ICHIROYAのブログ

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僕らがほんとうに望んでいる「大人の旅のスタイル」ってどんなものなんだろうか?

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 歳をとって完全に姿を変えてしまったもののひとつに、旅がある。
 僕だけかもしれない。世の中には、知り合いのある人のように、90才を超えてもまだ辺境に旅をし、その地には禁制の聖書を持ち込む剛のおばあちゃんもいる。
 だが、残念ながら、僕の「旅」は完全に変わってしまった。

 はじめてのヒッチハイクは京都から鳥取砂丘まで。インターの入り口付近に立ち、勇気を奮って指を立ててサインをつくる。やがて必ず車は止まってくれる。交通量が多いところでも少ないところでも、だいたい待ち時間は30分から1時間。恥ずかしさを克服すれば別に難しいことは何もない。夜、鳥取砂丘に寝転んで眠ろうとしたが、さすがに眠れず、鳥取駅に行って寝る。
 駅で寝ることに慣れて、終電後に追い出され軒下で寝た札幌駅では、ビジネスマンの雑踏に目が覚める。
 
 生まれて初めての海外旅行。中継地のバンコクでたったひとり、パスポートを握りしめて夜の街へ飲みに行った。雑居ビルのなかからえいや!と選んで入った小さなパブのおねえちゃんは英語も話さず、何ひとつコミニケーションできない。会計でいくら言われるのか気が気ではないまま、手振りで会話を試みるが何も伝わらない。しかし、僕はささやかな冒険の第一歩に満足至極だった。

 カルカッタは完全に僕を拒絶した。ミュージックテープの売り子の子供たちがうるさくまとわりついてくるので、値切ってみた。その値段が桁はずれに安かったらしい。子供たちの顔つきが変わりいなくなったと思ったら、後ろから石が飛んできた。
 その暑さ、その匂い、指の欠けた物乞いの手。映像の中にではなく、現実のインドに、カルカッタにいながら、透明の幕が存在して、僕という存在を拒絶する。
 旅行を切り上げて日本に逃げ帰りたくなったが、なんとかプーリーまでの列車のチケットを買う。開け広げたドアのそばにリュックを置いて座り、インドの風景が流れていくのをぼんやりと眺める。
 そして、プーリー。ルンギー(男性用スカート)をはいて日曜日の朝に海岸沿いの村を散歩していたら、村人たちが集まって歌っているところに出くわす。おいでおいでと手振りで呼ばれて、その輪に加わる。ガンジャが回ってきて、吸えと言われ、口をつけてゆっくり吸い込む。やがて、彼らが奏でている音楽が不思議な暖かさで僕を包み・・・
 
 仲間と行ったフィレンツェ。早朝、同行者がまだ眠っている間に、街に飛び出す。ウォークマンでケルンコンサートを聴きながら、その歴史の刻まれた町並み、かつてメディチ家が支配し、ルネッサンスの中心となった街を闊歩する。みんな誇りをもって仕事をし、うまいものを楽しみ、思い切り笑って、人生を謳歌しているように見えるイタリア人たち。
 一行はイタリアを味わいつくそうと有名レストランの梯子。もっと、庶民的なところへもということで、ミラノではストリップへ。舞台の上から、真っ白なイタリアのお姉さんが、誰か上がっておいでと呼ぶ。みんな躊躇してるようだったので、僕は手をあげて舞台にあがる。WOW! Japanese Boy!とか、なんとか言われて・・・

 若いときの旅は無鉄砲だ。
 はちきれんばかりの好奇心に満ちている。
 失うものが少ない分、冒険心だってかなりのものだ。
 身体だって頑強だ。勧められたら、よほどのことがない限り、食べてみる。

 しかし、もうだめだ。
 50才を超えてから再訪したインドでは、ちゃんとしたホテルに泊まり、ガイドもついていたいわば大名旅行だったのに、旅行中、下痢と微熱がとまらなかった。
 そもそも、最安値のチケットを取り、バックパックをしょって、宿も現地で手配するなどという、若いころにはそれこそが楽しみであった旅の不自由さを楽しむココロがどこかに消えてなくなってしまった。
 最近では、海外旅行と言えば、旅行会社のツアーを買い、現地でもオプショナルツアーを買ってすませる体たらくで、なんらそれを恥じない。
 思えば、若いころの僕は、そういう旅のスタイルを、完全に馬鹿にしていのだ。

 もちろん、僕らの歳の人間には、僕らの歳の人間にしかできない旅があるはずだ。
 それが、グリーン車に乗るとか、高級ホテルに泊まるとか、たんに、快適で肉体的に負荷の少ない方法を選ぶという以上の何かが。
 それがいったいどんなものなのか、僕にはまだよくわからない。
 大人の旅のスタイルというものが、今の歳の僕にとっての、最高の旅とはどんなものなのか、まだよくわからないのだ。

 でも、というようなことで、ゴールデンウィークだし、小さな旅に行ってきます。
 みなさんも、お気をつけて!

photo from New Old Stock