明日、成人式で振袖を着る貴女に贈る言葉
photo by Kyle Hasegawa
成人おめでとうございます。
明日はとんでもない早朝に起きて、美容室に行き、きっと、はじめての振袖を着るのですね。
きっと貴女は自分の振袖姿の美しさに、びっくりされることでしょう。そして、みちがえるばかりの素敵なオトナになったお友達の姿にも、感動を覚えられることでしょう。
さて、成人された貴女に、さまざまな祝辞と励ましのメッセージが贈られることでしょう。
そして、そういう言葉でちょっと満腹気味になり、また、夕方になると、一刻も早くその振袖を脱いでしまいたいと思うようになるでしょう。
袖の裾を床やトイレで汚してしまわず、襟に食べこぼしをせずに夕方まで過ごせたなら、立派な大人の女性であることを、この大事な日に、自ら証明したことになります。
というのは、もちろん冗談です。
着物屋(といっても、僕はリサイクルとアンティークの着物屋に過ぎませんが)の僕から、満腹な貴女にさらに、ひとつお願いを。
早朝から髪をセットして、紐でぎゅうぎゅうしばられて、やっと振袖を着て、着たら着たで、汚さないように気を使い、窮屈で窮屈で、一刻も早く脱ぎ捨てたくなる。そんな思いをもったまま、振袖を脱ぎ捨てて、もう、着物なんて着たくないって思わないで欲しいんです。
着物って、日本のたいせつな民族衣装ですが、でも、ファッションでもあるんです。
ほら、あなたは、自分が好きな柄の振袖を選びましたよね。古典柄にしましたか、それとも、きゃりーぱみゅぱみゅがちょっと前に着たような宇宙の柄?
振袖っていうのは、大人たちが「これを着なきゃ!」って思っているものから選んで着たんだと思っておられるかもしれませんが、じつは、「あなたが着たいと思いそうなものを業界の大人たちが予想して用意したもの」の中から、あなたが選んで着たものです。
だから、いつも、「そんな下品なのは振袖じゃない」とかいう人もいるにしても、結局は、貴女たちが着たいと思いそうなものを、業界ではつくるように努力しているんです。
何が言いたいかというと、新成人の貴女は、未来は窮屈だ、お仕着せだ、と思ってしまったかもしれませんが、案外、それは貴女が自分で選んで変えていける、世の中はそうなっている、っていうことです。
たいそうな説教をする気はありません。
でも、何を着るか、どんなファッションをこれから楽しんでいくかということは、100%貴女の手の内にあるのです。
僕が、はじめて振袖を着て、窮屈だったという貴女たちにお願いしたいのは、「日本人には着物というファッションの文化もあって、着物を含めて、自由にファッションを楽しんでいく、自由にそれをつくっていくという楽しみがありますよ」ということです。
成人式の振袖と夏の浴衣だけでなく、ふだんにカジュアルに着物を楽しんだっていいんじゃないでしょうか。それも、着物の着装のルールにしばられない、自由な着方で。洋服とうまく組み合わせたっていい。今では、そういう時のための、綿や合繊の安い着物だってたくさんあります。
日本に住んでいるということは、そういう和洋折衷の混沌の中にいるということであり、それは、世界から見るとすごくユニークで、ほかでは見られないことだと思います。そして、そういうところから、世界の新しいファッションが、真にクリエィティブなものが、また、生まれてくる可能性があると信じています。
もちろん、場所によっては、洋服と同じドレスコードがあり、ホテルの厳粛なパーティーには着物はこうやって着るべきというルールはあります。
でも、普通の日、カジュアルなファッションでいる時に、どんなルールがあるというのでしょう。
どんな着方をしようと、それは、貴女の自由なのです。そもそも、今常識とされている着物の着方のルールというのは、せいぜい数十年ぐらいの歴史しかありません。
名古屋帯とか袋帯とかだって、せいぜい、それぐらいです。
大人たちがつくった世界は、なかなか変わらないと思っていませんか?
何を着るかは、貴女がすぐに変えれますよね?
みんなの着るものが変わるということは、世界が変わることじゃないですか?
貴女は何を着るかで世界を変えることができるように、ほかのさまざまなことで、世界を変えていく力がある。それを意識しないでいても、世界はどうせ貴女に寄り添って変わっていくのだから、あなたの望むように変えていけばいいのです。
すみません、偉そうなこと言って!
ともかく、明日の成人式、振袖で、おもいっきり弾けてきてください。
そして、着物を嫌いにならないでください。
成人おめでとう!