版の権利を与える、まず300部の本にする、それをフランクフルトだかどこかの出版ショーに持っていき、大手出版社へ売り込む、という内容である。
大手出版社への売り込みがうまくいかなかったとしても、最低でも、300部の本はつくって、無料でくれる、というのである。

そして、SさんとPさんは、ほんとうにうちにやってきた。
家に泊まってもらい、ふたりが持参してくれた契約書に、うやうやしくサインをして、1通は先方に、1通は僕らが保管する。
海外から日本に来るお客様には色々なかたがおられるが、おふたりは、洗練されており、また、非常に気配りもできるかたがただった。

僕はそれでも、いよいよお別れするという直前まで、一抹の不安が残る。
最後の最後に、「ところで、この件には、すこしお金がかかってーーー」と言い出すのでは、と。

が、ふたりは、にこにこして、泊めてくれた礼をいって、帰っていった。

ばんざい!
本が出せる!
芥川賞なんて、目じゃないぜ!
僕の本は、最初から、世界が相手なんだ!

有頂天だった。
そして、そのことを、ブログにも書いた。
書いてしまったのである。
当然、「本を出すんだってね」って反応もある。

その後、Pさんと、原稿の細部について、何度かやり取りがあった。
Sさんからは、さらに、こんな話が送られてくる。

「本と同時に、映画のプロデュースも考えてるの。あなたたちの起業の話は、普遍的な価値をもっているわ。わたしたち欧米のものにも、深く共感できるの。映画の最後は、祥子ちゃんの、振袖姿の成人式になるわ」

本だけでなく、僕らの家族の話が、映画になって、ハリウッドでつくられ、世界中で公開されるのである。

アカデミー賞の授賞式が頭をよぎる。
だれか有名監督がその映画で監督賞か何かを受賞。
〇〇に感謝します、〇〇に感謝します、〇〇に感謝します、とおきまりのスピーチ。
そして、
この場にきている一郎さんと由佳さんに感謝します
僕らは立ち上がり・・

しかし、僕はすでに天まで登っていたのだ。
なんと言われても、それ以上は登れないではないか。
さすがに、この話は、ブログには書けなかった。


さて、あの日から5年経つ。
まだ、本は送られて来ない。
自宅のピアノの上で、契約書はだいぶん埃をかぶっている。
ちょっと連絡が遅いな、と思っている。

ところで、Yahooである。
Yahooは、個人の閲覧履歴など収集し、使用者の感心を割り出し、それぞれの個人に一番有効と思われる宣伝を出す。
最近、このブログで本にしたいなどと一言二言書いただけなのに、以前なら着物関連の宣伝ばかりでてくる宣伝が、最近、少し変わってきた。
こんな宣伝がでるのだ。

「あなたの原稿を本にしませんか?」

Yahooめ
殺してやる!