ナツメグで合法トリップしてみた
サイケデリックな名古屋帯
遠い遠い昔、思えば、僕も反抗的なワカモノだったのである。
嘘だらけで、欲望でどろどろの、自分勝手な、社会の大人たちが、大嫌いであった。
親や大人たちが言うことにいちいち反発した。
時はすでに、1980年代だったが、ドラッグを吸い、大人たちの価値観にNOという、60年代のヒッピー文化の残滓に憧れていた。
それは、ビートルズのサージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブバンドや、ストーンズや、イーグルスのイメージとごっちゃになって、浩然と輝いていたのである。
薄汚い大人たちに、NOといってやるのだ。
そして、ドラッグをやって、何ものかを創造するのだ。
僕は、隣に住むMくんと、トリップすることに決めた。
大麻を栽培しようか、いや、そんなのんびりやっている暇はない。
それに、逮捕されたらたいへんだ。
新聞に載って、就職できなくなる。
合法的にやろう。
そして、僕は、合法トリップの方法をみつけてきた。
その情報によると、香辛料のナツメグには、幻覚作用のあるものが含まれており、大量に飲めば、トリップできる、とのこと。
よし、それだ!
僕はナツメグを一瓶買ってきて、Mくんの部屋のコタツの上に置いた。
どれだけ食べればいいんだ? とMくん。
さあ・・・キャラメル2,3個分ぐらいじゃないか。
Mくんは、ナツメグをちょっと舐めてみて、
ぷっう! 無理、ぜったい、無理!
そこで、僕らはナツメグを製氷機に入れて凍らせることにした。
そしてコタツに入って待つこと1時間、ナツメグ・氷キャンディーが出来上がった。
Mくんと僕は顔を見合わせ、では、と、その氷のキャンディーを飲み込んだ。
生まれた初めてのドラッグ体験である。
どんな幻覚が見えるのか、どれほど気持ち良くなれるのか。
そうやって、僕らはコタツに仰向けに入り、異世界への旅立ちの時を待ったのである。
しかし、いつまで待っても、それは、やってこない。
おい、M、なにか見えるか?
天井が見えるよ。
おかしい。
いくらなんでも、まったく、なんにもない、ということはなかろう。
作用が繊細で、気づかないってことは、あるかもしれない。
僕らはさらに、じっと待った。
しばらくして、Mくんが、むっくり起き上がった。
おい、見えたか? と僕。
いや、バイト、忘れてた。行ってくるわ、とM.
僕はひとり、彼の部屋に残され、それでも、それを待った。
そして、それは突然やってきた。
腹痛と下痢であった。
僕は、無事、便所へとトリップしたのである。