きのう娘がボーイフレンドを連れてきたんだが・・・
きのう、娘のボーイフレンドがやってきた。
僕は結城紬を着て和室で正座して、ふたりを迎えた。
カレと娘は二人並んで正座し、嫁がお茶を運んできて、湯のみに注ごうとしていたとき。
カレが唐突に、敷いていた座布団を横にはねのけ、がばっと両手をつき、「お嬢様と正式にお付き合いさせてください!」と言った。
そして、髭を触りながら、僕は思案する。
この男は、誠実だろうか?
この男は、パチンコや競馬や女装や、そのほかもろもろの僕には言えない趣味はないだろうか?
この男は、そもそも幸せになるチカラがあるのだろうか?
この男は、どれぐらい稼げるのだろうか?
この男は・・・・
凍りついた雰囲気。
で、嫁が横から口を出す。
「まあまあ、先にお茶でも飲んでくださいな」
娘のボーイフレンドがやってきて、父の僕に挨拶するということは、昨今こういうことではない、ということは、ずっと前からわかっていた。
うちには娘がふたりおり、すでに長女は嫁に行っており、なにかと経験済みだ。
じつは、昨日、下の娘のボーイフレンドが我が家にやってきたのだ。
庭のクリスマスイルミネーションをしつらえてくれて、家族で夕食を食べた。
娘や嫁からまだ攻撃はないが、「どうだった?」「いいひとでしょ?」っていう質問攻めに、これからあうことになっている。
たしかに、営業で鍛えられているだけあってあたりの柔らかい好青年だった。
しかもおしゃれで男前ときている。
正直、とっても好印象であった。
ところで、父というものは、娘にはよい伴侶をみつけて欲しいと思っているが、案外あれやこれやと思い悩まないものだ。
そもそも、芸能人の結婚を見ていても痛感するが、選び放題の恵まれた女性が、男性を選びに選んだからといって、幸せになれるとは限らない。
父は、違う視点から男を見ることができるのだが、まあ、それも、当たり外れはあるもので、絶対ではない。
それに、「こりゃ絶対にダメだ」と思う相手を連れて来られて大反対したら、どうせ燃え上がって突き進んでしまうに決まっている。
僕が娘たちに望んでいるのは、娘たちに口を酸っぱくして言ってきたのは、伴侶選びのことではなく、自力で生きるチカラをつけよ、ということだ。
伴侶選びに失敗することもあるかもしれないし、伴侶選びは成功だったが、早死してしまうかもしれない。
結局のところ、誰かにすべてを預けてしまうような人生を送るんじゃない、と。
ちょうど、そんな僕の気持ちをうまく表現したポスターがあった。
このポスターはアメリカのMerch Achademyというカソリックの女子校が最近作ったものだ。
そこにはこう書いてある。
Don't wait for a prince.
Be able to rescue yourself.
Prepare for real life.
王子様を待ってちゃダメ。
自力で自分を救い出せるようになりなさい。
現実の人生に備えなさい。
You're not a princess.
But you can still rule the world.
Prepare for real life.
あなたはお姫様じゃない。
だけど、あなたの人生を支配することはできる。
現実の人生に備えなさい。