ICHIROYAのブログ

元気が出る海外の最新トピックや、ウジウジ考えたこととか、たまに着物のこと! 

★★★当ブログはじつはリサイクル/アンティーク着物屋のブログです。記事をお楽しみいただけましたら最高。いつか、着物が必要になった時に思い出していただければ、なお喜びます!お店はこちらになります。★★★


長すぎて誰も読まないと思われる、本年末のごあいさつ!

f:id:yumejitsugen1:20121231085217j:plain
by Brooklyn Bridge Baby

 

数ヶ月前、近所に「コメダ珈琲」さんができた。


ここは、駅からバスで10分、歩いて30分ぐらかかる土地なので、やや遅れて開発された住宅地だ。
大きめの家が多く、大規模なマンションも多い。
僕たちは、バブル崩壊後、駅から遠いせいで、その価格が大きく下落した、この住宅地のなかの一軒を、中古で、やっと手に入れたのである。


それにしても、付近を散歩して、よく思う。
いったい、これらの立派な家は、新築で建てた当時、いったいいくらかかったんだろう。
どうやったら、そんなお金が払えるのだろうか。
そして、こんなにも立派な家がたくさんある、ということは、じつは、世の中は、お金持ちで溢れかえっているのではなかろうか、と。

それはさておき、付近の住宅地の真中には、ジャスコと専門店街がある。そして、ますます賑やかになってきて、最近では、ユニクロやABCマート、モスバーガーなんかもできた。
そこへ、珈琲屋さんができるというので、はてな、と思っていた。

商業施設はあっても、基本的に住宅地である。
近くにパンの味が売りの大規模喫茶店があるが、珈琲そのものを売りにする店はない。
住宅地に、珈琲そのもので勝負する施設なんて、成り立つのだろうか。
そう思っていた。

さて、大晦日の今朝も、事務所に用があって、出てきた。
朝食つくろうか? という嫁の言葉を振りきって、事務所に向かう途中で、コメダ珈琲に寄る。
ここのコメダ珈琲は、朝、7時から、開店しており、年中無休。
着いたのは、7時20分ごろ。
すでに、駐車場は満杯に近く、第二駐車場に車を回す。

ひょっとして、満席かと不安になりながら、ドアを押して暖かい店の中に入る。
入り口そばに、最新の新聞や雑誌が置いてあり、いつもそこで何か取るのだけど、今朝はすでに新聞は出払っており、めぼしい雑誌もない。
「禁煙席」をお願いする。
店内は、すでに、夫婦連れや家族連れで、ほぼ満員。 
幸い、ほんの少し空きがあった。

店内のテーブルは、ボックスのようになっており、ほとんどは4人席である。
空いている時なら良いが、ひとりで、4人席を占領するのはちょっと気がひける。
が、4人席しか空いていない。
ひとつのボックスの中に、4人席と2人席が分けて置いてあるところがあり、やむなくそこに席をとった。

2人席には僕よりやや年配の男性が新聞を広げている。
日経新聞」である。
あ、読みたかった新聞を先にとったのは、この男性か。
しかし、僕はipadminiで読めるから、別に問題はない。

いつものようにモーニングをお願いする。
珈琲に、厚いトーストの半分と卵がついてくる。
トーストも旨いが、とにかく、熱々の珈琲が旨いのである。
旨い珈琲と、ゆったりした座席、きちんと管理された新聞と雑誌、そして礼儀正しい店内のスタッフたち。
とっても、満ち足りた、ゆったりした朝の時間がゆっくりと流れていく。

お客さんは次から次へと入ってくる。
「満席ですので、少々お待ち下さい」という声が聞こえてくる。
4人席にひとりで座っているので、相席をお願いされるのかと思えば、そうでもない。
次のお客様をお待たせし、効率を犠牲にしても、すでに入った客の快適性を大事にする方針のようだ。
で、僕のようなファンが、この町に増えていく。
素晴らしいことだな、と思う。
少なからぬ町の住人が、休みの朝は、早く起きて、コメダ珈琲に行くという風に、習慣を変えてしまった。
まったく、ショウバイというのは奥が深い。
コメダ珈琲さんに完全に脱帽である。


長くなって申し訳ないが、今日の話は、これで終わりではない。

ipadminiに日経新聞をダウンロードしようとすると、なかなかスムーズにダウンロードされない。
やっぱり、WIFI環境にいない場合は、紙の勝ちかな、などと、隣の男性の日経新聞を、恨めしく思ってチラ見する。
男性は、さっきから同じページにとどまって、舐めるように読んでいる。
黒っぽいジャンパーを着て、襟元にはマフラーが押し込まれている。
歳は60才前後だろうか、浅黒い顔に、少し髭が伸びている。
きっと昨日ぐらいから会社は休みで、今朝は、早く起きて、近くの大きな家のひとつから、運動にと散歩に出てきて、コメダ珈琲に立ち寄ったに違いない。
来年、経済が大きく動きそうなので、資産をどうするか、日経新聞を読んで、検討しているのであろう。


