ICHIROYAのブログ

元気が出る海外の最新トピックや、ウジウジ考えたこととか、たまに着物のこと! 

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寿司を中華料理と思っているイタリア人と『アメリカン・スパゲッティ』

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                                                                                               photo by Jack Torcello 

 

 先日、グロッソさんというお客様がイタリアから弊社にやってきてくださった。
 彼女とはもう10年近いお付き合いだけど、実際にお会いするのは今回がはじめてだ。
 かなりタフ・ネゴシエーター的なビジネスをする方なので、どんな迫力のある人が来るのかと思っていたら、僕らより20才ぐらい若い、大きな目の美しい女性だった。
 
 僕らはずっと着物を送ってきたのだけど、彼女とは取引の実際的なことをメールでやりとりするだけで、彼女がどんなビジネスをどんな規模でやっておられるのかは知らなかった。
 が、今回、彼女の話を聞いて、僕も嫁もいっきに彼女の大ファンとなってしまった。

 グロッソさんは、もちろんイタリア語と、英語と、少しの日本語を話す。彼女が日本語が話せる理由は、大学で日本語を学んだからだ。
 大学を卒業後、彼女は日本のものを売るビジネスを始めた。
 それが10年ぐらい前のことである。そのころ、インターネットでみつけた僕らを着物の仕入先として選んでくださった。
 彼女が住んでいるのは、ベネツィアから少し内陸に入ったトレヴィーゾという町で、そこに小さな小さな店を構えた。(上の写真はトレヴィーゾの風景)
 トレヴィーゾという歴史のある町は、ベネトンと電機メーカーのデロンギの本社がおかれているそうだが、基本的には静かな地方都市だ。
 そんな町だから、彼女が日本のものを売るビジネスを始めた時、おそらく誰も、将来大きなビジネスになるとは思いもしなかっただろう。

 しかし、彼女の現在の店は、100㎡を超える広さとなっている。
 彼女は『居酒屋』をオープンし、2年前からは日本人シェフも雇って、ホンモノの日本料理を酒を提供している。
 彼女の『居酒屋』では、もちろん寿司も出すが、お好み焼きも提供し、それが人気メニューのひとつになっているという。
 着物や、お弁当箱や、さまざまな日本の商品をその店で販売もしているのだが、それだけでなく、お茶の先生を招いてお茶の教室、生花の先生を招いて生花教室、あるいは、お弁当コンテストなども開催しているのだ。
 お弁当コンテストの写真なども見せていただいたが、その作品の素晴らしいこと!

 店が大きくなり、繁盛していることから、多店舗展開をすればよいと、よくアドバイスされるそうだ。
 しかし、彼女はとてもクレバーで、多店舗展開はしない、そんな余裕があれば、トレヴィーゾの店を少しでも大きくしたいのだ、という。
 多店舗展開して、細切れの日本を多くの場所で見せるのではなく、彼女の愛するトレヴィーゾの町に、日本の文化やモノが楽しめる一大拠点を作りたいのだそうだ。
 じゃあ、たとえば、『旅館』とかつくれたらいいですね、タタミにお布団で寝ることのできるホテルが、そこにあれば、きっと、めちゃくちゃ楽しいですね、と申し上げたら、彼女は満面の笑みで頷いた。
 彼女は、現在のトレヴィーゾの店を、イタリアで一番の、いや、おそらくイギリスを除くEU内で、もっとも大きな日本文化の拠点にしたいと、夢見ているようだ。(イギリスにはJapan Centerという先行者がいる)
 
 僕らも10年以上、海外に着物や日本のモノを販売してきた。当初、ネットで海外のエンドユーザーに直接販売する方法がとても有効に思えたのだが、リーマン・ショックと円高で状況が変わり、いまでは、ネットでの海外向け販売には限界があると思っている。
 当然、僕らも知恵を絞って、たとえば、着物を売るにも着付けができないと着れないよね、ということになり、英語版の着付けDVDをつくった。
 きちんとプロの手を入れたもので、いまだその経費は回収できていないが、7~8年前に、英語で着付けを学べるDVDはほかになかったし、それなりの貢献はできたとは思う。(下の動画は、そこから切り出して、Youtubeに無料で公開したもの。再生回数は34万程度)

 
 

 だが、僕らがやっていることは、やはり、お客様からははるかに「遠い」のである。
 グロッソさんに聞くと、トレヴィーゾの町の住民はほとんど英語も話さないし、料理でも、たとえば、寿司は、中国の料理なのか日本料理なのかすらわかってもいないと言う。
 彼女はそんな町の人たちに、日本文化とはどんなものなのか、日本食とは中華料理とどう違うのか、ひとつひとつ教えていったのだった。
 だからこそ、店を拡大するのに、10年かかったし、また、タフな交渉が必要になる局面もあったのだと思う。
 そして、お店は人気店となり、「寿司は中華レストランで食べるもの」と思っていた町の人たちが、お好み焼きに舌鼓を打つようになったのである。

 素晴らしい。
 日本のものを海外に売ろうとすれば、英語に翻訳してネットに掲載するだけではだめで、やはり、彼女のような地道な努力の長い継続が必要なのだ。
 彼女はまだ若い。
 10年後、20年後には、きっと彼女は夢を実現し、ヨーロッパで日本文化に触れたかったらトレヴィーゾへ行け、ということになるだろう。
 
 国もCool Japanで誰かを支援するなら、地に足のついた、彼女のような人を支援して欲しいものだ。
 これを読んでいただいている方で、そういった方面に知人がおられたら、ぜひ、彼女の話をしてあげて欲しい。

 彼女の会社の名前は Ikiya という。インテリアのIKEAと似た名前だが、じつは、「粋(iki)」と「屋(ya)」との組み合わせで出来ている。
 イタリア語だが、HPもこちらにある。


Ikiya - Il negozio giapponese di Treviso

 

 ちなみに、彼女と近所のレストランでお昼を食べた。
 「イタリアン・スパゲッティ」というメニューをみつけて喜んでくださったので、注文して少し食べてもらった。
 彼女の感想は、「美味しくなくはないけど、変わった味ね。敢えて言うなら、これは、『アメリカン・スパゲッティ』じゃない」
 なるほど。
 寿司を中華料理と間違うと言われるとひどくがっかりする僕らだけど、「イタリアン・スパゲッティ」をまさにイタリアらしい味と無意識に思ってしまう僕らも、五十歩百歩なのだなと思い知った。

 ぜひ、グロッソさんに、最大限のエールを!

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