ICHIROYAのブログ

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女性中国人経営者Tさんに頂いた感動のスピーチ




結婚式の主賓の挨拶が、心に残ることはあまりない。
主賓ともなれば、極度の緊張のなか、決められた形式を踏まえつつ、新郎新婦を褒めあげなけなければならないから、たいへんだ。

先日、長女の披露宴をさせていただいたのだが、長女の主賓の中国人Tさんから頂いたスピーチが素晴らしかった。

長女は大学で中国語を学び、2か月ほど中国で働かせて貰ったのだが、その時にお世話になったのが、Tさんだった。
Tさんは、僕らより年下の女性経営者。
すでに中堅といってもよい機械関係の会社を、自ら興して経営しており、日本にも支店をもつ。
経営者として、僕など足元にもおよばない実績を持っておられる。

3,4年前、突然、娘が、しばらくの間、中国の田舎にある彼女の会社で働く、というので、驚いた。
しかも、旅費、現地での生活費などは、先方が出してくれるという。
Tさんは、長女が自分のツテでみつけてきて、お知り合いになった方で、長女のことをかっており、自社の従業員に日本語を教えたりして欲しいという。

親としては、とても心配した。
娘にとっては、あまりに都合の良い話である。
中国で働かせてもらい、中国語の勉強になり、旅費も生活費も要らず、いいことずくめである。
しかし、Tさんにとって、どれほどのメリットがあるのだろう。
娘もそろそろ就職を考えなければならない時期だ。
Tさんは、長女を社員にしたいのだろうか。
社員にしていただけるとしたら、願ってもないことだけど、中国の会社であれば、中国の賃金ベースの給与になる。

Tさんの会社に就職するかもしれない、ということを匂わせて、娘は、Tさんから、この好条件を引き出したのではないか、と僕は邪推した。

僕ら夫婦は、娘に条件を出した。
旅費は僕らが出すこと。
Tさんに、一度会わせてもらうこと、である。

忙しい時間をやりくりして、Tさんは僕らが用意した席にやってきてくれた。
そして、Tさんが、いかに、娘をかっているか、娘に何をして欲しいのか、直接、お話いただいた。
僕ら夫婦は、娘を預けることを了承し、深く頭を下げてお願いした。

さて、もちろん、娘は、その中国での体験を無事終えて、一皮むけて帰ってきた。
現地で、娘に会った日本人ビジネスマンが、か細い日本人の女子学生が、中国のそんな田舎で働いていることに、驚愕したという。

しかし、その間、娘がどんな風に中国で暮らしていたのか、具体的には知らなかった。


どんな風に暮らしていたのかは、披露宴のスピーチで聞くことになったのである。

娘は勤務先を退職したし、会社からは遠方でもあり、主賓には、Tさんを頼んだ。
そして、出張の日程をわざわざ合わせてくださったようで、Tさんは、富士吉田市までわざわざ出向いてくれて、主賓のスピーチまで、いただいたのである。

150人を越える大広間での披露宴。
当方の出席者はわずかだけど、田舎のことで、披露宴の規模は大きい。
華やかなドレスを着たTさんが、スピーチに立った。
まず、型通りの挨拶。
ちょっと、中国訛りの、でも、とても流暢な日本語。
きっと、披露宴でのスピーチの日本語の言い回しを勉強されたのであろう、堂々たるものである。
そして、娘が中国でお世話になっていたあいだ、いかに、中国の皆さんの中に溶け込んで、皆さんにかわいがられながら働いていたか、話してくださった。
何から何まで現地の人たちと同じ生活をし、食事やおやつも、何を出されても、娘は、美味しい美味しいと喜んでいただいていた、という。

また、知らなかったことだが、娘が務めていた会社を退職すると決めた時、Tさんは、会社に娘を誘ってくださったという。
しかし、結婚後は、富士吉田の家に入ると決めていた娘の決心は揺らがなかったという。

Tさんのスピーチは、流暢な日本語の、型どおりの締めの言葉で終わった。
万雷の拍手だった。

式の後半、退席されるTさんを、夫婦で見送った。
前日には、京セラの稲盛さんに会っておられたという。
稲森さんを師と仰ぐ経営者の会が中国にもあり、Tさんはその会の会長だか、幹事だかをされているのである。

どれほどお礼を言っても、感謝の気持ちを伝えるには充分ではなかった。

稲盛さんの大好きな言葉。
「動機善なりや、私心なかりしか」

Tさんが娘にかけてくださった愛情、与えて下さった様々なことは、
たしかに、私心のないものであった。

Tさんほどのかたに、私心のない愛情と期待をかけていだける娘を、すこし誇らしく思った。

しかし、娘に、Tさんの愛情に応えることのできるサムシングがあるのか、僕にはわからない。
いつか娘が、Tさんに恩を返すことができるのか、まったく心許ない。
が、そんなことを心配しても、Tさんは笑い飛ばされるだけであろう。


Tさん、ほんとうに、ほんとうに、ありがとうございました。

 

(写真は アンティークの黒振袖。婚礼用。どんな花嫁さんが着たのかな