さて、僕は、1年の終わりの今日にあたって、どんな記事をブログに書こうか、と考えながら、ipadminiでネットを見ていた。
本年度の個人的ベスト10,っていうのも、年末に相応しいだろうか。
それとも、除夜の鐘にかけて、僕の108の煩悩、っていうのはどうだろう。
それにしても、今年もなんとか、やってこれた。
ありがたいことだ。

と、隣で、ばさっ、っという音がした。
うん?
また、ばさっ。

男性が、ジャンバーとマフラーを脱いで、テーブルをはさんで空席の、自分の向かいの座席に投げていた。
そこには、白いビニール袋が置いてあり、ジャンパーなどがその上に投げつけられたため、ビニールが、バサッという音を立てていたのだ。
ちょうど、男性は僕の斜め向かいにあたる場所にいるので、投げつけられた席は、僕のちょうど隣にあたる。

それにしても、なんだかその投げかたが変だった。
手を伸ばして置きたいのだけど、届かないために、少し、放おった、という風ではなく、投げつける感じなのだ。
そのため、バサっという音がしたのだ。

気になって、男性のテーブルの上を見る。
スーパーのチラシのらしきもの、そのまわりに、カラフルな色のボールペンが3本散らばっている。
この男性はスーパーのチラシの特売品をチェックしているのだろうか?
わからない。
ここの新聞にはチラシはついていないので、自分でわざわざ持ってきたものである。


いつの間にか、男性は、重ね着をしているシャツの腕を、まくりあげている。
そして、まだ、熱心に日経新聞を読んでいるのである。

足元を見た。
そして、やっと、合点した。

組んだ足の片方は、靴を脱いでいて、足の裏が僕の方を向いていた。
そして、その靴下には、穴が開いていたのである。
もう片方の足に履かれた靴の底は、踵部分がほとんどすり減ってしまっており、ソールと上部がはがれてしまっているように見える。

とりつくろってはいるが、男性は、この町の住人ではない。
たぶん、帰るところがないのだ。
きっと、朝7時の開店を待ちわびて、やっと暖かいこの店に入ってきた。
4人席に座るには気がひけて、まだ満席でもないのに、わざわざ、2人席に座って、400円のモーニングを注文した。
新聞はスポーツ新聞でなく、むかしから読んでいる「日経新聞」を選ぶ。
一見、身奇麗にしているのだが、他の客は異質なものを敏感に感じて、彼と同じボックスの席を避けるように座っていく。
そして、その残された席に僕が座った。


そうなのだ。
世の中は不況で、大手電気機器メーカーが、何百人という人員削減をやっている。
僕の知人にも、職を失ったもの、失いそうなもの、自ら手を上げてやめるもの、職を探して苦労しているものがたくさんいる。
この男性のように、ふと気がつくと、すぐとなりに、そういった境遇にあるひとたちがいるのだった。


僕に、何ができるだろうか。
苦境に陥っている知人たちを、みんな雇い入れるチカラなどない。
自分、自分の家族、いま一緒に働いてくれている人たち、お世話になっているお取引先、そのひとたちとともに、できる最大限の努力をして、食べていけるだけのものをいただくほかない。
強いチームをつくって、良いサービスをし、ひとりでも多くのお客様に満足いただき、また、お買い上げいただくという、僥倖にすがるほかない。
いま、なんとかなっているからといって、先の保証など、何もない。


待っている人が多くなったので、僕は、その男性を残して席を立った。
振り返ってその背中を見ると、上着の脇の縫い目は、解けて破れたようになっており、シャツがまくり上がって腰の肌が見えていた。


大晦日。
自分の非力さが悔しく、頭にくる。
事業をやっていながら、苦境に陥った昔の仲間達に、気安く職を提供することすらできない。
同じ事業家でも、コメダ珈琲さんのような、素晴らしい事業を大きな規模で展開する能力がない。
ただ、願う。
来年もなんとか、やっていけますように。
そして、願わくば、すこしでも、多くのひとに、多くのひとの幸せに貢献できますように。
いつか、天が許すなら、天がそうせよと言うなら、もう少し、多くの人の役に立てるシゴトを僕に与えてください、と。

ICHIROYAでお買い物をくださったお客様、お取引先様、スタッフのみんな、そして、このブログを読んで下さった皆さん、非力で本当に申し訳ありません。
そして、この1年もまた、支えてくださって、本当にありがとうございました。

来年もよろしくお願いいたします。