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ICHIROYAのブログ

元気が出る海外の最新トピックや、ウジウジ考えたこととか、たまに着物のこと! 

★★★当ブログはじつはリサイクル/アンティーク着物屋のブログです。記事をお楽しみいただけましたら最高。いつか、着物が必要になった時に思い出していただければ、なお喜びます!お店はこちらになります。★★★


ホーチミンで会った赤いイナズマおばちゃん!( 小売ってなに?! )

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小売っていうのは、農業みたいなものだ、と尊敬する上司が口癖のように言っていた。
来る日も来る日も、腰をかがめて、雑草を抜き、虫を除いて、わずかしか成長しない作物たちを我慢強く見守る。
特別な日は、年に1回の収穫の日ぐらいしかなく、あとは、延々と、同じ繰り返し日々が続く。
作物はほんの少ししか成長しないのに、動物たちがやってきて土を掘り返したり、雨が何日も降らなかったり、台風がやってきたりする。
それでも、腰をかがめて、我慢強く同じことを、コツコツと繰り返す、それが小売だ、と。

30年、小売りの世界にいると、その言葉がますます胸に沁みる。
あるブログを読んでいたら、古本屋さんを始めたひとが、「店番がたいへんだ」とか、「ヤフオクに写真を撮ってあげるの作業がたいへんだ」とか、「発送作業がたいへんだ」とか嘆いていた、と書いておられた。
そして、そのせいで、「本来、好きだった本が読めなくなった」と。

その方は、小売っていうものがどんなものだか、まったく知らずに、商売を始めてしまわれたのだな、と思った。
「これをちょうだい」と言われて、代金をいただき、品物を包装して、渡す。
その「単純作業」の繰り返しが、小売りだ。
ヤフオクに出品するために、写真を撮り、メールのやり取りをするのも、同じことだ。
それの単純作業の本質が、小売りだ。
それが嫌なら小売りなんてできない。



ホーチミンは今、雨季ですから、夕方から、スコールがくる日が多いです」流暢な日本語でガイドさんが言う「でも、30分ぐらいで雨は上がりますから、どこかで雨宿りでもしてやり過ごしてください」
そして、ガイドさんが言った通り、まさにその数時間後、にわかに黒い雲が広がってきた。
傘も持たずに、初めての街歩きに出ていた僕らは、焦った。
オプショナルツアーの約束の時間があるから、雨宿りしている暇はない。
早くホテルに帰らないと。
ベトナムの人たちは、もちろん、慣れた手つきで子供たちにカッパを着せたり、店先のテーブルのカフェの客を天井のある場所へ移動してもらったりしている。

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バイクや車が川の濁流のように流れる、信号のない交差点を、命がけでわたりながら先を急ぐ。
あと5分ぐらいというところで、頬にポツンと冷たいものを感じたと思ったら、あっという間に、バケツをひっくり返したような大雨となった。

通りの軒先で途方に暮れる。
雨あがりを待っていたら、たぶん、オプショナルツアーの集合時間に間に合わない。
少しの距離だけど、雨の中をいけば、すべてびしょ濡れになる。

と、その時だった。
声をかけられて、振り向いたら、そのおばちゃんがいた。
赤いポンチョ、ヘルメットをかぶったおばちゃんは、傘とレインコートを前の荷台にいっぱい積んで、いつの間にか、僕のすぐ後ろにバイクをつけていたのだ。

「傘、いる? ちゃんとした、頑丈なやつよ。折りたためるし、ほら、しっかりしてるでしょ?」

ベトナム語で、たぶん、彼女はそう言った。
そして、その笑顔は、その瞬間に、世界中で最高の笑顔を決めないといけないとしたら、確実にノミネートされるはず、というぐらいの、最高の笑顔だった。

雨季だから、毎日、決まったように雨が降る。
観光シーズンだから、スコールに立ち往生する観光客が、必ずいる。
だから、スコールになりそうになったら、彼女は、赤いイナズマとなって、街へ乗り出す。
バイクを街を駆ける赤いイナズマおばちゃんは、スコールが降り出したら、獲物をみつけ、それっとばかりに舞い降りる。

初めてのベトナムで、警戒してハリネズミのようになっていた僕らだけど、彼女の笑顔に、その針もすべて溶かされてしまった。

傘とレインコートを買った。
ベトナムの通貨は「ドン」で、日本円の100円が2万ドンだ。
正確にいくらだったか忘れたが、ふたつで20何万ドンかを払った。
ちょっとだけ、高いなと思ったけど、欲しいものが欲しいときに、こんな最高の笑顔をつけて提供されたら、何の文句もない。

おばちゃんはお金を受け取った後、さらに、3本目の傘を差しだして、しきりに買ってもらおうとしてたけど、さすがに、ふたりに3つは必要ない。
ついに納得したおばちゃんは、叩き付けるような雨の中へ、また新たな獲物を探して、乗り出していった。

おかげで、僕らは、たいして濡れもせず、オプショナルツアーに間に合う時間に、ホテルに帰りつけたのだった。

あのおばちゃん。
まあ言えば、世界中にいる幾千万人の露天商のひとりに過ぎない。
偉くもなく、特別でもなく、ただ、淡々と、傘を売って生計を立てている。

だけど、ああ、ここにひとり、素敵な、ホンモノの「小売の同志」がいたよ。
甘ちゃんの僕は、心の底から思ったのだった。


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