ICHIROYAのブログ

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僕が探偵だったころ

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煙草柄 麻襦袢

 

おはようございます。
インフルエンザのための特別体制2日目です。
Twitterで「インフルエンザ」を検索すると、かなりでてくるので、広がりを感じます。
皆さんもくれぐれもお気をつけください。
また、ご迷惑をおかけしていること、再度お詫び申し上げます。

今日も新商品の掲載は控えておりますので、よろしければ、イチロウの与太話でも楽しんでいただければ、と思います。

*****

僕は探偵だったことが、あるんです。

そう、大学時代。
学校には寄りつかず、アイスホッケーとアルバイトに明け暮れていたころ、H先輩から引き継がせてもらったのが、「探偵のアルバイト」でした。

その探偵事務所は警察OBの、おっちゃんがひとりで経営する探偵社で、河原町通に面する小さなビルの2階にありました。
小太り、後退した髪をオールバックにし、大きな鼻に、半分銀縁の眼鏡をかけ、ループタイを太鼓腹の上にぶら下げた、ただのおっちゃんです。
とってもやさしい目をしています。
お客様は、電話帳を見たり、河原町通に面した窓に掲げてある看板をみて、社長のもとを訪れます。
まさに、酸いも甘いも噛み分けた、という慈愛に満ちた笑顔で、依頼者の悩みを受け止めます。
社長は、安くはない(でも一般的な)調査料金で、商談をまとめます。
そして、実地調査後、見事な報告書をまとめ、ときには、証拠写真もつけて依頼者に提出します。
依頼者は、たしかな情報をえて、自分の現実の立場を知り、社長に感謝して、自分の道を歩き始めます。

初めと終わりは完璧です。
ただし、調査をするのは、僕や先輩Hさんです。
僕はそこに大いに問題あり、と思っていましたが、社長は、僕の心配もどこ吹く風、きつい現場は、すべて僕らに任せてしまいます。

浮気調査が多いです。

社長は、尾行して、写真を撮れ、といいます。
でも、浮気調査をされる相手は、すでに、そういう状況に慣れている場合が多く、警戒しています。
直線の道を少し離れてついていて、相手に急に立ち止まられたら、そのまま、近づいて通りすぎるほかありません。
「あら、探偵さん、ご苦労さまあ」
などと、言われてしまいます。
でも、こっちは、アルバイト探偵なんです。
急に変装したり、できませんって。

愛人のマンションに入る依頼者の旦那のしっぽをつかめ、と社長は言います。
相手は最大級の警戒中なので、遠くから確認せよ。
5階建てのマンションの1室のドアを、道路に停めた車から、見つめます。
見える角度から考えて、視野にあらわれてドアまで数秒程度しかありません。
一瞬も目を離すまい、とその一点を見つめます。
時期は、2月。京都の2月は寒いです。かといって、エンジンをつけてままだと、ガス代もかかり、なんのための苦行か意味がなくなります。
1時間経っても、2時間経っても、ホシは現れません。
FMをがんがん鳴らして、退屈と寒さに絶えます。
張り込みの辛さは、やったものにしかわからないでしょう。
3時間、4時間、待ったでしょうか。
一瞬のことでした。ホシがあらわれ、ドアに吸い込まれました。
急いで、公衆電話から社長に電話。「さっき、入りました!」
「おう。で、服装は?」
「むにゃむにゃ」
次は絶対見逃すまい、とそのまま張り込みを続行。
で、また、2時間、3時間。
出た!
その後は車で尾行が社長の指令。
エンジンおん!
と、ボロ車のエンジンはすぐにはかかりません。
焦って回し続けると、バッテリーが急降下。すでに、数時間、大音量でFMを聴き続けたせいで、バッテリーはあがりかけていたようです。
車は発進せず、尾行は中止。

どうせ素人のやることです。
こんなことの連続です。
写真だって、いまのような小さなカメラや携帯があるわけでもなく、無防備な相手でない限り、できることは限られます。
でも、社長は、どんな失敗もけっして叱責せず、かといって、きつい現場に乗り出して手助けしてくれるわけでもなく・・・報告書だけは、いつも立派なものが出来上がります。


こんなんやったら、俺も探偵社始めよかな!

就職活動で苦労してた頃、ふと、頭をよぎったこともあります。
が、ハードボイルドとは、程遠い、そんな社長でも、官公庁や警察のネットワーク、聞き込みなどはたいしたもので、そんなことが電話一本でわかるのか、と驚かされたことが何度もありました。そんなこんなで、社長は、できる範囲のことに集中して、失敗の多い浮気の尾行張り込み調査には、ある程度の見切りをつけていたのかもしれません。


そう、たしかに、僕は一時、探偵だったんです。
そして、探偵だったころ、僕は学びました。
「愛人」は、「若くて綺麗」とは限らないこと。そのほか、世の中は、子供が知らない、いろんなフクザツな事情に満ちているんだってことを。

 

PS 30年以上昔の話です。また、場所は実際にあった場所とは替えていますので、あしからず。