ICHIROYAのブログ

元気が出る海外の最新トピックや、ウジウジ考えたこととか、たまに着物のこと! 

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まじめな、まじめな、まじめな、まじめすぎる話

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歌舞伎衣装 龍と金札 陣羽織

 

先日、TBSの「夢の扉」で、不燃木材を開発した浅野さんの紹介をされていましたが、ご覧になったでしょうか。
製剤屋に生まれた浅野さんが、細っていく木材需要、荒れていく山を憂え、また、実家を火事で失ったことから、『燃えない木材を作れないか?そうすれば、命や財産を守ることができる』と、不燃木材を開発していくお話です。
木材を不燃化(燃えない)ようにするには、特殊な薬剤で木材加工するのですが、浅野さんのこの木材を使うと、中高層のビルも木材で建てることができるようになるそうです。

浅野さんの哲学、着想、行動力、生き様、すべてに感動しました。

その番組で、こんな話が紹介されていました。

浅野さんが不燃木材を発売して以来、たくさんの同業者が、類似品を販売するようになった。あっという間に市場は飽和し、同業者の値引き合戦が始まった。
同業者の値段は、浅野さんの会社の製品を大きく下回り、会社は販売不振に陥った。
しかし、浅野さんは、本来の不燃性能を保つためには、自社の価格以下にするのは無理、と安値での販売を拒んだ。
会社は危機的な状況に陥った。
そのとき、国が不燃木材の品質について、抜き打ち検査を行った。
すると、検査した10社中、法定の不燃性能をもった木材は、浅野さんの会社のものだけだった。

不合格の9社にも言いたいことはあるかもしれません。
でも、もし、それがほんとうなら、9社の経営者は、カネのために、メンツのために、身内のために、魂を売り、お客様を騙しただけでなく、不燃木材が切り拓くであろう未来を消し去ろうとしたのです。

10人の経営者がいれば、9人までが、魂を売ってしまうのか。

浅野さんに深く共感し憧れるとともに、この事実に暗澹たる思いになりました。


呉服業界にも色々な問題があります。
僕の仕事はネット販売なので、押し付け販売はなく、また、着物の目利きについても、僕が全力をつくし、万が一にも、嘘がないように、過大な期待を抱かれないように、と細心の注意をもって販売しています。
浅野さんのこの話に関連して、書きたいと思ったのは、そういった問題ではなく、「アンダーバリュー」という関税に関する話です。

数年前、まだ、海外だけに販売していたころです。
ふと気づくと、自分たちの仕事、海外の消費者にインターネットで直接モノを販売する、ということでは、先頭集団にいて、やや、目立つ存在になり、雑誌に取り上げられたり、講演を依頼されたりするようになっていました。
ビジネス自体はたいした額でもなく、けっして、社会的に広く認知された、というわけではないんですけれど、海外向けネット販売で一定の成功をおさめているというところが珍しかったようです。

そうなると、自分のビジネスがほんとうに、価値のあるものなのか。
隅々まで、皆に誇れるものなのか、と自問するようになります。

そこでひとつの疑問、懸念が膨れ上がってきました。
それが「アンダーバリュー」です。

僕らはebayという海外のオークション会社での販売から始めました。
最初は、右も左もわかりません。
買っていただくことだけで嬉しく、また、すこしでもお客様に喜んでもらおうと、ちょっとしたプレゼントを入れたり、いろいろな努力をしました。

そこで、とくにヨーロッパのお客様は、高額品を買われたとき、「ギフトにチェックを入れて、価格のところは10ドルって書いて送ってね」と、ごく当然のように言われることを知りました。
そうすることで、通関時、お客様が払われる関税の値段が格段に安くなるのです。
僕らは深く考えず、はいはい、お望みのとおりに、と郵便局の発送伝票をそのように書いて送ります。
紛失された場合は、保険でカバーされる金額が10ドルになってしまうので、こちらも困るのですが、それも万一のこと、それでお客様の関税の負担が減るなら、仕方がないか、という感じです。
「アンダーバリュー」とは、つまり、本当より安い(アンダー)値段(バリュー)を通関書類に記載して、関税を低くおさえる、こうった不法行為のことです。

