ICHIROYAのブログ

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そこまでやるかと言われて普通

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幕末の半纏の見本帳

 組織、チームに所属して、何かの目的を目指して皆でワイワイ努力するということは、なんと胸踊ることでしょう。写真の半纏の図案は、実際に綿布に染められていて、いくつもの半纏のデザインが一冊の本にまとめられています。この見本帳を見ながら、ああでもない、こうでもない、とお店や祭りのチームの半纏を品定めして、発注するのは、さぞわくわくする体験だったでしょう。

 でも、もちろん、組織に所属することは、悲喜こもごもです。

 「そこまでやるかと言われて普通」

 この言葉は、僕がもっとも薫陶を受けたサラリーマン時代の上司Fさんの言葉です。Fさんに仕えたのは、企画部と営業部を行ったり来たりしていた僕が、企画部にいた時代です。古くて大きな組織は、とにかく、動かないもので、企画や戦略スタッフの言うことは、すべて聞き流すということになりがちです。

 Fさんは、阿修羅のごとく、変革、前進を営業部に突きつけ、首根っこを押さえて実行させました。Fさんの片方の手のようにお仕えしていた僕も、当然、背中にナイフを突きつけられ、後退は許されず、死ぬかと思うほど仕事をしました。ある時は、現社長(当時営業部長)とFさんの間で右往左往し、一歩も引かない両者のあいだで立ち往生、えい、なむさん!と両方に嘘をついてその場を逃れたこともありました。

 それでも、Fさんの下で働くことは、大いに勉強にもなり、とても楽しい、実りの多い体験でした。それまで、人に仕えることには向いていないのではないか、と思っていたのですが、とことん振り回され、つぎつぎに無理難題をふっかけられて、ふらふらになっても、それを楽しいと思わせる上司がいるんだ、とそのとき自分の変なM性に気づかされました。

 その後の人生で、僕は、このFさんの言葉をよく胸のなかで呟きます。
「そこまでやるかと言われて普通」
 そう、仕事はなんでも、周囲から、「そこまでやるんか!」と思われるほどやって、はじめてやったことになるんです。普通にやることは、仕事ではない、ということです。

 
 ところで、そのFさんですが、じつはもうひとつ、胸に残る名言があります。
  Fさんは、最後は、現会長のもとで辣腕を振るわれ、組織の変革に大きな功績を残されました。でも、不遇の時代もあったのかもしれませんし、胸のうちでは、もっともっと仕事をさせろ、と思っておられたのかもしれません。
 また、僕も、その会社に19年勤めた後、結局、自分の将来の居場所をみつけることができず、辞めることになってしまいました。
 組織に生きることは、楽しい半面、ほんとうに、難しいものです。
 胸踊らせた着たはずの半纏がいつしか自分の気持にしっくりいかなくなり、脱がざるを得ないときが来るかもしれない。

 Fさんのもうひとつの名言をじっくり味わっていただきたいと思います。


 「時代が俺を呼んでいる・・・会社は俺を呼んでない!」