理想のリーダー像は、ベーシストに学べ!
ジャズ・ベースを好きなひとなんていうのは、よほどのヘンタイだ。
ただし、今日は、ヘンタイの話ではない。
たぶん、最後まで読まないと、ソンをする。
ジャズにハマったひとたちは、たいてい、サックスやピアノ、ボーカルなどからはいる。
で、ジャズワールドを渉猟するうちに、何人かのひとは、ジャズベースの豊穣な世界に目覚めるのである。
僕も実際に、クリスチアン・マクブライドというベーシストに出会うまでは、ベーシストのリーダーアルバム?
えんえんと、退屈なベースのリードを聞かされるの?
きっと、ダメ、と思っていた。
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しかし、期待せずに買ってみた、このアルバムが、案外、良かったのだ。
ベーシストは、音のもっとも低い部分とリズムを受けもつ。
主旋律は、もちろん、ピアノやホーン、ボーカル、ギターなどの役目だ。
じゃあ、ベーシストのリードアルバムって、どうなの、と思う。
たとえば、ピアノ奏者のリードアルバムだと、アルバムのすべての曲のリード楽器はピアノになる。
だから、キース・ジャレットのアルバムを聴くときは、キース・ジャレットのピアノを聴くことが第一義となる。
が、クリスチアン・マクブライドのリードアルバムでは、リード楽器は、曲ごとに変わるのである。
さまざまなリード楽器が、その才能のままに、素晴らしいフレーズを展開して、様々な色で、聴くものを楽しませる。
どの曲でも、ベーシスト・クリスチアン・マクブライドは前面にはいないが、常に、低音を奏で、たまに、洒落たフレーズで顔を出しても、また、低音とリズムに戻り、音の進行を支え、音に深さと広がりを与える。
クリスチアン・マクブライドのベースを聴くことが一義ではなく、クリスチアン・マクブライドがチームで作り出す様々な音楽を聴くことが一義となるのである。
ベーシストのリードアルバムが、そういう聴き方、楽しみ方のできるんだな、と知ったときの衝撃は大きかった。
彼のアルバムは、なかなか飽きず、何度も何度も繰り返し聴いた。
そして、こんな風に思った。
これ、ベーシストのリードアルバムというのは、企業経営、リーダーの理想的な姿を示唆しているのでは、と。
脚光を浴びるのは、いつも、サックスや、ピアノや、ギターや、ビブラフォンや、オルガンやボーカルなどでその曲のリードをとる楽器の奏者だ。
彼らが、その才能と技の限りをつくして、客を楽しませる。
しかし、ほんとうのリーダーは、後ろにいて、あくまで、低音とリズムをとって、曲の進行を調整し、自分がスポットライトの中に出てくることはないが、バンドの奏でる音を、いわば、完全に支配しているのだ。
自分がサックス奏者で、バンドを率いていたら、常に自分はスポットライトの中に立ち続けなければならないし、サックスという楽器をリードに使い続ける制約のなかで、新しい音楽を提供していかなければならない。
しかし、ベーシストにはそういった制約がない。
さまざまな才能の人々を引き立てて、活躍の場を与え、新しいものをつくっていくことができるのだ。
僕が、クリスチアン・マクブライドに出会ったのは、90年代だった。
あれから、ジャズ専門誌のスイングジャーナルも廃刊になり、僕もすこし、ジャズと遠ざかり気味だ。
あの才能にあふれたクリスチアン・マクブライドは、どうしているのかなと思ったら、去年、第54回グラミー賞の、Best Large Jazz Ensemble Albumにクリスチャン・マクブライド ビッグバンドの「The Good Feeling」が選ばれていた。
がんばっている!
僕はといえば、10年、小さなチームを率いて、あいかわらず、鳴かず飛ばずである。
とは、いうものの、こうでありたい、という理想の火は、あいかわらず、強く燃え盛っているのであった!
ぽてちん!
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