将来「本流」になりそうなニッチを選んで起業することの難しさ
俺はニッチの産業を選んだことは一度もない。そんなつもりで、ニッチの隙間だからチャンスありなんて、思った事は一瞬すらない。
そうではなくて今、その産業、そのセグメントが小さくても、隙間のような小さなセグメントでも5年10年後30年後にそこがメインになる。それを常 に選んできた。その隙間が後々一番大きな流れになって、一番大きな幹になって、本流になると、一番大きなマスマーケットになっていくと。
そこを早い段階、ちっちゃい段階で選んだというのが、いつもそうですよと、大体。だけど、10年経っても隙間って、30年経ったら隙間がそもそもなくなると。それを馬鹿が選ぶ。
(ログミー『孫正義氏「ニッチを狙え、という人はバカ」 選ぶなら常に30年後の王道を』
これは、孫正義さんがソフトバンクアカデミア開校記念の講演でおっしゃっておられることなのだけど、ほんとうにそうだなと思った。
僕の場合、最初、何十ものビジネスアイディアを考えつくことができず、古い着物との偶然の出会いと、「海外向けにネット販売したら?」というとくに目新しくはないアイディアで12年前に商売を始めた。
40才で家族を抱えて会社を辞めてしまっていたので、それが王道になりそうだとか、将来の本流だとか、考える余裕なんてなかった。
とにかく、まずは、日銭が必要だった。
そして、それはとにかく軌道にのり、家族を露頭に迷わせずにすんだ。
その頃は、そのビジネスが明日をもしれぬニッチでの商売と思っていたので、次に何をするか、必死で考えていた。
その後、順調に商売が大きくなり、扱いアイテムも増えて、「海外向けのネット販売のベースをつくってみんなに使ってもらえば大きなビジネスになるかも」と思いつき、その方向に走りだした。
孫さん流に言えば、それが『本流』になるかもと思って。
でも、いまではそれは『本流』にはならないと思っている。
しかし、もちろん、それが『本流』になると思って、その方向に事業をすすめておられる方もいる。
僕が本流にならないと思う理由は、ネット販売の顧客への密着度がどんどん高くなっていて、国境で隔てられた法律や距離や時間などが、どうしても克服できないと思えるからだ。
あくまで、ニッチ分野のものは、海外向けのネット販売でも売れる。
だが、大きな売上をつくろうとすると、やはり、現地の販売代理店などを利用しないと、いろいろな意味で距離が縮まらないのだ。
実際、海外向けのネット販売というのは、10数年前から期待されてきて、いまだにブレイクしない。
結局、一番難しいのは、孫さんのおっしゃることは100%理解しても、『小さなセグメントでも5年10年後30年後にそこがメイン』になるものを選び出すことだと思う。
さらに、それが誰の目にも明白な場合は、そこでの競争が苛烈になること。
まさに、一級の起業家たちがそこで、死に物狂いの競争をし、ほんの一握りの人だけが成功する。
また、マネタイズまでに、それなりの時間がかかり、資本力の勝負にもなってくることだと思う。
机の上で考えていると、どうしても、そういう誰の目にも明らかな『大きな将来性のあるニッチ』を選んでしまい、生存率の低いところに飛び込んでしまいがちだと思う。
いっぽう、なにかのビジネスの現場にいると、『大きな将来性のあるニッチ』をみつけたように思う時もあるけれど、実際のところは、その見込の確からしさには疑問符がつく。
孫さんに、バカっ!って言われたら、返す言葉もないんだけど、孫さん、そうおっしゃられても、ふつーの人間には、それがまさに一番難しいんですよ!