あなたが提供しているものは『どの程度のお客様の痛み』を解決していますか?
僕らは自分の製品やサービスを、『お客様の痛みの解決である』と考えることが不得手なのかもしれない。
昨夜、お馴染みカナダのJustinさんの最新記事『The pain you can't stand(あなたが耐えられない痛み)』という記事を読んで、そういう思いを持った。
彼の記事には、『痛み』にも程度があって、たとえばそれを3種類に分けると考えやすいと提案されている。
*ひどい痛み 急に歯が痛くなって、我慢できないぐらいである。近所にある歯医者の看板を思い出し、あるいはネットで救急でみてくれる歯医者を探して飛び込む。
*ふつうの痛み 時々、奥歯に鈍痛があるけど、ほおっておけば痛みも止む。いつかは歯医者にいかなければならないと思っている。
*少しの痛み ほとんど痛くはないが歯茎が少し腫れているようだ。歯槽膿漏に関するCMなどが少し気になる。
もし自分が歯医者だったら、マーケティング、お客様へのアプローチの仕方は、痛みの程度によって、かなり変わる。
「ひどい痛み」には、検索結果の上位であることや検索連動広告が即効性をもって効く。
「ふつうの痛み」には、それらに加えて、プッシュマーケティングの要素が必要になってくる。メール広告、DM、電話勧誘、紙媒体での広告、継続したブログ出稿などである。そういったお客様には、何度も、「ここに解決がありますよ」ということを気づいてもらう必要がある。たいていのお客さまは、そこで財布を開くより、「たいした痛みでもないから我慢しよう」と考えてしまう。
「少しの痛み」の場合、「痛みどめのアスピリンではなくビタミンが必要な状態」である。それに対しては、より大量のプッシュマーケティングが必要となる。お客様にそれが真に問題であり(「歯槽膿漏になったらのちのち怖いことになりますよ!」)、こういう解決をしたほうが良いですよと説得しなければならない。そのために、たとえば、定期的にDMを出したり、お客様との親密感を増すために何度も電話したりしなければならない。そして、そのためには、大きな宣伝・コミュニケーションのコストがかかる。
さて、彼は経験上、またいくつかの例証をもとに、それぞれの痛みの状態での、必要な「接触回数」、つまり、来院(来店・購入)に至るまでに、何回、お客様の目にとまったり、話をしたりすることが必要かを、次のように規定している。
*ひどい痛み 1,2回
*ふつうの痛み 3~7回
*少しの痛み 8~100回以上
それをグラフにすると、上のようになる。
横軸が痛みの程度、縦軸が必要な接触回数である。
とても、わかりやすくイメージでき、また、納得できる話ではないか。
昨夜、ジャスティンさんのこの記事を読ませていただき、さすがジャスティンさんはマーケティングを可視化されるのがうまいなと感心した。
そして、それを僕らの小売りやファッションの業界にいるものが応用しようとしたらどうなるのか、考えてみた。
まず反省したのは、僕らのサービスが『顧客の痛みの解決である』という視点が希薄になっている点だ。
一般的なマーケティング用語には、「ニーズ」と「ウォンツ」があって
*ニーズ 人間生活上必要なある充足感が奪われている状態のこと
*ウォンツ ニーズを満たす特定のもの
と言われている。
僕らのいる着物やファッション業界や小売りの業界では、そもそもの「ニーズ」は満たされているので、お客様の求める「ウォンツ」、特定のブランドや特定の商品を品揃えしたり、つくって育てたり、というところばかりに関心が向いてしまいがちだ。
ジャスティンさんの言う、『痛みの解決』とはまさに、「ウォンツ」ではなく、「ニーズ」を軸にマーケティング戦略を考え直してみようという話でもある。
たしかに「ウォンツ」に応えて行こうとすれば、小売りでは仕入れさせてもらえるだけのセリングパワーなり店の格が必要となるし、ファッションではブランド育成のための長い種まき期間が必要となるだろう。
それだけに、時間もかかるし、多額の資金投下が必要となる。また、検索の上位になることに血眼になっても、それで一気に解決するものでもない。
じつは、いま仲間と新しいことを始めようとしている。
そのプロジェクトは、今までの話し合いの中では、「ウォンツ」によった話だったし、「お客様の」痛みの程度(「売る側」の痛みについては話が多く出た)については、あまり考慮していなかったので、どれほどのマーケティングコストがかかりそうか、真剣には議論してこなかった。
だが、この『サービスとは顧客の痛みの解決である。そして激しい痛みであればあるほどお金を出して利用していただけるまでにかかるマーケティングコストは安い』ということを再認識して、その新しいプロジェクトを別の視点から見ることができたと思っている。(ここにそれは書けないが。また、始動したら告知します)
おそらく、ウェッブサービスやさまざまな製品を考えるうえで、よくわかっているようでも忘れがちな視点を、この考え方はもたらしてくれると思う。
あなたの提供するサービスや製品は、お客様のどの程度の痛みを解決するものだろうか?