このことをこのまましておいて良いのか、僕は悩みに悩みました。
もちろん、この行為は関税法違反であり、先方の脱税幇助にもなる行為です。

が、古着や骨董というものの価値は、その道のものにしかわからないもので、税関でとめられる可能性は非常に低いのです。
そのため、周囲の同業者は、お客様の言うとおりにこの「アンダーバリュー」をおこなっているようですし、それが証拠に、買い慣れた多くのひとが、そういった依頼をしてきます。
僕が直接見たわけではありませんが、ebayのフィードバックに、「アンダーバリューをしなかったから」として、ネガティブ(たいへん悪い)をつけるひとまでいたのです。

「アンダーバリュー」をしながら、この仕事を続けていくのか。
海外向けのネット販売のフロントランナーとして、そんなことでいいのか。
しかし、「アンダーバリュー」をしなければ、たくさんのお客様が逃げていき、商売そのものが成り立たなくなるかもしれない。

僕は悩みに悩みました。

そして、結論は、

今後、いっさいのアンダーバリューはやらない。
ビジネスの隅々まで、合法精神で律する。
それで、商売がダメになっても、受けいれる。

でした。

「アンダーバリューはしません」とお客様に伝えると、ものすごい反響が、ヨーロッパから来ました。

「みんなやっているのに、お前のとこだけ、そんなことをしてどうなる?」
「そんなやりかたでは、まちがいなく、商売はできなくなる」
「お客様へのサービスの気持ちはないのか?」
「政府へ税金を払うことを、なんで、あんたに強制されないといけないのよ」

それを読んで、真っ暗な気持ちになりました。
でも、もう決断はゆるぎませんでした。

ちゃんと関税も払う、それが当然、というお客様とだけ、全力で商売をさせていただくのだ。
売上は何割か落ちる。
でも、落ちきったところから、また、こつこつと、そういったお客様をおひとりおひとり、味方にしていくのだ。
それが無理なのなら、こんな商売をやっている価値がないのだ。
そのときは、こんな商売とはおさらばだ。


あれから、数年たちました。
いくらかお客様も失いました。
海外向けの売上もいくらか失いましたが、リーマンショックの影響による落ち込みが大きく、それによってどの程度の落ち込みがあったのかは、正確にはわかりません。
いまでは、海外からのご注文には、「アンダーバリューはしませんので、関税がかかる場合があります」と最初の段階から何度も何度もお伝えするのですが、関税がかかったとき、お客様からの罵詈雑言を浴びせられることもあります。

僕は、四角四面すぎる人間なのでしょうか?
最近、EC業界で有名なあるかたに、この話をしたら、「ぼくならアンダーバリューを続ける」と言下におっしゃいました。

浅野さんの話は、僕の話とは、まったく違うレベルなのはわかっています。
でも、僕なりに、倫理と商売の間で悩む、そして、文字通り、生きるか死ぬかの大問題だったのです。
もし、10人の競争相手がいて、9人までが、とくに咎められなければ、「ささいな」違法行為をよし、とするなら、「ささいな」違法行為を良としない、自分は、生き残れるのでしょうか。
相談したその方の答えは、そういった現実をありのままに見つめたことから来るものだと思います。

でも、僕はこのやりかたを変えることはないでしょう。
そういう考えをするのが良くも悪くも「僕」であり、僕には、僕のやりかたでしか商売ができないからです。

幸い、いまでも、それでも良いという海外のお客様に支えられています。
加えて、国内向けに始めた販売も、これを読んでいただいているあなたさまをはじめ、多くのお客様に支えていただき、順調に推移しています。

もうひとりのEC業界の有名なかたに、良い言葉を教えてもらいました。
たぶん、そのかたに同じ質問をしたら、僕の決断を支持してくれるだろうと思います。

「正しきによりて滅びる店あらば滅びてもよし 断じて滅びず」 

この言葉を信じて、がんばっていきたいと思います。
弊社を支えて下さっている皆さん、ほんとうにありがとうございます!

 

PS この言葉を教えて下さったのは、道端さんです!